第315話 水路 4
一族総出の水蛇の数というのが、一体どれほどのものなのかを考えると足の下がゾワリと落ち着かない。
「今は私の指示で船を動かし、守ってくれてはおりますが、オロシ自体は決して大人しい生き物ではないのです。彼らは集団で獲物を襲うのですが、これがまた凄まじい。なんといってもその食事風景ときたら。実に見ごたえがある」
「凄まじい?」
興奮気味に語る小男に、
「オロシの唇に当たる部分は細かい牙の集まりになっているのです。しかも一度刺さるとようよう抜けはしない。奴らは食いついた直後に強力な毒液を吐き出します。この毒液が実に強力で、瞬時に肉も骨も腐らせる。やつらはその溶けた血肉をつるりと綺麗に飲み干すのです。そしてそれを獲物が消え失せるまで繰り返していく」
男が半ばうっとりとした様子で語るオロシの『見ごたえのある食事風景』とやらは、残念ながら
そんな子供たちの様子など全く目に入っていない小男は、なぜか得意げな口調で説明を続けた。
「オロシの身体はぬめりのある妖気に覆われているのです。彼らの妖気は一度絡みつくと、獲物にしつこくまとわりついて消えることは無い。オロシの一族はそれを目標に、見失うことなくピタリと獲物を追い続けることができるのです。恐らく、我ら妖鬼が獲物につける刻印と同種のものなのでしょう。よほどの妖力を持つ者であれば、逃れることも祓うことも可能でしょうが、祓えるだけの妖力がなければ、目をつけられれば最期。命はない」
吐き気のするような説明に、背筋をゾクリと粟立たせ、
それを横目に見た小男は、実に気分がよさそうだ。
満面の笑みを浮かべた好好爺の顔が、心なしか若返って見えるほどずいぶんと色艶がいい。
「ご心配めされますな。この船のオロシは私の言うことをよく聞いてくれる。一切の危険はありません」
一礼し、小男が船室の外へ出て行ってしまうと、
「妖鬼なんて似たり寄ったり、皆あんなものだ。オロシだって、懐けば案外可愛い連中だしね」
今までの話を聞いた限りではとてもではないが、懐いてもらっても可愛いと思える自信はない。
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