21話 「ロイ一味活動開始」
ミナミカイの街中にある時計台に、ロイたち一味が集結していた。
ロイたちは、エンドールが用意した昼の第一便に乗って、さっそくキタカイからミナミカイに潜伏していたのだ。
ガタイの大きいワススともうひとりの仲間が、目立つかもと思ったが、すんなりとミナミカイに入ることができていた。
フォール兵士の諦めムードが、チェック体制を低下させていたのだろう。
今、ロイたちのいる時計台は、フォードの屋敷の近くの場所にあったものだった。
すっかり空は暗くなっていて、星の姿が空に浮かんでいた。
バン! と一発銃声が轟く。
ドサリと、ロイの足下に人が転がる。
命乞いも空しく、絶命し、身動きしなくなるひとりの男。
眉間から血を流している。
頭を銃撃され殺されたようだった。
地に伏した男の胸ポケットから、乾燥大麻の束がポロリとでてくる。
この死体の人物は、この地域の麻薬の売人だった。
そしてこの場所こそ、密売組織のアジトでもあった。
「話しが早くていいだろう。これが僕らの持ち味だよ」
銃を手にして、ロイが隣にいた大男に笑いかける。
血なまぐさい現場なのに、ロイは相も変わらずニヤニヤ笑っている。
周囲には、いくつもの死体が転がって床を赤く染めていた。
「こういうゴミみたいな連中なら、容赦なく殺れるってもんだ」
ロイの隣の大男がうれしそうに笑う。
男の名前はミュレファド。
ロイの一味のひとりだった。
身長が二メートル近くある大男で、筋骨隆々のたくましい体格をした蛮族のような男だった。
ロイ一味のワススと同じ、武闘派のひとりに数えられる殺し屋だった。
頭頂部まではげ上がった頭皮に、返り血が飛び散っていた。
「占領前のゴミ掃除ってことだな!」
ミュレファドがうれしそうにいう。
「旦那、これはどうすんだ?」
ミュレファドの目の前の机の上には、乾燥大麻が大量にあった。
「欲しけりゃどうぞ。好きに使ってくれてもいいよ。でも使いすぎには、注意だからね」
「おお、さすが旦那、気前がいい」
ミュレファドがロイに礼をいい、大麻の束を懐にしまう。
「どうだ、お前もいるか?」
ミュレファドが隣にいた、これまた大柄な体格の男に訊く。
黒いスーツを着たその男は、ワススという剣士だった。
ワススはうつろな表情で、血まみれの現場を眺めていた。
ワススは腰に長剣を装備し、黒いスーツの一部にはよく見ると返り血が飛び散っていた。
「俺はいらねぇよ。こっちがあるからな」
ワススが、怪しげな錠剤をミュレファドに見せてくる。
「なんだおまえ、すでに薬漬けだったのかよ。そりゃ悪いな。こんな安もんの葉っぱなんかいらないってか? っていうか旦那からもらっているのか? うらやましいな、それ俺にもくれよ」
ミュレファドがワススの持つ錠剤を見て、ロイにおねだりをする。
「この薬は、ワススくん専用になっているからね。悪いけどきみには合わないよ」
ロイが、懐からワススの持つ錠剤と同じものを見せてくる。
「なんだよ、ヤツだけひいきしてるみたいで感じ悪いぜ~」
口をとがらせ、ミュレファドが不満をいう。
するとドン! とひとりの男が隣室から、ボロボロになって床に転がされる。
ロイたちの目の前に、血まみれの男がひとり転がる。
男が吹っ飛んできた部屋から、四人の男が現れる。
「ヒャハハ! もう少し早く喋れば、こんな目に合わなかったのになぁ。苦しいだけだったろ?」
笑いながら、地面に転がる血まみれの男の顔を踏む。
比較的若く見えるこの男の名前はカララスといい、やはりロイの一味のひとりだった。
カララスの後ろから、これまた凶悪そうな人相の男が三人現れる。
目つきが鋭く、ただものではないといった印象の男たちだった。
男たちはそれぞれ、血に濡れた工具を持っていた。
「おやおや、ずいぶん頑張ったね? 素直に吐けば楽に逝けたっていうのに」
ロイがニヤニヤと血まみれの男にいう。
「た、助けて……」
血まみれの男が、爪をはがされた指をロイに向けて命乞いをする。
「いやいや、それは無理だよ。麻薬の売人なんて下等生物、僕らが、生かしておく道理がないだろ? 何せ僕らはこれでも正義の執行人。せめて苦しまないように、選択肢をあげたっていうのにさ」
ロイはチラリと、後方にいる三人組に目配せをする。
その瞬間、三人組の男たちが無言で一斉に、銃で男の頭を吹き飛ばす。
三発の銃弾を一気に浴びて、不幸な男の頭部が血煙を上げて消し飛ぶ。
地面に新しい血溜まりがまた広がる。
ロイの靴に血しぶきが飛んでくるが、気に留めることもない。
ロイが絶命した男を見下ろして、ニヤニヤしている。
「いやあ! まったく惚れ惚れする躊躇のなさだ! 感動すら覚える潔い暴力だ!」
ミュレファドが、うれしそうにそう喝采を叫ぶ。
「やっぱ暴力ってのは、わかりやすくていいな! すんなり事も進行していいぜ!」
「だろう? これが僕らの流儀さ。“ ミラディス神 ”から与えられた天職だと思って、これからの任務も頼むよ。絶対に満足いく展開が、きみたちを待ち受けているからね」
ロイが、まだニヤついた表情を残しながら、ミュレファドにいう。
「さてと、やるべきことはたくさんあるよ。これで終わりだと思ったら大間違いだよ。世直し旅団は、機関車のごとく目的に向けて一直線に突っ走るんだよ」
ロイはテーブルの上にミナミカイの地図を広げる。
「それいいかい?」
ロイが三人組の部下のひとりから、聞きだした他の売人仲間の住所が書かれたメモを受け取る。
そして、地図上にピンを留めていく。
「これが、こいつらの仲間のアジトさ! さてさて時間が惜しいね。残りの仲間連中も今晩中に片づけるかな」
現在地から一番近い場所のピンを指差し、ロイがニヤリと口元を歪める。
その言葉を受けて、ロイの仲間たちがうれしそうな顔をする。
その表情は邪悪に満ちていた。
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