第39話 おかしな駄菓子屋 1

 俺は、数寄屋すきやづくりの門の目前で足を止めた。


 思った以上に小さな門だ。

 高さは俺の身長よりほんの少し高いくらいだろうか。

 しょうは目の高さにある屋根のかわら部分を珍し気に指でつんつんと突いている。

 軒下のきしたには、しめ縄が飾られており、表札部分に古めかしい文字で「だがし屋」と書かれた木札がかけられていた。


 「まっすぐ、私についてきてくれ。」


 そう言うと、都古がゆっくりと門をくぐって行った。


 このままついていったら、俺もあの時のリコのように都古のことを忘れてしまうんだろうか。


 小さくなっていく都古の背中を見ながら、そう考えた俺は、胸の奥が深くえぐり取られるような、息苦しいほどの衝動に襲われた。

 都古の尋常ではない張りつめた様子が脳裏のうりをよぎり、さらに不安をかき立てる。

 俺は、その場を動くことができなくなった。


 その時、前を行くしょうの手が俺の目に映った。

 いつもと変わらぬ様子でひょうひょうとしているように見えた勝だったが、そのこぶしは白くなるほど強く、固く握りしめられている。

 俺の視線に気づいたのか、勝がこちらを振り返りニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


 「先に行くぞ。」


 勝は親指で通路の奥を指さした。

 勝の向こう側では、光弘みつひろが真剣な眼差しでうなずいている。

 それを見た瞬間、俺の全身から力が抜けた。

 あんな様子の都古を見たら、勝と光弘だって不安に思っていないはずはない。


 今更一体何をためらってるんだ。俺・・・・・。


 俺は一つ深く息をついて肩の力を抜くと、2人に続き門をくぐった。


 門をくぐった先。

 通路の中は不思議なほど広い空間が広がっていた。

 真夏にもかかわらずヒンヤリと薄暗く、まるで洞窟のようで中の様子はほとんど見えない。

 時折響き渡る水琴窟すいきんくつのような音が、妖しく心を揺らしてくる。


 なにかがおかしい。


 俺はあせった。

 すぐそこに、あたたかな光に照らされた木のベンチやアイスの冷凍庫が置かれているのが確かに見えているのに、どんなに歩いても一向に近づいている気がしないのだ。

 そればかりか、すぐ目の前を歩いていたはずの勝と光弘の姿も、いつの間にか見失ってしまっている。

 門をくぐってからというものの頭の芯がボンヤリとして、気をゆるめるとなぜ自分がここにいるのか、なんの為に歩いているのかすらわからなくなりそうになるのだ。


 ・・・・・俺、なにしてんだっけ。


 襲い来る強烈な眠気の中、そんなことをぼんやり考え始めた俺の頭の中を、ふいに都古の顔がよぎった。

 そのとたん、体中がドクンと脈打つ大きな衝撃が駆け巡り、俺は一気に正気を取り戻した


 くそっ!

 何考えてんだ俺はっ!

 しっかりしろ!


 情けなさに俺は激しく自分を叱咤しったした。

 突然、ゴウゴウという音と共に、一陣の強烈な風が通路の中を吹き抜けていく。

 あまりの風の強さに、俺は手をかざして顔を覆った。


 「ここ・・・・は。」


 風が収まり手をおろすと「だがし屋」と看板をかかげた木造の小さな建物の前に、俺、勝、光弘の3人は茫然ぼうぜんと立ち尽くしていた・・・・・・。

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