第34話 兄と妹③

 今宵と2人でダンジョンの1階層へ入る。


 「……これがダンジョン」

 「ファンタジーだよな。2階層へ向かう道は人も多くて魔獣も出てきにくいから少し行ったら小路にそれるぞ」


 ビッグマウスを1,2匹今宵が倒すのを確認したら、小部屋のきポイントへ行くか。


 「いないね」

 「もう少し行ってみよう」


 しばらく歩くと、1匹のビッグマウスを発見した。


 「お、いたな。今宵、剣を振る時は周りにも気を付けるんだぞ。俺に当てないように」

 「うん。やってみるね。やぁ!」


 タタタっと小走りで素早くビッグマウスに近寄ったかと思ったら、一瞬で倒してしまった。初めってもう少し躊躇とかするものじゃないの?


 「うぇぇ。斬った感触と血が……、なんか可哀そう」


 探索者が受け入れられない原因って正にこれだよね。特にダンジョンが出来た当初は酷かったそうだが、愛護団体が政府批判を繰り返してそれに政府が対応したために、結果としてスタンピードを誘発した一因とも言われている。


 一般市民の多くの命が失われた事で一時的に批判は減ったが、これは現在でも全国で活動家によって批判展開されている。


 「まあ、それはわかる。ただ魔物は倒さないとスタンピードが起きてこっちが死ぬ事になるからな。ダンジョンに潜るなら慣れるしかないぞ。それとも今日はここで止めておくか?」


 妹が魔獣を倒せないと言うなら、ここで直ぐ引くというのも手だろう。この後は人型のゴブリンとの戦闘も予定してあるから、動物型の魔獣よりも禁忌感が強いだろうし。


 「んー大丈夫だよ。魔獣を倒さないといけない事は分かっているし、食べるためのお肉は魔獣だろうが、動物だろうがやってる事は同じだしね」


 おー、精神的には大丈夫そうかな? まあどんなに可愛い魔獣がいたとしても、基本的に魔獣を倒すというのは人類という大きな括りで見れば必要だ。


 自分の手を汚して平和を守るか他人に任せた挙句、批判するかの違いだけだ。人それぞれが助け合い、社会を形成しているから今の日常があるので、魔獣を倒すから偉いという訳では勿論ないが。


 現在ではスタンピードを防ぐと言う目的よりも、ダンジョン内の出来事で環境破壊が起きないにも関わらず、エネルギー事情や食料関連、素材や資源という利益の面で見てもダンジョン攻略は重要だ。


 命を賭けて攻略をする探索者がいるという以外は夢のような恩恵である。


 「魔獣には魔石がある。ビッグマウスだと……こんな感じで取り出す。肉を持って帰る場合は、ここを切って血抜きをする。まあ、今は持って帰らないけど1匹魔石込みで350円になるぞ」


 「頑張って慣れるよ」

 「そう言えば、今宵の今のステータスってどうなってんだ?」


 他人にステータスを聞くのはマナー違反だが、妹なら良いだろう。


 「今はこんな感じだよー。ステータスオープン!」


 ステータスは周りに見せようと思いながら開くと見せる事が可能だ。


 <名前>:蒼月 今宵

 <job>:なし

 <ステータス>

 LV  : 5

 力  :E

 魔力 :F

 耐久 :E

 敏捷 :E

 知力 :E

 運  :B

 魔法 :なし

 スキル:武術全般3


 えぇ? 高くない? 

 俺なんてこの間までGやFがゴロゴロあったと言うのに、今宵の場合は魔力のFが最低で最高値はなんと運のBである。

 これならステータス値だけで見れば、既に5階層で確実に戦えるレベルだ。


 「お、おお。何か凄いな。武術全般を持ってるのは前から知ってたけど、どういうものなんだ?」

 「お兄ちゃんが探索者高校受けるって言ってから習いに行った道場での練習だと、剣、槍、弓、体術は身体が理解していて動く感じかな? 多分武術って名前の付くものならいけると思う!」

 「弓もなの? 何か凄いな。流石に国立から勧誘が来てただけはあるな」

 「勧誘は来たけど行かなかったから、来年受かると良いなぁ」

 「まあダンジョン関係と運動関連は問題ないでしょ。問題は勉学だな」

 「お兄ちゃんの同じ頃より成績いいもーん」

 「確かに! まあ驕らず頑張るんだぞ」

 「はーい」


 これなら早めに魔法を覚えるための体内魔力の循環を始めた方が良いかもしれない。

 と言うより、魔法を何も覚えていない状態で壁を越えると空間魔法などのレアな物が出ない可能性がある。


 俺が箱庭で最初にレベルが上がらないように矜侍さんにされたのも、先に魔力制御を覚えて魔法を覚えさせるためだったはずだ。


 しかし俺のレベルの上がり具合を考えれば、今日明日にでも今宵は壁を超える可能性すらあるように思う。

 そうなればどの道、それまでに魔法を先に覚える事は難しい。


 俺が覚えたのが3ヶ月以上経ってからだった事を考えれば、生活魔法を取らせて魔法関連を練習させる方が良いか……。


 「今宵、もし壁を超えてレベル6になっても直ぐにスキルや魔法は取らずに、まず何が取れるか俺に教えてくれ。凄く重要だからな」

 「壁を超えるのって難しいんでしょー? そんな直ぐは無理だとは思うけどわかったー」


 話ながらてくてく歩いているうちに例の小部屋に辿り着いた。

 戦闘音もない事から、貸し切り状態で使えそうだ。




 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る