第144話 白妙が無事なら
「宵闇・・・・宵闇・・・・!」
名を呼ばれ、宵闇は意識を取り戻した。
全身に走る、息が止まるほどの激痛にうめき声をもらしながら、顔を歪め薄く目を開けると、歪んだ視界の中に
「宵闇・・・すまない。ボクは・・・」
「龍粋・・・。よかった。・・・・お前のままだな。」
宵闇は、痛みに顔を歪めながら、龍粋に向かって笑顔を作り、かすれた声で囁くように声をかけた。
涙を溢れさせ、鎮痛の面持ちで自分を癒している龍粋の手をおもむろに止め、半身を起こして辺りを見回す。
妖力を蓄積している目と髪は無事だったが、宵闇の四肢はただれ・・・特に足は骨が見えるほど焼け崩れており、とても正視に耐えうる状態ではなくなっていた。
「白妙・・・」
宵闇は、龍粋に治癒され、かろうじて動けるようになった上半身で、少し離れて横たえられた白妙の元へ、這いずりながらどうにかたどり着くと、癒していた加具土命の手をやんわり抑え、意識のない白妙の手をにぎり締めて一心に妖力を流し込み、癒し始めた。
「やめなさい。このまま続けては、君が辛い思いをすることになる。」
「それだけで済むなら、安いよ。いくらだってやってやる・・・。」
長がたしなめたが、宵闇は全くやめようとはしなかった。
ボロボロに焼け落ち、血で真っ赤に染まった白妙の衣に目をやり、瞳を潤ませながら、宵闇は、痛みで遠ざかる意識をひっしで繋ぎ止め全力で白妙に妖力を送り癒した。
見ている者がどうにかなりそうなほどの、宵闇の深く強い想いに、妖月の誰も手を出せず、ただ見守ることしかできない。
ほどなくして、白妙が薄っすらと目を開いた。
いたるところにできていた傷は全て癒され、顔色も薄く色を取り戻し落ち着いていた。
「・・・・宵闇。」
宵闇はその声を聴くと、白妙の隣へ仰向けに倒れ込んだ。
どうにか身体を横向け、白妙の方へ向き直った宵闇は、彼女の長い髪を焼けただれた手で優しく撫でた。
「良かった。・・・傷が残れば、仮面の子が心配する。龍粋もきっと・・・気に病んで、忘れられなくなっちゃうから・・・。それに、君は物凄い・・・美人さん・・・だし・・・ね。」
「宵闇!」
急速に宵闇の瞳から光が失われていくのを見て、加具土命が慌てて治癒の術をかけ始めるが、宵闇の傷は、ほとんどといっていいほど、回復の兆しを見せない。
「それだけじゃ無理だ。妖力が枯渇しているから、治癒力と術とを繋ぐことができないんだ。妖力を満たさなければ・・・・。」
駆け寄った龍粋と長が、加具土命の癒しの術と並行して、妖力を宵闇に注ぎ始めた。
「一度に妖力を吐き出した反動で、回路が極端に狭くなっている。こちらからの妖力がほとんど受け入れられない。」
崩れて灰になろうとする足を、
治癒の術が効かないため、激痛から逃れる術もなく、宵闇はそれから数日間、激痛にもだえながら生死の境をさまよい続けた。
ようやく危機を脱した後も、彼が目を開けることはなく、時だけが静かに過ぎていった。
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