第26話 マナ譲渡の譲渡効率が……

「……いいんですか? スキルスクロール貰ったりしちゃって」


 一応俺は、そう聞いてみる。

 まあなっちさんの方から提案してきた以上、良いに決まってはいるのだが……タダでスキルスクロールを貰うのは、ちょっと申し訳ない気もするからな。


「……そんな細かいこと気にしないでください。そもそも……マナ譲渡をかけていただけるなら、むしろマナポーション代が浮く分私も得ですし」


 するとなっちさんは、自分の利点も交えつつそう言ってくれた。


 ……言われてみれば、そういう考え方もできるのか。

 てか……マナポーションなんてアイテムまで存在するんだな。

 液体の薬剤は苦手なので、魔力が無限に回復するスキルがあって助かった。


「はい、これ」


 などと考えていると、なっちさんは俺にスキルスクロールを手渡した。


 俺はそれを開くと……描かれてある魔法陣に手をかざし、スキルを習得した。


<古谷浩二はスキル:「マナ譲渡」を入手しました>


 そんな脳内音声が聞こえてきたので、ステータスから詳細を確認。


「……『消費魔力量の10%分、他人の魔力を回復させられる』ですか」


「ええ、そうなんです。あまりの譲渡効率の悪さから、使いたがる人がほぼいないので……このスキルスクロール、売っても二束三文だったんですよね……」


 効果を読み上げると、なっちさんがそんな裏事情を補足した。



 魔力が際限なく即時回復する以上、別に俺はこのスキルでも十分なのだが……せっかくだし、ある程度進化させとくか。


「なっちさん、自分が使える魔法の中で……特に燃費が悪いものって、なんかありますか?」


 というわけで、俺はそう聞いてみた。


「燃費が悪いもの……ですか? なぜそんな質問を?」


「なっちさんにそれを使ってもらって、その間俺がマナ譲渡を連発すれば……V3とかV4とかにできないかなと思って」


「何ですかその『手に入れたスキルはとりあえず進化させよう』みたいなノリ……。そんな人初めてですよ……」


 理由を説明すると、笑いながらそう言われてしまったが……一瞬置いて、彼女はこう提案してくれた。


「でも、それなら丁度いい魔法持ってます。ニトロ系魔法の一つに……『瘴化学スモッグ』というものがありまして」


「瘴化学……スモッグ?」


「はい。魔物にだけ効く上に、かなり広範囲に効果を及ぼす強力な毒ガス魔法なのですが……毒の効果を継続させるには、とてつもない量の魔力を継続的に注ぐ必要がありまして。これで魔物を倒そうとしても、たいてい魔物が死ぬ前にこちらの魔力が切れてしまい、結果一体も倒せずじまいになりがちなので、普段使いはしないんです」


 聞いてみると、「瘴化学スモッグ」とやらは、まさにこの作戦にピッタリな魔法っぽかった。


「……良いですね、その魔法。じゃあ一旦、その魔法でいい感じに消費と譲渡を釣り合わせられるか、やってみますか」



 というわけで、早速作戦開始。

 まずはなっちさんに、魔法を発動してもらった。


「瘴化学スモッグ」


 彼女がそう唱えると、視界全体に緑の靄のようなものが出現する。

 が、特にこれといって息苦しさとかは感じなかった。


 ……これが、「魔物にだけ効く」ということか。

 そんな感想を抱きつつ、早速俺はマナ譲渡を始めることに。


 とりあえず過剰譲渡にならないよう、一発のマナ譲渡を、ガトリングナックルで放てる最小消費魔力量すなわち総MPの1%にしつつ……なっちさんに回復具合を聞いてみる。


「これで間に合いますか?」


「……少し回復が追いつかないですね」


「じゃあ、もう少し上げます」


 そんな風にして、俺はなっちさんへのマナ譲渡量を微調節し、均衡を保つようにした。


<スキル:「マナ譲渡」は「マナ譲渡V2」に進化しました>

<スキル:「マナ譲渡V2」は「マナ譲渡V3」に進化しました>


 スキルが進化する度に、均衡譲渡量が変わるので……その度に譲渡量を再調節し、再度均衡を保つ。

 そんなことを繰り返していると……約5分が経った頃、ついにマナ譲渡が進化しきった。


<スキル:「マナ譲渡V4」は「マナ譲渡V5」に進化しました>


「……ありがとうございます。もう『瘴化学スモッグ』は解除していただいて大丈夫です」


 そう言って「瘴化学スモッグ」の発動を止めてもらいつつ、俺もマナ譲渡を停止する。

 すると……更に一つ、予想していなかった脳内音声が響いた。


<特殊条件のクリアを確認。スキル:「マナ譲渡V5」は「真・マナ譲渡」に特殊進化します>


 なんと……マナ譲渡、マナボールに続いて二つ目の、特殊進化を遂げてしまったのだ。



「どうです? マナ譲渡、進化できました?」


「……想像以上に良い進化を遂げた……っぽいです」


 なっちさんも興味津々な様子の中、ステータスから「真・マナ譲渡」の効果を確認する。

 すると……その効果は、どう考えてもおかしなところまで進化してしまっていた。


 ─────────────────────────────────

 ●真・マナ譲渡

 譲渡効率が限界突破した、マナ譲渡の裏最終形態。

 1MP消費あたり、譲渡相手のMPを1.12回復する。

【進化条件】譲渡対象を、マナ譲渡がV5に進化するまでたった一人に絞ること

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 ……なんで消費したMPより回復させられるMPの方が多いんだよ。

 進化すれば、譲渡効率が上がるのは予想通りだったが……この上がり幅はどうかしてるだろ。


 マナボールも、むしろ無属性攻撃無効が敵の弱点になってしまったし……特殊進化後の魔法は、目を疑うような効果になりがちなんだな。


「なんか消費MP1あたり相手のMPを1.12回復させられるらしいです」


「なんで1を超えてるんですかね……。それ、もう効率がいいとかそういう次元じゃないと思うのですが……」


 そして効果を説明すると、なっちさんも同じような感想を抱いた。



 ……ま、悪い事じゃないし、これでいっか。

 早速、本題のバフ攻略作戦に入るとしよう。


「何にせよ、準備は整ったので……瘴化学スモッグで死んだ魔物の魔石を拾うだけ拾って、下の階層に行きますか。あまりにも簡単に倒せるようなら、最短経路でどんどん奥に行こうと思いますが……それでいいですよね?」


「はい! どんどん行きましょう!」


 というわけで、急いで魔石を拾いつくすと……俺たちは、22階層に向かった。

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