第18話 ゴブリンの騎士

 翌日、椿と一緒に登校する。

 椿にしては珍しく、こちらにチラチラと視線を何度か送ってくるので話しかけてみたが、何時もより苦虫を潰したような眼を向けてくるだけで会話は成立しなかった。


 クラスに着き、席に座ると1ヶ月前に俺が一般探索者に”かわいがり”を受けた時に絡んできたやつ‥‥‥ 青木修二あおきしゅうじがやって来た。


 「レベル1、お前マジで俺らのクラスの評判下げるなや」


 最近では俺はレベル1と呼ばれるようになった。

 生体認証で自分のデータが端末に反映され、そのデータは端末があれば検索する事で全員が見る事が出来るからだ。


 「何の事だ?」


 前の話をぶり返して来たのか?


 「はっ、これだよ」


 彼の見せてきた端末を見ると俺がゴブリンの前で片膝をつき、剣を逆手にして地面に突き刺していて少し頭を下げた状態の写真が貼られている。

 そしてそれを投稿した奴が書いたのか、『例の子デブ、ゴブリンの騎士となる!』 と書かれていた。


 確かにその写真ではゴブリンが俺の主君で俺があたかも配下のような絶妙な状態が写っている。

 恐らくこの投稿者が石を投げた本人だと思うが、石をぶつけられてその後にゴブリンの攻撃を受けた後の出来事だ。


 「これはこの投稿した奴に俺が攻撃をされて、そのせいでゴブリンの攻撃を受けた直後の写真だ」


 そう言ってその時の事を話すが、


 「はっ、だせぇ。言い訳かよ」

 「ゴブリンの騎士(笑)」

 「魔獣に忠誠を誓うとか、人じゃ‥‥‥ あ、子ブタ?」

 「「「キャハハ」」」


 事実を話すが、周りは馬鹿にしてくるだけで誰も話を聞いてくれない。

 相手にしても無駄なので俺はスルーを決め込む。

 この1ヶ月で5キロは痩せたので完全にぽっちゃりだぞ!

 欧米基準であれば太っているとすら言われないくらいだ。


 椿はこれを知っていたからこちらを気にしていたのかな。

 教えてくれれば良かったのに。

 周囲を無視して授業を受けるが、休み時間になる度に席の周りで馬鹿にされる。

 入学した以上は卒業したいが、ダンジョンで稼げるという事もわかっている。


 俺がやられた行為は、俺だけでなくダンジョンの階層によっては誰しもが命の危険を伴うものだ。

 話をしても信じないということは、自分たちは大丈夫と過信しているからだろう。




 午後の剣術の選択授業の時間になった。

 剣道経験者だというクラスメイトが、俺との打ち合いで執拗に体に当ててくる。


 「そんな事じゃゴブリンは守れないぞ」


 当てつけにそんな言葉を吐かれるが当然無視だ。

 昨日ゴブリンに受けた打撃は今朝起きると痛みはほぼ無くなっていたのだが、何度も肩をあげて剣を振っている事で痛みが出てきた。


 そしてその隙を当然のように狙われて更にダメージを受けるという悪循環だ。

 ただ、それでもこのお調子者は俺へ攻撃を当てた時に、何故俺が弱いのかという事を言って馬鹿にしてくるのだが、俺からしてみればそれを改善すれば強くなれる事に気づいてからは、自分の中では有意義な時間となった。

 有意義でもムシャクシャはするけどね。


 1日の授業が終わり清掃をして早足で帰宅する。残っていても馬鹿にされるだけで良い事はないからだ。

 剣術の授業で自分の悪い所がわかり、ムシャクシャしている事もあってゴブリンで悪い所を直しながら、イライラをぶつけようと今日はダンジョンの3階層に向かう事にする。


 家に戻り昨日手に入れた魔石をギルドへ売る。19個の魔石は1900円と貢献ポイントになった。

 ゴブリンでは稼げる気はしないが、戦闘練習という意味では人型である事もありビッグマウスよりは練習になるだろう。


 


 1時間ほどでダンジョンの3階層に到着した。

 慎重に探索をしていく。

 3階層はゴブリンが基本的に2匹ペアで周回しているので昨日の最後と同じやり方で屠って行く。


 足運びや剣筋、目線など授業で指摘された事を意識しながら倒していくと、気のせいかもしれないが少し早く倒せるし余裕がでるように思う。

 主要道路から外れた所で2つ続きの小部屋を発見する。

 最初の部屋にゴブリンはおらず、警戒しながら入りその先の部屋を見ると2匹のゴブリンがいた。


 一気に突進し2匹を倒す。

 と同時に先ほどいた部屋で気配がした。

 1つ目の小部屋が見える位置に行くと沢山のゴブリンが見えた。


 「罠かよ‥‥‥」


 3匹までならやれると思うが、見る限り10匹はいるだろう。

 同時に攻撃をされた瞬間に俺は死ぬ確率が高くなると考え、どうにかして小部屋を抜けて逃げる事に決めた。


 この部屋の入り口で戦えば囲まれる事はなさそうに思えるが、2匹は横並びで来れるような広さがある。

 少しでも倒すのが遅れれば回り込まれて、周囲から攻撃されることになる事が予想される。


 「無理にでも突入して切り倒し、避けながら脱出する方が生き残れるか?」


 タイミングを伺っていると、今いる部屋でもゴブリンが10匹ポップする。


 「最悪だな」


 一刻の猶予も無くなったために、形振り構わず隣の小部屋へ移動しゴブリンの数が少ない所へ突撃した。

 一瞬で2匹を切り殺し脱出を試みるが、移動方向に割り込まれてしまう。

 それを切り殺し進もうとするが、その死体が邪魔で足が止まる。


 「ぐふっ」


 その瞬間に背中を棍棒で殴られた。

 ここで昨日の様に膝をつくわけにはいかない。

 付けば終わりだからだ。

 形など気にする暇もなく剣を振り回し、ゴブリンを威嚇するが先ほど沸いた10匹もこちらに来たようだ。


 俺は囲まれながらも攻撃する。

 棍棒で何度も殴られるがアドレナリンが出ているせいか痛みはそれほど感じない。

 ただ、死が迫っている事だけがわかる。

 15匹は倒した所で俺は膝をついてしまった。


 「はは、ここまでか。俺は死ぬのか」


 呟いた程度のつもりが殊の外大きな声で自分の耳に自分が死ぬという言葉が響き渡った。

 今日ここに来たのはゴブリンは倒せるという慢心のせいだという事にも気づく。

 剣を必死に動かすが、背面を何度も殴られ剣も落としてしまった。


 「両親や妹は悲しむかな。不出来でごめん」


 諦めたその時、


 「大丈夫か?」


 という声が聞こえ周りのゴブリンが一掃された。

 しかし既に俺は何も答える事が出来ずに倒れ伏すのだった。



 

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