第10話 一般的にはハズレだが俺のためにあるようなアイテム

 地上に帰還し、受付の建物に入ると……たまたま人が少ない時間帯なのか、工藤さんがカウンターで暇そうにしていた。


「工藤さん、魔石の売却に来ました」


 俺はまず……グローブのことは一旦置いておいて、売ることが確定している魔石の査定をしてもらうことにした。


「この魔石は……5階層に行ってきたってわけだな。相変わらずとんでもねえ数を持ってきやがる」


 工藤さんはそう言いつつ、魔石の数を数えてレジ打ちをした。


「5階層の魔石が24個で、合計4万8000円だ」


 そして工藤さんは、レジからお札を8枚取り出し……俺に渡しながらそう言った。


 ……今日だけで計6万円オーバーか。

 毎日この額が稼げると仮定しても……16日ちょいあれば、失ったバイト代が全額復活する計算だよなこれ。

 まあ、今後行ける階層が増えれば、一日に稼げる額が据え置きってことはないはずなので……実際にはもっと早く、100万円など突破してしまうのだろうが。


 気を引き締めないと、あっという間に金銭感覚が狂ってしまいそうだ。

 しばらくは、贅沢は「牛丼にトッピングを乗せまくる」レベルに留めて、生活水準を上げ過ぎないように注意した方がいいかもしれない。


 ……全く、FXで当てたら豪遊する気だった俺が、実際金を手にしてみるとこうも慎重に考えるようになるとは。

 そんなことを思っていると……工藤さんが、不思議そうな口調でこう聞いてきた。


「しかし……お前、一旦魔石を売りに来てから1時間くらいで、この数狩って帰ってきたよな。これ……魔力がいくらでも回復するのを計算に入れても、おかしい数なんだが。……なんか効率よく魔物を探す方法でも見つけたのか?」


「まあ。ダウジングワイヤーってアイテムを見つけました。……使いまくったら消えてしまいましたが」


「ふーん」


 質問に対し、起こった出来事をそのまま話す。

 すると……最初はただ納得しただけかの様子だったが、数秒経って。

 工藤さんの頭の中で何かが繋がったのか——急に表情を変え、こう口にした。


「……ダウジングワイヤーが消えた!? お前、それ……」


 口をあんぐりと開けたまま、固まる工藤さん。

 この反応を見る限り……「階層完全探知」、やっぱり獲得条件クソ厳しいんだな。

 知っててやったわけじゃないが、ダウジングワイヤーを手に入れた瞬間から本気で狩りに勤しんだの、大正解だったわけだ。




 ……おっと、本題はそれじゃないんだ。


「それと……俺、また変わったドロップ品を見つけたんですが。これ、どんな効果があるかご存知ですか?」


 俺はレジ袋からナックルグローブを取り出すと……工藤さんにそう聞いてみた。

 工藤さんはそれを手にすると……なぜか豪快に笑いだす。


「ハハハ、こりゃハズレだな。こんな手袋、何の役にも……」


 どうやら工藤さんが笑ったのは、グローブがどうしようもないクソアイテムだったからのようだ。


 ……ま、そういうこともあるか。

 ダンジョン産だからって、全部が全部当たりとはいかないだろうし。

 特に、5階層なんてようやくひよっこ脱出レベルの階層なんだし……ハズレアイテムでもともとってくらいなんだろう。


 6万円稼げたのは事実なんだし、気落ちする事でもないか。

 そう思い、俺は工藤さんに、ナックルグローブを処分してもらうよう頼もうとした。


 だが……口を開こうとした寸前。

 工藤さんは、急に真顔になったかと思うと……恐ろしいことにでも思い至ったかのように、震える声でこう呟いた。


「いや……違う。確かにこれは、一般的にはハズレアイテムだが……同時にこれは、古谷のためにあるようなアイテムだ」


「……はい?」


 意味が分からなかった。

 だから俺は、工藤さんに説明を求めることにした。


「……俺のためにあるようなアイテム、とは?」


 すると工藤さんは、このナックルグローブについて、こう説明した。


「これは……ガトリングナックルと言ってな。分速2400発の魔法を撃てるようになる代わりに、とんでもない制約がついてるんだ。制約は二つ、『総魔力量の1%以上を消費する魔法でないと撃てないこと』そして、「『撃ち始めたら最低でも1秒間は止まらないこと』」


 一旦間を置いてから、工藤さんは続ける。


「一度に最低でも4割も魔力を消費するからな、このグローブは『魔力バカ食いグローブ』と馬鹿にされているんだ。だが、それが問題になるのは、あくまで一般的な場合の話。お前が使うとなると……」


 その先は、説明されるまでもなく想像がついた。

 俺の場合は、これを使えば……シンプルに、マナボールV3の連射速度が上がるだけ。

 魔力を最大限フルに詰め込んだマナボールV3を、特に代償無しに従来の10倍の速度で連射できるようになるというわけである。


 これは……ますます今後が楽しみになってきたな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る