第159話 宵闇の心 3
緩く1つに結った美しい黒髪を優雅になびかせながら、海神の元へ歩み寄ると、黒衣の妖鬼は、闇色の帯を可愛い生き物でも慈しむかのように優しくひと撫でし、簡単に解いてしまった。
彼は、瞬時に宵闇の横へ移動すると、顔を近づけ冷たく微笑んでみせた。
一見、人を喰ったように見えるその微笑みの奥が底知れぬ哀しみに侵されているように感じ、宵闇の心は激しくざわついた。
「宵闇・・・・・君、自分がなにをしてるか、ちゃんとわかっている?」
黒の妖鬼は、静かに宵闇に問いかけた。
途端に、宵闇の頭と心臓に激痛が走る。
叫び声を上げ、その場に崩れ落ちていく宵闇の身体を、黒の妖鬼はすかさず抱き止め、わずかに顔をしかめた。
傍目には全く気付かないことだったが、彼は生々しい深い傷を身体中に負っていた。
流れ出す血を吸い、衣がじっとりと重く濡れていくのを感じながら、黒の妖鬼は濡れた瞳で、小さく息を吐いた。
「なぜ・・・・・こんなになるまで、独りでいたの。僕に・・・・君は救えない。君は今、何を望む?・・・・君の為に、僕は何ができる?」
激痛に身体を強張らせながら、流れる髪の隙間から宵闇は黒の瞳を見つめた。
「お前は・・・・何者だ。」
宵闇がかすれる声で絞り出すように問いかけると、黒の妖鬼は宵闇のなめらかな首筋に顔をうずめるようにそっと唇を寄せ、彼にだけ聴こえる声で答えた。
「お願い。宵闇・・・・戻ってきて。ずっと、ずっと待っていたんだ・・・・君は僕に、
その言葉を聞いた途端。
宵闇の瞳から、赤い光が消えうせ、取り戻された黒く輝く双眸がたちまち涙で潤んでいった。
「お前・・・・・生きてくれてたのか・・・・。色々と・・・変わっちゃったみたいだけどさ。」
宵闇の身体を蝕む痛みが潮のように引いていき、懐かしさと喜びから自分を取り戻した彼は、本来の口調で軽口をたたきながら久しぶりに少しだけ微笑むことができた。
まだ力の入らない身体で、宵闇は黒を力の限り抱きしめた。
「宵闇・・・・君のこの身体は白妙でしか癒せない。魂が穢されてしまっているんだ。」
「うん。わかってる。・・・・わかってるよ。・・・・それに、俺はあまりにも重い罪を犯した・・・・殺め過ぎた。本当なら生きることを許されない身だ。・・・・そんな顔をするなよ。お前が気にすることは何もない。・・・・・ありがとうな。」
そう言って微笑んだ宵闇は、まるで泣いているようだった。
「宵闇・・・・」
黒が何かを言いかけたところで、宵闇の瞳に海神の足を確認しながら手でさすっている白妙の姿が映った。
それを目にした途端。
宵闇の瞳に、再びあの赤い光が燃え上がるように灯り、彼は激痛にもだえ始めた。
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