第77話 白妙と癒 1
|真也たちに支えられながら起き上がった
その肩の上で、嬉しそうに光弘に頬ずりしている癒・・・・・・。
無垢で無邪気に見えるが、恐らく自分が見ていることに癒は気づいているだろう。
気づいたうえで、あえて知らぬふりをしているのだ。
白妙が初めて癒の存在を知ったのは、都古と光弘が出会ったあの冷たい雨の日から、一月ほど後のことだった。
浮かされるように何度も謝りの言葉を口にする小さな友人をたまらなく愛おしく思いながら、白妙は切ない笑みを浮かべた。
「都古。謝るのは私の方だ。無様な策を選んだがために、お前を傷つけてしまった。・・・・・他の策を考えるべきであったのだ。これは私の未熟が招いたこと。お前が気に病む必要はない・・・・・すまなかったな。」
「違うっ・・・私が・・・・」
「都古。もう何も言うな。私はこれ以上恥をかきたくないのだ・・・・・。」
白妙は人差し指で、そっと都古の唇をふさぎ、困ったような笑みを浮かべた。
白妙はそう言うが、彼が全ての攻撃を受け入れる以外、都古の暴走を見て見ぬふりをするか、都古を攻撃して沈黙させるしか、あの時の彼に用意されていた手段はなかったのだ。
仮に都古が強く望んだとしても、この友人は自分を攻撃することを選択してはくれなかっただろう。
何か言いたげな瞳を向けてくる都古の頭を胸に抱き寄せ、白妙は優しく髪を撫でた。
しばらくそうしているうちに落ち着いた都古は、白妙に顔をむけた。
白妙の腕に包まれたままの都古が、その時伝えて来たのが、光弘の鎖骨に記された刻印と、
光弘に刻まれた刻印には、心当たりがいくつもあった。
光弘は、本性を隠して現れた白妙の姿を確実に暴き、目で捕らえていた。
あの時、感情に身を任せ力を解放しようとした自分を止めたのも光弘だ。
そして白妙は・・・・・・光弘と同種の刻印を持つ者が、過去に存在していたことを知っていた。
にわかには信じがたいが、やはり光弘は、自分たちの系譜となにかしらのかかわりをもつ者なのだ。
白妙をより混乱させたのは、生まれたばかりの癒という神妖だった。
大樹から名を授かっている以上、命逢で生まれた新しい命であることに疑いようはない。
だが、その存在に対する違和感がどうしても拭いきれなかった。
生まれながらに力の強い神妖はごくごくまれにではあったが、確かに存在している。
現に、現在の妖月を成している神妖たちは、そのほとんどが生まれながらに他の神妖たちを圧倒する能力を持ち合わせていたのだ。
だが、癒は何かが違う。
命逢の結界は非常に強固なものだ。
生まれたばかりの癒は、その結界を超え、命逢の中へ都古を誘い込み、自分の存在を知らせた。
都古は気づいていないが、これは考えられないことなのだ。
『悠』の位を持つ神妖のみが可能にする術・・・・・。
だが、白妙の目に映った癒の姿は、
変わらな過ぎたのだ。
そのことがより一層、白妙に癒の存在を不気味に感じさせていた。
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