第131話 楓乃子 1
光弘は目の前の光景に体中の血が抜け落ち、内臓の奥底から歪められるような震えに襲われ息をすることすらできなくなっていた。
宵闇に聞くまでもなく、目の前の
死んでしまったはずの楓乃子が、まるで眠っているような静けさで、生き生きとした姿のまま目の前に存在している事実は、光弘の鼓動をドクドクと高まらせ耳の奥をゴウゴウという音で侵していた。
「
光弘の頭の中で、楓乃子と過ごした日々が宵闇の声と共に鋭い痛みをともなってどろどろと渦を巻いた。
「俺はどちらでも構わないのだ。方法はいくらでも他にある。お前の周りの者を一人ずつ弄り殺し、お前の心が壊れたところを力ごと手中に収めることもできるのだ。この夢にとどまる必要もない。お前と心を繋ぐ者の存在はすでに把握し、私の手中にあるのだからな。」
「そんなことはさせない・・・・・。」
「そう憤るな・・・・。俺は取引がしたいのだ。俺にとってはゴミでしかないこの女も、お前にとってはどうか?そうだな・・・・・少し、俺の知っている話を教えてやろう。」
「なんのことだ。」
光弘は、なんとか自分を落ち着けようと、不安定な呼吸を必死で整えながら答えた。
「お前を手に入れたくてな。俺も真面目にお前の周辺を調べたのだ。・・・・・この女。お前が生まれて間もないころ、自らに呪いをかけていたぞ。」
「呪い・・・・。」
「ヨモツヘグイの呪いだ。冥府にある厄邪水という水を飲み、凶始の実という実を喰らうことで、死の影を見ることができるようになる。その代わり、まともに食べ物を受け付けられなくなるのだ。ごくまれに口に合う食い物も見つかると言うが、それ以外は砂を食むようになると聞く。人が耐えられるような呪いではない。・・・・・・さらに、死の影が近くある時に何か口にすれば、身体を八つ裂きにされるほどの痛みと、臓腑が喉から吐き出されるほどのはげしい嘔吐をもよおすのだ。」
「そんな・・・・・・。」
「この女、何者なのか・・・・・。人の身でありながら、なぜこのような邪法を知りえたのか知らんが・・・・。光弘。お前もこの女の身体のどこかに、見たことがあるのではないか?呪いを受けた者に刻まれる刻印を・・・・・。あれは、無色の力を持つお前に群がる危険を見定めるため、あの女が受け入れた呪いの跡だ。」
光弘は、突然宵闇の口から語られる真実に、眩暈がするほど激しく混乱していた。
姉さんの刻印は・・・・生まれつきじゃなかったのか。
姉さんは、俺を守るために・・・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます