第12話 イジワルミミックは言うほど強くなかった

「イジワル……ミミック? 何ですか、それ?」


 ミミックという宝箱に擬態した魔物は、確かにゲームとかだと定番だったりするが……何がどう「イジワル」なのか。

 そして倒された前例が無いとは、一体どういうことなのか。


 分からないことが多かったので、俺は質問してみることにした。


「イジワルミミックは、条件をクリアすれば豪華報酬が貰える……と言われている、まあなんだ、イベントミッションを課してくる魔物とでも言えばいいか。だが……その条件が曲者でな。誰一人として達成できないような、鬼畜な条件ばかり提示してくるんだよ」


「鬼畜な条件……ですか」


「ああ。そうだな、この階層で現れたイジワルミミックなら……『1時間以内に、この階層の魔物を、闇属性魔法を使わず全滅させること』みたいなのを提示してくるんじゃないか?」


 聞いてみると……先客だと思った人は、イジワルミミックの詳細を語ってくれた。



 ……確かに、そう聞くと、イジワルミミックから豪華報酬とやらを貰うのはかなり難しそうだな。

 と思いつつも……俺は同時に、挑戦してみる価値はあるんじゃないかとも感じた。


 幸いにも、俺には「階層完全探知」がある。

 そして俺はもともと闇属性魔法など使わないし、それでもって5秒以内には天使モスエルを一体討伐できるのだ。

 上手くやれば、時間内に階層内の魔物を全滅させるのも、不可能じゃないかもしれない。


 ——まあ「イジワルミミック」ってくらいだし、俺がクリアしそうになったら、リスポーン速度を急に上げてきたりするのかもしれないが。


 それでも……失うものは何もないわけだし、挑戦しないという手は無さそうだ。


「……条件って、ケースバイケースで変わるんですよね? 俺に課された条件が何かは、どうやって知ればいいんですか?」


「って……お前挑戦する気かよ!? まあ条件なら、ステータスウィンドウを開いたままイジワルミミックに触れれば表示されるが……」


 具体的な挑戦開始方法を聞くと、それも教えてくれたので……早速俺は、言われたとおりやってみることにした。


「ステータスオープン」


 詠唱し、イジワルミミックに触れる。

 すると……宝箱が開いて長い舌が出てくると同時に、ステータスウィンドウ上にこんな表示が出た。


 ────────────────────────

 >                     <

 >  イジワルミミック・イベントミッション <

 >「10分以内に、総魔力量の8割以上    <

 >       を使う魔法を1万発当てろ!」<

 >     (残り10000発)      <

 >                     <

 ────────────────────────


 そして条件を見た俺は……むしろ、肩透かしを食らった。


 ……あれ。

 これむしろ、階層内全滅より遥かに楽だぞ。


 当てる対象は舌でいいのか?

 などと考えつつ、最大魔力を注ぎ込むマナボールV4を2発当ててみる(8割にしないのは調整が面倒だからだ)。

 すると……当初10000発とあったカウントが、9998に減った。


 ……やるべきことは把握した。

 なら後は……ガトリングナックルで全力でぶっ放つだけだ。


 俺はマナボールV4を、ただひたすらにイジワルミミックの舌に当て続けた。

 最大連射速度は分速2400発なので、10分以内なら余裕で間に合う。

 案の定……5分弱が経過すると、表示が残り0発になり、同時にイジワルミミックが弾け飛んだ。


 楽勝だったな。

 イジワルミミックがいたところには、巻物みたいなものがドロップしたので……俺はそれを拾いに行った。



「うっっっっっっそおおおお!?」


 巻物を拾っていると……横から盛大な叫び声が聞こえてきた。


「イジワルミミックを撃破って……えええ!? てか何だったの、今のクソヤバいマナボールの連発……」


 どうやらさっきの人は、一部始終を見守っていたようだ。


 ……おいおい大丈夫かこの人。

 そんなに口開けて……顎外すなよ?



 などと考えていると、怒涛のごとく脳内音声が連続で鳴り響いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る