第37話 夏休み 5

 ブーブーうなり声を上げる扇風機せんぷうきに吹かれ、夏の暑さに汗を流しながら、都古の家に行くことを約束した俺たちは、スイカの箱詰め作業を続けていた。


 ほどなく、昼食を終えた父さんが作業に加わると、スイカの箱詰めはテンポよくあっという間に終了した。

 ちょうど3時になり父さんにうながされた俺たちは、休憩をするため全員再び家の中へ戻る。


 中に入ると、すでに母さんがおやつを用意して待ち構えていた。

 俺たちの大好物、ガッチガチの厚焼きしょうゆせんべいやチョコレート、クッキー、そして、でっかいプリンがならんでいる。


 「じゃじゃーんっ!光弘みつひろ君からみんなにプリンの差し入れでーす!」


 そう言うと母さんは自分も一緒に席についた。


 「光弘君、うちに来るのに気を遣わなくていいんだぞ。正直、こうしてみんなの顔が見られるだけで、俺は嬉しいんだ。」

 「ありがとうございます。大丈夫。俺が好きなものを持ってきてるだけだから。みんなで食べたくて。」


 父さんは、少し切なそうな表情で、光弘の頭に手を置くと、優しくなでた。


 「すまんな。夕方もう一仕事行く前に、ちょっと昼寝させてもらうわ。」


 そう言うと、父さんは「こいつはその時のお楽しみ。」と言って、自分の分のプリンを冷蔵庫にしまうと、家の奥に入って行った。


 「いっただっきまーす!」


 みんな待ちきれないとばかりに、口々に光弘にお礼を伝えると、さっそく大きなスプーンを手に取ってカプリとプリンをほおばる。


 「うわ!このプリン、超絶うまい!」


 少し硬めのひんやりとしたカスタードプリンは、口の中でホロリと砕けて、香ばしいカラメルソースと軽やかに絡み合う。

 卵とバニラの柔らかな香りが、鼻腔びこうをふわりと甘くくすぐった。

 その様子を見て安心したようにふんわり微笑む光弘の姿に、俺たちも思わず笑顔になる。


 4人で過ごすこの時間がずっと続けばいい、失いたくない、と俺は心からそう願った。



***********


 「それじゃ、いってくる。」


 母さんに、都古みやこの家へ行くことを伝え、俺たちは自転車にまたがった。


 「で、どっち向かうんだ?」

 「・・・・・駄菓子屋があるところだ。ついてきてくれ。」


 しょうの問いかけに短く答えると、都古は走り出した。

 俺たちは黙ってあとに続いたが、都古の向かう方向はいつも行っている駄菓子屋とは全く違う。

 畑道を抜け、住宅街に入り坂道を下る。

 突き当りの丁字路を右にまがり、家々の立ち並ぶ大きなカーブにさしかかると、ほどなくして都古は自転車を止めた。


 そこは、俺たちにとって別段珍しい場所ではなかった。

 自転車で5分ほど離れた、見慣れた場所の一角だ。

 ただいつもと違っているのは、家々がびっしり軒を連ねている隙間に一カ所だけ、黒くひび割れたような狭い通路が口を開けていることだった。

 目を凝らしてよく見てみれば、通路の暗がりの奥に、数寄屋すきやづくりの低い門のようなものが見える。

 俺たちはいぶかしみながら、駐輪場がわりになっている道路わきの空き地に自転車を停めた。


 「おっかしーなぁ。ここ、こんなんあったか?」

 「・・・・・。」


 勝のぼやきに光弘みつひろは不思議そうにうなずいたが、俺は無言のまま険しい表情で都古を見つめた。


 「こっちだ。」


 都古は1つ深呼吸をすると、俺たちを薄暗い通路の中へと案内した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る