最終話 「遺跡からの脱出」
バークはミアリーの手を引き、ドロだらけの斜面を登っている。
傾きがさらに大きくなり、建物の勾配がかなりキツくなってきた。
「ヨーベル、ミアリー大丈夫か?」
バークがふたりに声をかけて励ます。
「はい、なんとか!」
そう答えるヨーベルとミアリーの表情は、こわばっていた。
「ミアリーは意外と体力あるんだな、助かるよ。ヨーベルは平気か?」
「わたしも今のところ、結構大丈夫です」
ヨーベルが、バークに向けていつものようにサムアップする。
「とにかく、きみたちふたりだけでも、フォールに保護してもらえるよう頑張るぞ! 俺はもう一度、リアンたちの捜索に戻るから」
「は、はい……」
バークの悲壮感に満ちた言葉に、思わず顔を曇らせてしまうふたりの女性。
バークが勾配を登りきる。
ミアリーを最初に引き上げ、次いでヨーベルを引き上げる。
体格のいいヨーベルを引き上げるのはバークにとって大変で、ミアリーの助力も必要だった。
なんとか登りきったヨーベルがへたり込んで、その場で息を整える。
海にはフォールの海軍艇が、たくさんいるのが見える。
「なんとか、助かりそうなのかな?」
海軍に発見されやすそうな場所を、バークが探す。
「ミアリー、こっちだ!」
手を伸ばすバーク。
ミアリーがバークの手をつかんだ。
すると、また大きな揺れが発生する。
ミアリーの足場が崩れる!
宙ぶらりんになるミアリー。
バークが必死に引き上げようとするが、足場がドロドロで滑る。
ミアリーごと落下しそうになるのを、ベルトに手がかけられる感触をバークは感じる。
途端に、ミアリーの体重が軽くなったような気がする。
なんとアートンが急に現れて、助けてくれたのだ。
「アートン!」
バークが、まさかの助け船を出してくれたアートンを見て驚く。
「みんな手伝ってくれ!」
アートンが叫ぶ。
アモスとリアンもやってきて、アートンを引っ張って助けようとする。
引き上げられたミアリーが、バークに抱きかかえられる。
「みなさん! 無事だったんですね!」
ヨーベルが、分断されたはずのリアンたちの顔を見て安堵する。
助けられたミアリーも、リアンたちの姿を見てよろこんだ表情をする。
リアンたちの向こうで、謎のゲートが妖しい光を発していた。
そこから現れたリアンたち。
やがて、そのゲートは発光するのを止める。
リアンたちは、再会できた奇跡をよろこびあっていた。
キタカイの港。
パニヤとスワックとステーのエンドール軍三将軍が揃っていた。。
「遺跡から光が消えましたね……。どうしたというのでしょうね」
ステー少将が不思議そうにつぶやく。
さっきまで、いくつもの光が輝いていたティチュウジョ遺跡が、その発光を止めたのだ。
「また眠りについた、とかいうのでしょうかね?」
スワックが疑問を口にする。
ピルーアというパニヤ専属の記者が、おおよろこびしている。
「閣下! いい絵が撮れました! まさかティチュウジョ遺跡が、再び蘇る瞬間に立ち会えるなんて! 閣下! あの写真、明日の朝刊の一面を飾りますよ!」
「おお! そうか!」
先ほど光る遺跡をバックにして、パニヤが陣頭指揮をしている構図の写真を撮ったのだ。
観光地に来た観光客のような、幼稚なパニヤの行動だった。
パニヤとピルーアが、すごくよろこんでいるのを、冷ややかな目で見るスワック中将とステー少将。
「こういう展開は、正直想定外だな……」
スワックが疲れたようにいう。
「まったくだ。ところで。なんであれ、いちいち浮き沈みするような構造になってるんでしょうね?」
「そんなこと、ハーネロの人間に訊くしかないだろうな」
ステーの質問に、スワックがそっけなく答える。
「しかし、こんな海のど真ん中に出てくるとはね。今後の海戦はどうしたらいいのだろうな?」
スワックが眉を下げて、不安そうにつぶやく。
「明らかに邪魔だな、あの遺跡……」
今後主戦場となると思っていた海域を、ドカっとティチュウジョ遺跡が占領してしまったのだ。
これでは海戦も、思うようにできなさそうだった。
「閣下、ライ・ローさまがお呼びです」
スワックの部下がやってきて、耳打ちをする。
スワックとステーがこそこそと何かを話し合う。
それを見て、気になったパニヤが声をかけてくる。
「どうしたんだね? スワックくん」
ニコニコと、パニヤが威厳などまるでない表情で語りかけてくる。
「いや、例の騒動に関して、少し気になる報告があったもので」
不快感を殺し、スワックがパニヤに答える。
「ああ、例の件か。そうかそうか、それなら仕方ないね。でだ、これから飲みに行こうかと思うんだが、おふたりもどうかな?」
その場から立ち去ろうとするスワックとステーを、パニヤが食事に誘ってくる。
「上手い肉を食わせてくれる店があるんだよ。一緒に行かないかい?」
「いえ、今は腹も空いておりませんので、われわれは結構ですよ」
「そうかね、たまには息抜きも必要だぞ」
パニヤは、ピルーアを含めた腰巾着の中心で笑顔だった。
まるでかつてのネーブ主教のように、周囲に有象無象をまとわりつかせて悦に入るパニヤ中将の顔は満面の笑みだった。
了
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