第12話 香坂 勝 の物語>出会い 3
濡れた床や、散らかった教室を片付け終え
長いまつげの下に濃いくまができている。
長いことちゃんと眠れていないのかもしれないな。そう思うとまた胸がひどく痛んだ。
「俺がかつぐから、このまま寝させといてやろうぜ。」
俺は、都古と
2人は、俺と光弘の荷物を持つと、靴を用意しておくといって一足先に昇降口に向かっていった。
上着ごしに光弘の身体の冷たさを感じながら、俺は自分自身にどうしようもなく腹が立ってしょうがなかった。
こんなんなる前に、いくらでも気づくことができたんじゃないか?俺は、なにを見てたんだ。
行き場のない憤りに、奥歯を強くかみしめながら慎重に階段を下りていると、背中から光弘の声が聞こえた。
動かないところをみると、寝言だろうか。
俺は階段を下りきったところで足を止め、耳を澄ませた。
「だめだ。3人とも・・・・俺に近寄るな。・・・・・もう誰も・・・失いたくないんだ。」
光弘の涙に濡れた言葉に、俺は背中に乗せる重みが一気に増したように感じた。
こいつは、一体何を背負ってやがんだ?
野崎を殴ろうとする真也を光弘がなぜ止めたのか・・・鈍い俺でもわかっていた。
あの時、光弘は野崎を守ったんじゃない。
真也のことをかばったんだ。
事情はどうあれ、真也が野崎に暴力をふるったとなれば、大きな問題になることは間違いなかった。
俺たちが怒られるだけで済むような、甘い話ではなくなっていただろう。
光弘は、自分があんな目にあっているさなか、俺たちの心配ばかりしていたんだ。
胸が締め付けられ、|目頭(めがしら)が熱くなる。
辛いのはお前だろが。
苦しいのはお前だろうが。
夢ん中でまで俺らの心配してどうすんだよ。
それに・・・・・。
「近寄らないでくれったってな、手遅れだぞ。俺も・・・・・あいつらもな。」
俺は、背中に乗ってる重みや肩を濡らす涙を、手放したり誰かに譲ったりしてやる気はこれっぽっちもない。
指の間を|零(こぼ)れ落ちてしまっていた大切なものにやっと気づくことができたんだ。
こうして触れることができたんだ。
それをみすみす手放してやれるほど、俺は物わかりのいい人間じゃないぞ。
それに、今更お人好しで不器用な人間が一人や二人増えたところで、大したこともないしな・・・・・。
そう考えた途端、急に目の前がひらけた気がした。
俺はただ、心のまま自由に、真っ直ぐ突き進むだけだ。
気のせいか、光弘の寝息がさっきより穏やかになった気がする。
それにしても・・・・・なんだって俺の周りには、ここまで究極のお人好しばかりが集まってくるんだ?
頼むからお前ら、自分のことももう少し大事にしてくれよ。
俺は苦笑しながら、2人が待つ昇降口へ向かって、力強く一歩を踏み出した。
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