秋唄

@roaagmo

プロローグ

五月蝿かった蝉の大合唱も少しマシになってきた。あれ程賑わっていた海水浴場も、今は寂しく静かな波の音だけ。誰もいない海の家、部屋の隅に片付けられた金魚の風鈴、光を失い枯れた向日葵…。

 ――夏が終わる。――

肌で感じるこの空気たちが私にそう告げた。

 ――ミーンミンミンミーン…――

マシになったとはいえ、未だ蝉の声が耳を刺す。なぜ蝉の声はこんなにも五月蝿いのか…。風流な人はこう言うだろう。

「蝉は1週間しかない命を燃やし、私たちの耳に生きた証を残しているのだ。」と。

 私は、命を燃やすんだったら寿命を伸ばすために鳴かなければいいのに。なんて思ってしまう。

 ひねくれているだろうか?…いやそんなことは無いと思う。仕方ないのだ。私はもうきっと…心から鳴くことなんてできない。私は波にただ壊されることしか出来ない砂の城。…我ながら馬鹿げている。

 私はただ静かにしていたい。たとえそれが自分の心に背くものだったとしても。そんなことを考えていたら沈み行く夕日がいつもより憎たらしく見えた。

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