17話 「遺跡を巡って」 前編

 ニュース報道は、アバック提督による遺跡への攻撃で大盛り上がりだった。

 結局あの夜の攻撃で、ティチュウジョ遺跡は海に三割以上が没してしまったようだった。

 三割が再び海に沈んだティチュウジョ遺跡は、斜めに傾いてその巨体を縮小させていた。

 リアンたちは、朝食時にその記事を読んでいた。

「どうもこのアバックって人が、相当好戦的らしいね」

 アートンが記事に載っている、アバック少将の顔写真を指差していう。

「この記事は、けっこう突っ込んで書いてあるな。レニエ提督は、むしろこういった危険な連中を、暴走しないようにまとめていたようだね。軍に残ったのも、好戦的な連中を抑制するためだったらしい」

 バークが記事を読みながら、こう教えてくれる。

「なるほど、それであいつは冷静だったわけね」

 アモスがタバコをくわえて、小声で回想する。

 アモスが例の術を使い、海軍本部に訪れた時に感じた、妙な違和感の正体を知る。

「なんのお話しですか~、アモスちゃん」

 ヨーベルがそういいながら、ライターでアモスのタバコに火を点ける。

「なんでもないわよ」

 ヨーベルの頭に、軽く手刀を落として謝意をアモスが伝える。


「バークの話しを聞く限り、レニエさんって人は、案外最初からエンドールとの決戦を考えてなかったかもね」

 アートンがそんな予想を口にする。

「そうだな、レニエさん最初から決戦を考えてなくて、政治的な駆け引きを求めていたのかもしれないな」

 バークが、伸びてきた髭をさすりながらいう。

「記事によれば、今回の遺跡への攻撃って、アバックさんっていう人の独断専行らしいですね」

 リアンが記事を読みながら、窓の外を見る。

 窓の外に見える遠景の遺跡は、まだうっすらと白煙を上げていた。

「で、そのアバックって、どうなったのよ?」

「謹慎だとさ」

 アモスの疑問にバークが答える。


「遺跡はまだ煙を出していますね。やっぱり相当破壊されたんでしょうね」

 リアンが窓の外を指差していう。

「なんか形が、変わってるような感じです」

 ヨーベルも窓に張りついて遺跡方向を指差す。

「本当だな……。ハーネロ期のいわくつきの遺物とはいえ、貴重な文化財には変わりない。それをあんなに破壊して、クルツニーデ辺りが黙っていないでしょうね。おそらく相当モメるかもですよ」

 コーヒーを用意してくれながら、ジェドルンが教えてくれる。

「フォール地区を担当しているポーラーさんは、かなりヤリ手のクルツニーデとして有名です。先代からティチュウジョ遺跡に対して、並々ならぬ執念で探索していた研究家でもあります。その人の前で、あんな攻撃を加えたら……」

「ところで、そのポーラーって人が、あの遺跡を浮上させたのでしょうか?」

 ミアリーが首をかしげて記事を読む。

「ずっと研究してたんですよね? その結果、あれが浮き上がってきたんですよね?」

「さぁ、その辺り、どうなんでしょう?」

 眉をひそめてジェドルンがミアリーにいう。


「遺跡浮上の件で、正式な会見がまだありませんからね。今日中にでも、何かしら反応があるかもしれませんね」

 バークの空のカップに、コーヒーのおかわりを入れるジェドルンがいう。

「フフフ、この件がどう揉めるかちょっと見ものね。楽しみじゃない」

 アモスが人相の悪い顔になって、そうつぶやく。

「また人ごとだと思って……」

 リアンがアモスをたしなめる。

「で、ヨーベル。体調のほうはどうだい?」

 バークがヨーベルに尋ねる。

「まだちょっと、体調は悪いようです。頭がぼうっとしてて、世界がクルクル回っているようです」

 ヨーベルが頭を軽く振りながら、そんなことをいう。

「それはいけませんね、今日もナモーデ医師をお呼びしましょう」

 ジェドルンが安心させるように、ヨーベルに語りかける。

「すみませんね、お世話かけます」

 一団を代表して、バークがジェドルンに礼をいう。



 ポーラーの記者会見に、記者たちが殺到していた。

 会見場所は港の埠頭だった。

 バックに白煙を上げる遺跡を、映るようにしている。

 とにかく、怒り心頭のポーラー。

 会見内容はメチャクチャだった。

 ポーラーが一方的に話す言語は、スフリック語だった。

 記者たちも聞き取りに、四苦八苦している感じだった。

 しかし、ポーラーの狂気じみた剣幕に、誰も「グランティル語で」とはいえない。

 ポーラーはひとしきり怒りをぶちまけると、会見を終えて帰ろうとした。

 慌てて記者たちが止めようとするが、ポーラーは無視して会見を後にしようとする。


 そこへ、ピルーアという記者が挙手をして、ポーラーの視界に入り込む。

 ピルーアは、パニヤ中将専属の従軍記者だ。

 彼はスフリック語が理解できていた。

「ポーラー博士! 今フォールにいいたいことは?」

 ピルーアがスフリック語で質問をする。

 その質問に、ポーラーは足を止める。

「己の愚行を必ず後悔させてやる! 以上だ!」

 スフリック語でそう怒鳴るポーラー。

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