第29話 魂のキャリーオーバー

 ステータスを確認し終えた俺たちは、今後の行動について話し合うことにした。



 といっても、選択肢は実質二つだけだが。


「このままここでもうちょっと戦いますか? それとも……もう40階層のフロアボス倒しちゃいます?」


 俺はその二択で、なっちさんの意向を聞いてみることにした。

 ちなみに俺としては、もう少しここでレベルアップしたい気もあれば、更に奥に進んでみたい気持ちもあるので、正直どっちでもいいところだ。


「じゃあ……40階層のフロアボス、行ってみますか」


 聞いてみたところ、なっちさんはフロアボス戦に突入したいとのことだった。

 じゃあ、行くか。


 というわけで、俺たちは41階層へと続く階段を見つけ、そこを降りようとしてみた。


 <古谷浩二は40階層のフロアボスを倒していません。41階層に進むにはフロアボス戦を済ます必要がありますが、戦いますか?>


 するとそんな脳内音声が流れてきたので、「はい」を選択。

 30階層の時と同じく、共闘の質問にも「はい」を答えると……俺たちは、ボス部屋に飛ばされた。



 ボス部屋に入ると……早速俺は、なっちさんにバフをかけ直してもらった。

 そして、いざガトリングナックルをはめ、コアに攻撃しようとする。


 だが……その時俺は、普段聞き覚えの無い脳内音声を聞くこととなってしまった。


 <1F差コア破壊の常連を確認。コアは直ちに無敵状態に入ります>


 なんと……今回は、強制的に1F差コア破壊を封じられたのだ。

 試しに真・マナボールを連射してみるも、確かにコアには傷一つつかない。


 ……こんな強引な方法で特殊攻略が封じられることもあるのか。

 ま、だとしたら、普通にフロアボスを倒すだけだな。


 念のためパーフェクトアイギスを展開しながら15秒ほど待っていると、唐突に衝撃波が発生し、ボスが出現した。

 早速俺は、そのボスに対し、真・マナボールの絨毯爆撃を浴びせた。


 真・マナボールがボスに直撃すると……その瞬間からワイングラスが毎秒千個壊れるかのように「カシャァァァン」という音が連続して聞こえてくる。


「うわっ! 何ですかこの音!」


「無属性攻撃無効を貫通している音です。確かにこうも連続するとうるさいですよね……」


 まさかの無属性攻撃無効弱点持ちだったことには少し面食らったものの、俺たちはそんな会話をできる程度には余裕だった。


 そのまま20秒ほど連射し続けると、ついにボスは爆散し、コアにダメージが通るようになる。

 そして更に3秒ほど連射することで、俺はコアをも破壊することに成功した。



 そういえば……今回は、ボスドロップ品が出現しないな。

 ボスドロップは、毎回起こるものではなかったりするのだろうか?


 などと思案していると、今度はこんな脳内音声が流れてくる。


 <30階層フロアボスの魂のキャリーオーバーを確認。40階層のフロアボスドロップに、30階層のフロアボスの魂を合成しています……>


 どうやら今回のボスドロップはナシなのではなく、ただ単に時間がかかっているだけのようだった。


「そういえば……30階層の時、ボスドロップありませんでしたもんね。ボスが出現しなかったので当然かと思っていましたが……」


 なっちさんにも同様の案内が流れていたようで、彼女はそんな感想を口にした。

 だが振り返ってみると、別に特殊攻略の際はアイテムのドロップがないわけではない。

 現に俺は10階層の時、特別アイテムとして「時止めの神速靴」を入手できたのだ。

 むしろ30階層のフロアボス戦の際それが起きなかったのを、疑問に思うべきだったのだろう。


 ……などと思っていると、次の脳内音声が流れた。


 <特別アイテム:「賢者の石」を2個、コアフロアに転送します>


 そしてボスが出現した場所には、二つの紅色透明の石が出現した。



 これが……賢者の石とかいうアイテムか。

 名前的に錬金術とかできそうだが、実際どんなアイテムなんだ?


 疑問に思いつつも、石の片方をなっちさんに渡すと……なっちさんはおもむろにその場の小石を一つ拾い上げ、その小石を賢者の石に接触させる。

 そしてなっちさんが祈りを捧げると……その小石は金塊に変貌した。


 ……やっぱり錬金術ができるのか。

 しかし賢者の石、装備品でもないのに……どうやってそれを?


「なっちさん、『賢者の石』の使用方法、どうやって分かったんですか?」


「『鑑定』のスキルがあるので、それで調べました。任意の石とこの『賢者の石』を接触させ、変化後どんな金属にしたいかイメージしながら魔力を流すのだと。……これヤバいですよ、10MPあたり1立方センチメートルの岩石を、好きな金属に変化させられますから」


 聞いてみると……なっちさんは、そんな便利なスキルを持っていた。

 鑑定、か。まあ今回は使用方法も知れたし、いつかなんかのタイミングで入手したいところだな。


「これ、金塊作って儲け放題ですよ!」


 などと考えていると、なっちさんは嬉しそうにそう続けた。


 だが……俺としては、金を大量生産するのはあまり得策には思えなかった。

 確かに金は、希少価値が高い上に、実用性もあるのだが……それ以上に、金には資産価値としての意味合いがあるからだ。


 金を大量生産し、意図的に価格崩壊でも起こそうもんなら、数多の投資家から恨みを買ってしまうだろう。

 金融取引の恨みがどれほど恐ろしいかは、FXで100万溶かした身としては、身をもってよく知っている。


 あの時の俺のような感情が複数人から向けられるとなると、暗殺とかが怖くなって生きていくのが大変になるだろう。

 それより俺は、もっとましな「賢者の石」の使い方を思いついている。

 どちらかといえば、金のように希少価値が高く、かつ工業的価値に重点が置かれているレアメタルを量産した方が、価格崩壊を起こすほどたくさん作ってもみんなから喜ばれると思うのだ。


「金よりレアメタルにしませんか? 金を作り過ぎると、経済が大混乱しかねないので……」


「……確かにそうですね! そこまで考えれば、金よりレアメタルの方が良さそうです。……こんな超レアアイテムを手に入れておいてそこまで考えられるなんて、本当に凄い冷静さですね」


「いえいえそんな」


 などと話していると、俺たちの周囲の風景が、40階層のものへと変わっていった。

 ……まあとりあえず賢者の石のことは一旦置いといて、今後どうするかだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る