第30話 降臨ボスの出現

「さて……どうします? このまま続けてもいいですし、一旦魔石の清算に行くって手もありますが……」


 41階層へと降りた俺は……なっちさんにそう聞いてみた。


「階層間転移」で転移できる階層は、10n+1の階層ごとだからな。

 一旦魔石の清算に行くとしたら、無駄なく攻略再開できるのは今しかないのだ。

 この機を逃せば、次は51階層まで進んだ時となる。

 その間どこかで急激に敵がインフレしないとも限らないし……セーブ&ロード的なノリで、一旦離脱するのもアリなんじゃないかと思ったのである。


「そうですね……じゃあ、一旦清算しますか」


 聞いてみると、なっちさんとしては一旦清算したいみたいだった。


「じゃあ、そうしましょう。——階層間転移」


 そう言って一階層に転移すると……程なくして、なっちさんも合流する。

 俺たちはダンジョンを出ると、受付の建物に行き、ドロップ品清算の列に並んだ。



 ◇



 5分くらいすると……俺たちの番がやってきた。


「すみません、この中身全部、コンビニエントインベントリに入れてもらえませんか?」


 なっちさんはレジの人にそう言って、マジックバッグを手渡す。


 コンビニエントインベントリ——ああ、俺がポリ袋いっぱいの魔石を売ろうとした時、工藤さんが使ったやつか。

 あれ、受付の人は標準的に持っているスキルだったりするんだろうか?


「分かりました。コンビニエントインベントリ」


 するとレジの人はそう言って、半透明の画面を出現させ、マジックバッグ内の魔石を収納し始めた。


「ところで神保さん、こちらの方は?」


「つい昨日、新しくVIP探索者に認定された人ですよ。名前は……あっ、本名聞いてなかった」


「なるほど。今日は一緒に探索されてたのですね」


「ええ」


 二人のそんな会話を、俺は「神保さんって誰だ……? ああ、なっちさんの苗字か」などと考えつつ聞いていた。

 そして、俺はコンビニエントインベントリの画面に獲得した魔石の個数が表示されるのを待ったのだが。


「……え、うそ? この数は……ってか、40階層とは!?」


 おそらく画面に魔石の個数が表示された段階で……レジの人は、そのまま硬直してしまった。


「今日はちょっと事情があって、いつもより多めなんですよ」


「いや、208個はどう考えても多めとかそういう次元じゃないんですけど……。っていうかそもそも、40階層って世界の最深攻略階層記録の大幅更新どころの話じゃないんですけど!?」


「確か、最深は26階層でしたっけ。……まあ私はバフをかけていただけで、人間離れしているのは彼の方なんですけどね」


 なっちさんとレジの人は、そんな会話の末……二人そろって、俺のほうに目を向けた。


「い、いや……なっちさんは『バフをかけただけ』なんて言いましたけど、正直この階層で戦えたのはなっちさんのおかげですよ。数だけなら自分一人でも獲れますけど、せいぜい23〜4階層まででしか……」


 あまりに過大評価されてもアレなので、一応そう補足しておく。


「いや、23〜4階層だったとしても、そもそもこの数がおかしいんですけどね。というか、自身では全くバフを使わずにそんな階層まで来たんですか!?」


「だってそんなスキル、存在を知りませんでしたし……」


 だが……俺はありのままのことを言っているだけにもかかわらず、レジの人は頭を抱えてしまった。


「神保さんくらいなら、期待の逸材って感じなんですけど……この方に関しては何というか、出てきちゃいけなかった逸材って感じですね……」


 レジの人はため息をつきながら、俺たちに画面を見せる。


「21の魔石が3つ、22〜29階層と31〜39階層までの魔石が一つずつ、『コッククロフト・ウォルトン・ボルト』のスキルスクロールが一つ、40階層の魔石が208個で……合計よ、4368万円です」


 レジの人が金額を読み上げる声は、若干震えていた。


 てか何だ、「コッククロフト・ウォルトン・ボルト」って。

 確かスタンガンに使われている回路の名称が「コッククロフト・ウォルトン回路」だったし、イメージ的には「電圧を増幅させてドカーン」みたいなのだろうか?

 確かに、どっかの階層で一個スキルスクロールがドロップしたなーとは思っていたが……そんなのだったとはな。

 ま、攻撃手段には特段困っていないので、売ってしまって構わないか。


「あの……これどう配分すればよろしいですか?」


「私はじゃあ368万でいいですよ」


 などとスキルスクロールについて考えていると、レジの人が配分について話し始め……そしてなっちさんが、とんでもないことを口にした。


「いや、半分ずつでお願いします」


 俺はそこに、そう言って割って入った。


 お金が欲しくて始めた活動とはいえ……変に借りみたいなのを作ってまで、取り分を多くしたいとは思わないからな。

 何の気兼ねもなく受け取れる金額が欲しいので、単純計算で半分くらいがちょうどいいのだ。


 これでも尚、自分一人で稼げる額よりは大幅に多くもらえるのだし。


「え゛……いいんですかそんなに?」


「もっと自分のバフの価値を信じてください」


「何でもかんでもV3だのV4だのに上げれることを思えば、その気になれば自前でもっと高い倍率を用意するのなんて一瞬な気もしますけど……」


「ま、じゃあ情報料も兼ねて」


「……」


 そう言うと、なっちさんは納得がいかないような顔をしながらも、最終的には「じゃあそれで」と言ってくれた。



 俺はレジの人に口座番号を教える(名前を言うと受付のデータベースから照合してくれたので一瞬で済んだ)と、なっちさんと一緒に受付を後にした。


 そして俺たちは、41階層からの続きを始めるために、再びダンジョンの入り口へと向かった。


 だが、入り口を通過する間際……俺たちの脳に、こんな脳内音声が鳴り響いた。


<緊急事態発生。『降臨ボス』が出現しました。現在封印状態ですが、9時間後に解き放たれます>


 ……は? 降臨ボス?


 などと思っていると……ダンジョンの入り口に、薄紫の透明な膜が出現し、俺たちはダンジョンに入れなくなってしまった。

 中から人が出てくる際は通ってこれているのだが、外から入るのは不可能な状態になったみたいだ。


 ……何なんだそりゃ。

 訳が分からず困惑していると……なっちさんが、俺にスマホの画面を見せてきた。


「これ……ワシントンD.C.在住の人が上げた投稿なんですけど。降臨ボスって……これでは?」


 その動画に映っていたのは、上空に浮かぶ巨大な結晶に、一見ドラゴンっぽい生物が封入されている様子だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る