第14話 エクストラハイヒールV5と付録みたいなスキル

「……どういう事ですかぁっ!?」


 すると……その人は目をこれでもかというくらい見開きつつ、階層全体に聞こえてそうな声で叫んだ。


 ……あれ。

 なんかマズいこと言ったか、俺?

 時間を一刻も無駄にしたくないタイプの人だったら、断られるかもとは考えはしたが……「いいです」か「ダメです」以外の答えが返ってくるとは思わなかったのだが。


「エクストラハイヒール……詳しくは知らないっすけど、確かMPを何百も使用する魔法ですよね!? それを5分間も連射って……しかもあのレベチなマナボール連撃の後に……あり得ない……」


 などと考えていると、その人はそう続けた。


 ……なんだ、消費MPのデカさに驚いただけだったか。

 それなら、了承してもらえる可能性も低くはなさそうだ。


「じゃあ、質問を変えます。もしエクストラハイヒールの連射ができるとしたら、やってもいいですか?」


 俺としては、OKかNGかの返事が聞きたいだけだからな。

 エクストラハイヒールの連射ができることの説明に時間を取られるのは、お互いにとって損だし……「やれるもんならやってみろ」的な返事でももらえればと思い、こう聞くことにしたのだ。


 ……にしてもこの人、最初はタメ口だったはずなのに、なぜ敬語になったし。


「別に俺は良いですけど……。それで魔力枯渇とかしても、責任取りませんよ!?」


 すると、質問を変えた甲斐もあって……俺はOKの返事を聞くことができた。



 じゃあさっそく、やらせてもらおう。

 俺はエクストラハイヒールの発動の感覚を確かめると、ガトリングナックルで最大連射速度での連射を始めた。


<スキル:「エクストラハイヒール」は「エクストラハイヒールV2」に進化しました>

<スキル:「エクストラハイヒールV2」は「エクストラハイヒールV3」に進化しました>


 連射開始から3秒ほどが経過すると……エクストラハイヒールは一気にV3まで進化した。

 そして、更に30秒ほどが経つと……


<スキル:「エクストラハイヒールV3」は「エクストラハイヒールV4」に進化しました>


 少し間が空いたが、今度はV4に進化。

 残すは、V5への進化のみとなった。(ちなみに「真・エクストラハイヒール」とかがあるのかは知らない)

 ……ここからが長いんだよな。


「あ゛あ゛あ゛……気持ちいい……」


 そして、エクストラハイヒールの連射を受け続けている男はといえば……まるでマッサージチェアに座っている時のような表情で、そんなことを呟いていた。


 なるほど……エクストラハイヒールの連射を受けたら気持ちいいのか。

 今まで俺は、疲れた時はたまに、家電量販店の展示品のマッサージチェアにお世話になっていたが……今度からは、そういう時はダンジョンに来るとしよう。


 そんなこんなしながら、5分くらいが経過する。

 すると……ようやく、この脳内音声が流れてくれた。


<スキル:「エクストラハイヒールV4」は「エクストラハイヒールV5」に進化しました>


「よっしゃ来た! ステータスオープン」


 俺は連射をやめ、エクストラハイヒールV5の詳細を見るためにステータスウィンドウを開く。


 ─────────────────────────────────

 ●エクストラハイヒールV5

 HPを最大値の100%分回復できる回復魔法。

 一回あたりMPを750消費する。

 ─────────────────────────────────


 すると……このような表示が現れた。


 エクストラハイヒールV5……最大HPの100%分、HPが回復するのか。

 それでもって、消費MPは特に変化なし、と。


 100%分以上回復してもしょうがないし……エクストラハイヒールには、「真・エクストラハイヒール」とかは無さそうだな。

 そう考えをまとめた俺は、ステータスウィンドウを閉じようとした。


 ……だが、その時。


<スキル:「生き残り」を獲得しました>


 今度はそんな脳内音声が流れつつ……ステータスウィンドウには、パッシブスキルの欄に「生き残り」が追加された。


 ……何だそりゃ?


 ─────────────────────────────────

 ●生き残り

 現在HPを超えるダメージを受けると強制的にHPが1残り、かつ3秒間無敵になる。

 無敵時間中にHPを20%以上回復させられれば、再度「生き残り」を発動させることができる

【獲得条件】エクストラハイヒールをV5まで進化させる

 ─────────────────────────────────


 気になったので見てみると、「生き残り」はそんなスキルだった。


「あ、俺死ななくなった」


 それを見て……思わず俺はそう零した。


 要はこれ……どんな攻撃を受けても、3秒以内にエクストラハイヒールV5を使えば、無限に耐えれるってことだろ?

 まあだからと言って、ダメージを受けると痛いのには変わりないだろうし、「生き残りスキルをフルに活用して何とか倒せる」みたいな強敵に挑むつもりはないが。

 それでも、初見殺しを全く気にせず進めるようになったのは事実だし……そういう意味では、これかなりデカいぞ。


「死ななくなったって何すか? 俺にはもう、あなたはもともと不死身としか思えなくなってるんですけど……」


 などと考えていると、エクストラハイヒールをかけまくった男にそんなことを言われ……俺はふと、我に返ることとなった。



 ……そういえば、この人にちゃんとお礼しとかなきゃ。


「なんか『生き残り』ってスキルが手に入ったんですよ。それより……あなたの協力のおかげで、俺は無事、エクストラハイヒールをV5に進化させられました。ありがとうございます」


 俺はそういって、男に頭を下げた。


「ぶい……聞き間違えかな? うん、聞き間違いだよね、うんうん」


 すると……男は目の焦点が合ってない状態で、しきりに頷きながらそう呟いた。

 ……聞き間違いではないのだが。


「とりあえず……俺に言えるのは、こっちこそお礼したいくらい気持ちよかったってことだけです。ありがとうございます」


 だが……何にせよ、一応感謝は伝わったみたいなので、俺はこの場を去ることに決めた。



 そうだな、次は……7階層は6階層と同レベル、いやむしろ俺からしたらより雑魚なはずなので、8階層にでも行ってみるか。


「階層完全探知」


 俺は地図を開くと、一目散に8階層を目指した。

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