第20話 小野寺 都古の物語>出会い 5

 泣き疲れたのか、いつのまにか腕の中で眠ってしまった光弘みつひろを勝の背に預け、靴を用意するため私と真也しんやは先に昇降口へと向かった。


 下駄箱から靴をだして並べ終えたその時。

 私は、うなじのあたりにゾワリとしたまとわりつくような嫌な感覚を覚えた。

 直感で嫌な感じのする教室の方へ向かって走り出す。

 慌てた様子で私を呼び止める真也に「少し様子を見てくる」と返し、悪寒のする方角へ急いだ。


 今まで感じたことがないほどの濃厚な悪意に息苦しさを覚えながら、気配を殺して柱の陰から様子をうかがっていると、ほどなくして光弘みつひろを背負い、慎重に階段を下りてくるしょうの姿が見えた。

 だが・・・。


 あれは・・・・・一体なんだ?


 光弘の身体から、細長い縄のようなものが伸び、2人に絡みつき始めたのだ。


 「よせ・・・殺すなら俺を殺せ・・・・・。」


 光弘の口から細く苦しそうな声が漏れる。

 細長い縄は大きく形を変え黒く燃え盛る大蛇となった。

 黒炎は大蛇が鎌首をもたげるのに合わせ、更に激しく燃え上がりその数を3匹にまで増やしていく。

 1匹は勝の身体に巻き付き、もう1匹はその場でかき消すように姿を消した。

 残る1匹の蛇は、私の方へ音もなく身体を滑らせ向かってくる。


 まさか・・・・・。


 「だめだ。3人とも・・・・俺に近寄るな。」


 絞り出すような光弘のささやき声は、私の予感を確信に変えた。

 これが光弘を苦しめている元凶なのだ。こいつは、私たちを攻撃しようとしている。


 「・・・・・もう誰も・・・失いたくないんだ。」


 涙に濡れる光弘の言葉に、胸が締め付けられる。

 私は迷わず手でいんを結んだ。


 「開眼かいがん。・・・・・・こい。」

 (静寂しじま


 私は詠唱えいしょうし、心の中で名を呼んだ。


 影の中に大きな目の模様が浮かび上がり、そこから無数の青いちょうが音もなく湧き出す。

 突然現れた蝶の大群に蛇が翻弄ほんろうされている間に、指で窓を作り、その視野に勝と光弘の姿をとらえる。


 「あばけ。」


 切り取られた視界があおく色づき、3匹に分かれていた蛇が強制的に引きずり戻され、蒼い箱の中で1匹の黒蛇へと返る。


 「え。」


 呼びかけに応え、蒼い蝶たちが群れとなって瞬時に黒蛇を覆いつくす。黒蛇は断末魔の唸り声を上げ、蝶の触れた部分から溶けるように崩れ去っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る