第17話 挿話-十六夜椿➀-

 ―― 十六夜椿視点➀ ――



 私には小さな頃からの幼馴染がいた。

 その頃の彼、蒼月矜一は知性に富んでいて行動力もあり優しく私のヒーローだった。

 だから、矜一を好きになるのは早かった。


 家が近い事もあり、よく矜一の後ろを彼の妹の今宵ちゃんと共について行った。

 小学4年生の頃になると私や今宵ちゃんと遊ぶ事は減り、彼の周りは何時も男の子、女の子関係なく友人で溢れていた。

 それでも家が近い事もあって、時々遊んでいると矜一の男友達たちから「女と遊ぶなんてだせー」などと揶揄われる事も多かったが、彼は常に「そんな事ないよ。楽しいよ」と言ってくれたり、悪戯をされそうになると守ってくれた。


 私の身体からだが少しずつ女性らしくなってくると、どうしても矜一を目で追ってしまう。

 漫画で読んだシチュエーションと遊んだ時の内容をダブらせて部屋で悶えたりと今思い出すと、恥ずかしくてなかった過去にしたいくらいだ。


 その黒歴史の筆頭が、小学5年生の時の出来事だ。

 矜一は人気も高く何でもできたから当時は誰にも取られたくなかった。

 その日は何故か何時もは行かない道に惹きつけられて、そこを通ると露店があった。

 その露店には当時TVなどで流行していた婚約契約指輪なるものがあり、値段を聞くと「お嬢ちゃんが今持っているお金の全額が出せるなら譲ろう」と店主に言われて、一も二もなく購入し使用方法も教えてもらった。


 その店主は、


 「その指輪はえにしはあるが、失望や周囲の影響、不幸などで切れてしまう事を繋げるものだ。相手の事を思っていれば切れはしない。頑張りなさい」


 と言って見送ってくれた。


 はやる気持ちを抑えながら私は矜一の家に行き、お互いの血を登録し契約内容を決めた。

 店主さん曰く、将来結婚するという事と簡単な2つほどの願いに効力があると言っていたので、一緒に居たいから登校は出来るだけ一緒にする事、お互いに指輪を付ける事を条件にした。

 矜一がお互い指輪を付けるという事は恥ずかしいという理由でそれは断られたが、つけたい時で良いから矜一は付けてほしいという譲歩で契約が出来る事になった。


 その時は本当に嬉しかった。

 中学1年生の頃までは。

 それまでの私は矜一に釣り合うようにと必死に努力した。


 それが変わり始めたのは確か、小学6年生の学校の授業でダンジョンを見学してステータスを得た時だ。

 その時は問題にならなかったが、その後矜一はレベルが上がる事がなかった。


 中学1年生が終わる頃には何でもトップだった矜一が負ける事が増えてきた。

 それと同時にレベル1が如何に良くないかという悪口を言う子も増えた。

 私は憤慨して注意したりもしたし、上がらないはずがないと矜一に期待もしていた。


 その頃の私は次第に薙刀に没頭し成果もあげた事で矜一との関りがどんどん減っていった。

 中学3年生の頃には結果を出す自分と比較して、どうして頑張らないのだろうと思うようになった。


 指輪を手に入れた頃から、矜一が何かをするたびに私の感情が大きく動くような気もする。

 他の人が失敗をした時と矜一が少しのミスをした時に感じる失望感の大きさが違うと言えばいいのだろうか?

 いや、私は人を色眼鏡で見ることは嫌いなのだから、そんなことはないはずだと思い直す。


 きっと周りの意見は正しいのだろう。

 頑張ってと言っても矜一の結果がついていないことは確かなのだ。

 体重も増え、自分の身体からだの管理も出来ないのかと失望してしまう。


 どうして私はこんな指輪を買ってしまったのだろう。

 どうにかして矜一の指輪を壊したいがそのチャンスすらない。


 家が近すぎる事も問題だと思った。

 そこで今の矜一では絶対に受からないだろうと言える日本で最難関の高校の一つを目指す事にした。

 そこは幸いにして家からも近い。

 格差を見せつけ、お互いの居るべき場所が違う事をわからせて、指輪を壊してもらうつもりだった。

 私だってもう高校生。

 中学時代はこの指輪のせいで告白を全て断ってきた。

 友人が恋愛の話で盛り上がっていたように、私も新しい恋をしたいのだ。


 そうであるのにどこからか私が国立第一東高等学校を受験する事が矜一にバレてしまって、彼も一緒に受けると言うので心が沈む。

 受かりませんようにと願う。

 何故、私とはもういるべき場所が違うという事をわかってくれないのだろうか。

 どうせ落ちると言い聞かせて私は勉学に励み、そして受験を向かえる。




 

