第22話 箱庭④

 目が覚め、懐中時計を見ると午前6時。

 どうやら4時間ほど眠れたようだ。

 ついでにネジも巻く。


 顔を洗い、運動着に着替える。

 風呂場があるコンテナには着替えや洗濯機まで置いてあった。

 ただ、昨日に着ていた制服は洗濯表示を見ても洗濯機にかけて良いのか判断が付かず、手洗いして干しておく。

 手のマークがあるから手洗い可だと思うんだよね。


 目覚めたばかりで眠かった感じもなくなり、意識もしっかりとしてきた。

 こんなにすごい場所や指導を受けられる事がどれほど幸運かという事は、さすがの俺でも分かるために準備は丹念にしておきたい。

 俺はそう思い柔軟を始める。


 「お、起きてたか」


 ひととおり柔軟を終えた所で、矜侍さんがやって来た。


 「おはようございます」


 「ああ、おはよう。ダンジョンでは仮眠をとっても出来るだけ音を立てないようにするために、目覚ましは使えない。どのくらいで起きるという意思を持って寝れば起きられるようになる。それも訓練だ」


  確かに、ダンジョンで日帰りが可能な階層は移動だけなら10階層前後と言われている。

 それ以上潜る事になるなら野営もする事になるのか。


 「まあ、安全に野営する方法もあるが基本を覚えておく事も重要だからな。っと洗濯もしたのか。洗濯も生活魔法を覚えればしなくても良くなるから頑張れよ」


 「生活魔法は覚えない方が良いと聞いた事があるのですが?」


 うちの両親はlv6になった時にどちらも生活魔法を覚えている。

 当時はまだ魔法が覚えられるという事で生活魔法が大人気だったらしい。

 今では身体強化一択となっていて、生活魔法を覚えていると馬鹿にされるらしいが……。


 「何を言っている? 生活魔法が使えれば属性魔法の基本が覚えられる。全ての魔法の基礎が生活魔法と言っても良い」


 「そうなのですね。レベル6になった時に選ぶのは身体強化一択と言われてるのを聞いたもので」


 「はぁ~……、言われている~、世間では~、常識では~か? その認識を壊せと言った事をもう忘れたのか? 俺の言っている事が信用できないか?」


 心底失望されたような溜息を吐きながら、俺に語りかけてくる。


 「はぁ、、まあ、一度教えると言った以上は手は抜かないが。そもそも魔法やスキルは壁を越えなくても覚えられるという事すらお前は信じてないわけだ。俺が暇で暇つぶしにここに来ているとでも? まあ不安は一応解消しておいてやるが、スキルの様にパッシブではないが、魔法にも身体強化アビリティライズというものがあるしスキルと魔法は効果が重複できる。はぁ、、まあ、疑った状態で覚えられる程に甘くはないので無駄な時間になるかもな」


 俺の不用意な一言が矜侍さんの逆鱗に触れてしまったようだ。

 俺としては信用してないというよりも、ただ世間一般に言われている事を聞いただけのつもりだった。


 だが確かに良く考えてみると、壁を越えずとも魔法やスキルが覚えられるという話は教えてもらっていたし、この場所や矜侍さんの能力を考えると俺に時間を割いてくれている事がどれほど貴重なものかもわかる。

 本当に失敗した。


 確実に死ぬ場面で命を助けくれた。

 さらには俺の長年の悩みであるレベルが上がらない事を解消してくれて、強くまでしてくれる。も

 しかすれば、世界一幸運な事が起きたと言える程の事だろう。


 「申し訳ありませんでした」


 俺は心の底から謝った。


 「まぁいい。だがお前にはどうでも良いかもしれないが、俺の時間を奪っている事だけは忘れるな。今日は瞑想以外は昨日と同じだ。瞑想時は今後は体内の魔力を意識しながらしてもらう。本は読んだな? ではランニングから始めろ。昨日教えた事を思い出しながらやれよ」


 「はい」


 頑張ろう。

 俺はそう思うと、ランニングを始めたのだった。






 ランニング、素振り、型の稽古が終わり、瞑想の時間になった。


 「よし、魔力を意識しながら始めてみろ」


 座禅を組みながら瞑想する。

 本では血管と同じように魔力路が全身に毛細血管のように張り巡らされていて循環しているとあった。

 体内の魔力の流れを感じようとするがわからない。

 ふと気づくと、矜侍さんが後ろにいて肩に手を置かれる。


 「まあ、魔力を独力で感じるのは魔法も覚えてない場合は何年もかかる事も多いから短縮するぞ」


 そう言うや否や、両肩が熱くなり、全身にその熱が回る。


 「うっ」


 「今、全身を回っているのが魔力だ。俺の魔力がお前の魔力を侵食している状態だな。極力痛くないように同期するようにしているが、異物である事には変わりがない。通常他人の魔力を受け入れれば、操られてしまう事もあるが、回復魔法やバフを受ける時は受け入れる気持ちでいる方が効果が高くなることは覚えておけ」


 全身を何かが回っている事がわかる。


 「俺が回してる魔力に抵抗してみろ」


 言われた通りに矜侍さんの魔力に抗うように意識する。

 すると一瞬何かが抵抗しようとして瞬時に消えた感覚があった。


 今のが俺の魔力か。

 これは魔力を理解する練習。

 ならば先ほどの魔力を抵抗させずに、順応して流す事でも分かるようになるのでは? 

 そう思い先ほど感じた魔力を矜侍さんの魔力に同調させて流してみる。


 「ほう? 抵抗させずに順応させたのか」


 ハッと気づく。

 言われた事にこれは逆らった事になるのでは? 

 今朝怒られたばかりであるのに、俺はまたしてはいけない事をしたのかも?


 「大丈夫だ。そんなにビクビクするな。魔力抵抗は別のスキルを覚えるためにも重要だから指示したが、、スキルを覚えられなくても損するのはお前だしな。それに一度言われた通りにした後に試した事は分かっている。ただ、今回は俺が味方だからわかってしたのかもしれないが、敵の場合は傀儡にされたり、最悪は死ぬ事だってあり得る。自分の意思でするという事はそう言う事だと覚えておけ」


 「はい」


 「では、この後は昨日の通りだ。瞑想は自分の感覚で止めて良い」


 そう言うと矜侍さんの気配が消える。

 俺はそのまま瞑想し、先の感覚を忘れないように魔力を全身に巡らせ回す練習をするのだった。


 


 

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