ダンジョンで成り上がれ!~幼馴染からも嫌われてゴブリンにさえ勝てなかった俺が、ダンジョンルーラーの指導を受けたら強くなれたので妹と無双します~

うし。

第一章 レベルの上がらない男

第1話 入学式

 「満開の桜と木々の新緑、美しい青空が祝福しているかのようなこの良き日。ここに国立第一東高等学校第20回入学式を挙行できますことは、新入生はもちろん、私たち教職員、在校生にとりまして、大きな喜びでございます。さて、本校は、数ある高校の中――――――

――――――終わりに、新入生諸君の充実した高校生活を願って式辞といたします」


 年の頃は40代後半だろうか? 

 筋肉隆々きんにくりゅうりゅうで胸板が厚く、それでいてスーツの下にベストを着こんでいるせいかウエストがスッキリしているように見える体格がやたら良いイタリアンマフィアのような風貌の男が、壇上を降り近くの椅子へと向かっている。

 あれがこの高校の校長らしい。



 あの風貌で「満開の桜と――美しい青空が祝福してる」なんて冒頭で言われた時には、吹き出しそうになってしまって、厳粛な入学式の空気を壊してしまう所だった。


 いや、むしろ俺以外にも絶対に笑いを必死に耐えたやつは沢山いるだろう。

 しかも式辞だから言葉も丁寧で……。


 危ない! 思い出すだけで肩が震えそうになる。

 心を落ち着かせていると、校長の後は来賓祝辞で今は市長が話しているようだ。


 ちらりと壇上の横を見ると次の挨拶の新入生代表だろうか? 

 腰まである黒髪に二重でぱちりとした目、椅子に座りながらもすらりとした手足である事が伺える美少女が控えている。


 俺はさらに視線をずらし左斜めの方向に座っている女生徒を見て溜息を吐いた。


 長い髪をポニーテールにまとめ、凛とした姿勢で壇上を注視している。

 彼女は家が近く幼稚園からの幼馴染で十六夜 椿いざよい つばきだ。

 小学5年生の時に大きくなったら結婚しようねと言われ、当時流行していた婚約契約指輪なるものを持って来た。


 この指輪は作成者が不明と言われているにもかかわらず、有力者の話を真実とするならば、他の有用なダンジョン用の魔道具も同じ作成者が作ったものとだと言われている。


 お互いの指輪に相手の血を登録し指輪を着けていると、ダンジョン内で遭難してしまった時に、相手の居場所が何となくわかる効果とステータスの運が少し上がり、生存率が高くなると言われている。


 まあ、本物は探索者の平均収入の1年分の値段がすると言われていたほどに高価だった。

 だからあの時に小学生だった椿には高すぎて買えたはずがないので、持ってきた指輪は偽物だけどね。


 また何故、婚約契約指輪と言われるかについてはこの指輪にお互いの血を登録した時点で浮気が出来なくなる効果もあると言われていたからだ。


 そしてその効果は契約と付いているようにその時に交わした内容が一方的なものでも履行され、その解除には相手の指輪を壊す必要があるらしかった。

 椿がこの指輪に血を! と迫って来た時には戦慄を抱いた。


 ただし、相手は幼馴染の美少女なので迫られた時点ですぐに了承しましたけどね?


 確かお互いの血を指輪にたらし、指輪を付けた時に椿はずっとこの指輪を一緒に付けようねと言ったが、俺は恥ずかしいから外したいと言う話をした気がする。


 他にも何かそれっぽいゴッコ契約をした気もするが、忘れてしまった。

 なぜこれだけ覚えているかと言えば、椿は律義に今でもそれを付けているからだ。

 ちなみに俺は付けていない。


 ただ、仲が良かったと言うのも中学1年の途中までだった。

 小6で国民全員が得る事になるステータスとレベルを見られるようになった後からは俺のレベルが上がる事が一切なく、周りから落ちぶれるごとに嫌悪を抱かれていたのは本当に悲しかった。

 

 逆に彼女は剣術スキルを手に入れてから剣道や薙刀術なぎなたじゅつを習い始め、どんどんと頭角を現して中学3年生の頃にはlv5れべるご以下の全国大会で(lv6以上lv15以下の大会は一般・プロの部、lv16以上の大会はエキスパートの大会)女子の部で優勝したほどの腕前だ。


 まだ仲が良かった頃は、ダンジョンでしか使えないけど、今持ってるのは静形薙刀しずかがたなぎなたと言って静御前しずかごぜんにちなんだ薙刀なんだよと可愛らしく話してくれていた。


 中3になると俺以外はほぼ全員がlv5になっていて身体能力で俺を上回るやつも多くなった。

 ストレスからドカ食いをして太った事も合わさって周りから呼ばれる時はデブだったし、移動中に足を引っかけられたり掃除中にバケツの水を掛けられたりもした。

 それでも先生は見て見ぬふり。

 

 そんな中、彼女だけは嫌悪を俺に示しながらもなぜか一緒に登校してくれた。

 その登校時間は会話もなくほぼ無言で、一緒に並んで登校をするなんてイベントは彼氏彼女の関係に思われてしまうからと少し離れて歩いてほしいと言われたりもしたが、それでも嬉しかった。


 小学生の頃には体調不良でも、一緒に並んで登校するために迎えに来ていたというのに、月日が経つにつれて人間関係に変化が訪れるという事は仕方がないのかもしれない。


 中学卒業間近になって急に彼女が国の最難関校の一つである国立第一東高等学校を受験すると聞いた時には離れてしまえばそれで終わりだと思い、俺の成績では少し難しかったが、自分もそこの入試を受けて今はこうして同じ場所で入学式に出席する事ができた事に安堵している。


 「――以上を持ちまして、第20回入学式を閉会いたします」


 っと考え事をしてる間に新入生代表の挨拶はいつの間にか終わり司会が閉式の挨拶をしていた。この高校では校歌は歌わなかったのだろうか? 

 起立していないから歌ってないはずだ。まさか俺だけ座ってたなんて事はないよね?


 「新入生代表ヤバかったな」

 「綺麗な人なのにね」

 「校長を見てもみんなザワつかなかったのに一瞬ザワついたからな」


 入学式が閉会したためか周りから声が聞こえるが、新入生代表の挨拶で何かあったのだろうか? 

 考え事をしていたせいで聞けていなかった。


 そしてやっぱりみんなも校長先生の容姿と言葉遣いが一致してない事で笑いを耐えていたんじゃないか!


 俺が陽キャならば、ここで近くの人に「新入生代表の挨拶で何かあったん?」とでも言って話かけて友人を作っていくのだろうが、話しかける勇気もない。


 何かあったのか戸惑っていると移動の順番が来たようだ。

 俺はギシリと音を立てるパイプ椅子から立ち上がり、入学式が行われていた体育館から退出する。

 この後はホームルームがあるために自分の教室である1-5に向かった。





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