笑顔

クラスで喫茶店をやると決めて1週間。今日は2回目の話し合いだ。変わらず教壇には椿がいる。黒板には、メニュー、係、装飾などいかにも文化祭っぽいことが書かれている。

「メニューは、クリームソーダ、シフォンケーキセット、サンドウィッチ、クッキー、紅茶…」

美味しそうなワードが沢山飛んでいる。想像するだけでヨダレが出てきそうだ。女子高生としての生命の危機である。そんなくだらないことを考えていると…

「お前、何やんの?」

やっとまともに聞くことができるようになった声が聞こえた。

「私は調理係かな。人にオーダー聞いたりする柄じゃないし。」

私が可愛い制服を着て、お客さんに愛想笑いをしながら注文を聞いて回るなんて、考えただけで寒気がする。

「そっか。……ちょっと見たいけどなーお前が喫茶店の店員の服きてんの。あと、おどおどしてんのみんのめちゃくちゃ面白そう。」

イタズラに微笑む顔が目に映った。

「馬鹿にしてんの?そういう矢沢は何やるわけ?」

ちょっとだけ睨みを聞かせて聞いてやると、

「俺は……何やろうかな。買い出し?BGM?」

「BGMって何さ…。あんたこそ、接客やればいいじゃん。……あ、あんた無愛想だから無理かー。」

少し煽ってやると、腑に落ちないと言うような顔をして少し間を置きながら

「俺だって、愛想くらいよくできるからな。」

ふざけているのか真剣なのか…。

「そっかそっか。」

「できるさ、きっと。」

言い方的にそれ、できないような表現だぞ。矢沢。

「……できるよな。」

やけに思い詰めたような表情がおかしくなって、思わず頬が緩む。

「大丈夫。矢沢はやれば出来るやつだって。ほら、笑ってみ?」

「……そうだよな。」

と言って、いつも一ノ字になっている矢沢の口が緩んだ。

「俺、頑張る。」

緩んだ口元とは対照的に、紺色に光る目が寂しそうに見えた。

「うん。頑張れよ。」

精一杯のエールを送ってやったつもりで笑い返してやった。

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