第2話 慟哭

 ────真っ暗だ。


 今日もまた、悪夢の淵に立たされたのだと気づき光弘みつひろの心は絶望に染められた。

 一筋の光すら差し込まない暗闇の中に身体だけがぽつんと浮かんでいる。


 足元に視線を落とすと、ぐったりと横たわっている母の姿が目に飛び込んできた。


 青白い母の横顔に死の影を見た気がして、光弘は震えるほどの恐怖に凍えながら、母のそばにひざまずいた。


 突然、数メートル先の闇に2台の車がぽっかりと浮かび上がった。2台とも窓ガラスは粉々に割れボンネットは握りつぶした紙くずのようにゆがんでいる。


 上下さかさまにひっくり返った白い車からメラメラと炎が噴き出し、またたく間に車体を飲み込み始めた。


 止めることのできない凄惨せいさんな光景に光弘の心が悲鳴をあげる。

 炎を上げる車に光弘は必死で駆け寄ろうとするが、何本もの見えない腕に羽交はがめにされ一歩も前に進むことができない。

 そればかりか、悲痛な叫びを声にすることすら光弘には叶わなかった。


 (やめてくれ!・・・・・お願いだ・・・・・誰か、誰か助けてくれ!)


 真っ赤な炎に容赦なく舐められている車内から、自分の名を呼ぶ悲鳴じみた叫び声が聞こえてくる。


 (ぅわあああああああっ!!)


 張り裂けそうな心の痛みに声にならない悲鳴を上げながら、光弘は燃え盛る車に向かい鉛のように重い腕を必死でのばした。

 そんな光弘をあざ笑うかのごとく、突然足元の地面がバックリと裂け巨大な闇が口を開く。

 底知れぬ闇が、目に映る全てのものを貪欲に穴の底へと引きずり込み始めた。


 (俺のせいで・・・・・。俺が・・・・・俺が姉さんを殺したんだ。)


 内臓がズグリと浮き上がるような感覚と全てがバラバラに砕け散りそうな絶望感の中、光弘は深い闇の中へ落ち始める。

 底の見えない絶望の渦に全てが飲み込まれようとしたその時・・・・・遠くから携帯電話の着信音がかすかに聴こえてきた。

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