 なんと、矜一も同じ高校に受かってしまった。

 これで朝の登校はまた一緒に行かなければならない。

 私は何の罪を犯したのだろう。



 国立第一東高等学校の入学式を終え、席の近くの人達と自己紹介をする。

 九条レンは整った容姿を鼻にかけず、志が高く話も面白い。

 一ノ瀬葵は可愛らしく天然さん。

 堂島海斗は大人びていて冷静だ。

 この3人とは早くも馬が合い、明日の休日にダンジョンに一緒に行こうという話になる。


 そこでダンジョンに入る場合のパーティで推奨されている人数が5~6人という話を九条レンがした事から、もう一人メンバーをという話になって、榎本えのもとという男子を堂島海斗が誘って5人パーティを組むことになった。


 次の日、朝早くからダンジョンに潜る。

 緊張と期待で胸がドキドキする。

 レンと海斗は既に探索者登録をしていて、レンに至ってはランクがDとダンジョンで稼げるレベルのランクだった。

 ギルドに行きレンや職員の方に説明を受け1階層に潜る。


 聞いていたように私も葵もビッグマウスを簡単に倒すことができた。

 ただ、生き物を斬るという感覚は少し嫌だったが、慣れるしかないだろう。

 葵に至っては杖で殴るために精神的に辛そうだった。


 1階層は直ぐに切り上げ2階層に向かう。

 レンと海斗は全く緊張もしていない。

 だからこちらも安心だ。


 ゴブリンはビッグマウス以上に厳しかった。

 倒す事自体は一瞬であるのだが、やはり斬った感触だ。

 ただ、5人では簡単すぎて練習にならないので3階層まで行き昼に一度外に出て昼食、午後から夕方までまた3階層で狩りをする事になった。


 レンと海斗は手を殆ど出す事はなく、私と葵と榎本に連携を教えてくれる。

 慣れてくると充実感が襲って来る。

 小さな歩みでも強くなっていく実感。

 一瞬、矜一の怠惰な姿が思い出され気落ちするが、ダンジョンで気を抜くわけには行かない。


 昼食を挟み帰る頃には、2階層はもう私と葵と二人なら何も問題がない状態、榎本も一人で簡単に倒せるまでになっていた。

 だが、レンが言うにはここでもっと慣れて置くべきだという。

 だから明日も2階層で一緒に狩ろうという話になった。


 「すまないな、私がダンジョンが初めてなせいで……、レンや海斗はもっと上にいけるのに」


 「いや、最初が大事なんだよ。ここは簡単だからと無理をして上に行くよりこの5人で連携を高めて行けば結果的に強くなれる。俺達5人は相性良いよな? 海斗?」


 「だな。椿も葵もすこし人型という事を意識しすぎだが呑み込みは早い。榎本は早い段階でなれてたしな。今は葵にも慣れるために前衛をしてもらっているが、上に行くほど回復は必要だし、椿と榎本とレンが前衛、俺と葵で後衛と本当にうまく分かれている。出来れば今日明日だけと言わずパーティを組んでほしい」


 「私で良ければ」

 「あたしも」

 「ワイもや」

 「よし、決まりだな」


 私たちは話し合いでも探索でも息があった。

 日曜日も2階で1日狩りをして充実した。

 こうやって切磋琢磨していけばこの高校でもきっとやっていけるだろう。


 

 月曜の朝になりまた気分が沈むが、少しの時間だと思いなおして矜一を呼び出し登校する。

 教室について少しするとクラスが騒がしくなった。


 

「1-5、注目ー!! 端末で学校の雑談掲示板を見て見ろよ! 第一東の制服でボコられてこんなに弱いやつは落ちこぼれ入学の1-5のやつの誰かだって噂されてるぞ! 最下位君のせいで俺ら落ちこぼれだってよー!」


 クラスメイトの言葉を受けて掲示板を見ると矜一らしき人物が写っていた。

 なんで矜一はこの学校に受かる事が出来たのだろう。



 そして通常の授業が始まりダンジョンにも5人で入り1ヵ月経った頃の夜、葵から端末に連絡があり、それを見ると矜一がまた掲示板に載せられて、今度はゴブリンに負けていた。

 私がダンジョンに入ってすぐに倒せたゴブリンにだ。

 本当に情けない。


 矜一には無事であってほしいが、ゴブリンにさえ負けてしまったと言う事実に、幼い頃に自分のヒーローだった矜一を思い出し、重い気持ちで床に着くのだった。



 

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