7話 「チルの部下たち」
「あのふたりだぞ」
ゴスパンが、喫茶店から出てきた、ふたりの男に気づいてメンバイルに話しかける。
「ん? ああ、本当だな。チル中尉に客人といってたが、またあいつらか」
「行商人とかいってたが、どうも商人には見えないんだよな」
メンバイルが歩いてくる、アートンとバークの姿を見て首をかしげる。
チルの部下であるふたりの屈強そうな軍人は、宿泊している宿から出てきたところだった。
「中尉のヤツ、交友関係は広いからな。クルツニーデだったり、植物の研究者だったり、いろいろいるからな」
「この前は、妙に色気のある女とも会っていたが、あれも知り合いなのだろうな」
「仕事おざなりにして、そんなのとも接点持っていたのか?」
ゴスパンが意外そうにメンバイルに尋ねる。
「ああ、黒人の女だったよ」
「女っ気がない人だとは思っていたが、それは意外だな」
「ああ、意外だった」
話し合っているふたりの曹長。
その前を横切って、アートンとバークがバーに入っていく。
その際に、ふたりの顔を食い入るように見つめ、記憶に留める。
「なぁ、あの背の高いほう……。アートン・ロフェスとかいったか」
「うむ、お前も気づいたか」
「あれは軍人だな」異口同音でふたりが口にする。
背筋の伸び方と歩き方で、アートンが元軍人であることをふたりの曹長は見破った。
「どうする? 確認しておくか?」
ゴスパンがメンバイルに尋ねる。
「声をかけて、どうするんだ?」
「素性を正すぐらい構わないだろ。チル中尉は、答えたくない質問は絶対にはぐらかすからな」
ゴスパンとメンバイルが、ふたりの男に声をかけるために酒場に向かうと、ちょうどそこへ部下が声をかけてくる。
「曹長! ご苦労様です!」
「これから飲まれるのですか?」
部下が敬礼をしながら訊いてきた。
「いや、そうではない。この格好で飲むわけにもいかないだろ」
「ちょっと確認したいことがあったんだよ」
ゴスパンとメンバイルが部下にいう。
「ん? それはなんだ?」
メンバイルは、部下がホルスターに入れられた銃を持っているのを見つける。
「はい、チル中尉の忘れ物です」
部下が銃を見せてくる。
「また銃を忘れていたのか。本来なら懲罰ものだぞ、まったく、あの人は……」
ゴスパンがうんざりしたような顔になる。
「これから中尉に、届けに行こうかと思いまして。中尉は、自室に戻ってらっしゃいますよね?」
部下がチルに、銃を届けようとしてくれる。
「なるほど、そうか。では俺が届けよう。最後の小言をいっておきたい」
ゴスパンが部下から銃を受け取る。
「彼のことだ、これがまだ最後になるとは思えないがな」
ゴスパンとメンバイルは軽く笑う。
「で、そっちのは何だ?」
ゴスパンが、部下の手にしている本を見る。
「先日の検問で拘束した、不審者から没収したハーネロ関連の書籍です」
「ハーネロ関連?」
「はい、この国ではそういった類の本は、所持しているだけで処罰されるらしいのですが。書物として価値が高いものも多いそうなんです」
本をペラペラとめくりながら部下がいう。
「どこで聞きつけたのか、その本を譲ってくれとの要請がキタカイ市庁からありまして」
「禁止している側が要求するのか、よくわからんことをするな」
ゴスパンが若干呆れたように本を見ながらいう。
「なんとも過激な挿絵の本だな。これは発禁くらっても、おかしくないな」
メンバイルが裸で絡み合う挿絵を見て、納得したように何度かうなずく。
「この内容でしたからね、拘束した理由も」
「所有者は何者だったんだ?」
ゴスパンが部下に質問する。
「こういったハーネロ関連の書籍を、闇取引しているブローカーのようですね。この国では、こういうのが商売として成立するようです」
部下の言葉に納得したように、ゴスパンとメンバイルは本を流し見る。
「エンドールとしては、この辺り今後どうするんだろうな? フォールの禁忌を踏襲するのかな?」
メンバイルがふと、疑問に思ったことを口にする。
「うちらの国では、その辺り特に問題なかっただろうしな」
「政は、俺たちの管轄外だよ、じゃあ、これを中尉に届けてくるとしよう」
ゴスパンがハーネロ関連の話題を打ち切り、チルに銃を届けに向かおうとする。
「お前は、そっちに興味津々だな」
ゴスパンが、ハーネロ本に夢中のメンバイルを笑う。
「うむ、多少興味を引く内容だからな……」
「せっかくだし、少し読まれますか? 届けたらもう二度と見れない本かもしれませんよ」
部下がメンバイルにこんなことをいう。
「そうか、では少しだけでも後学のために……」
メンバイルが興味深そうに、ハーネロ関連の本を読み込む。
「まあ、俺も興味がないといえば、嘘になるかもな……」
そういってゴスパンまで、ハーネロ本に食いつく。
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