第6章 『雨音と邂逅』

1話 「雨音と邂逅」 前編

 森の中に車が停まっている。

 そのすぐ側で、リアンたちが集まっている。

 車にあったシャベルを使い、アートンが深い穴を掘っていた。

 その穴の中に、アートンはアタッシュケースを埋める。

 ケースの中には、高性能な銃が多数収められていた。


「アートン、見納めだぞ。本当に要らないんだな?」

 バークがアートンに最後通知してくる。

「持ってれば、いざって時に唯一、活躍できるチャンスじゃないのぉ?」

 アモスがアートンに、挑発的に話しかける。

 アモスの言葉に顔をしかめたアートンだが、真顔になる。

「こういうのがあると、かえって面倒なことになるだろうよ。それに俺たちの旅には、銃なんか不要だよ。リアン、ヨーベル、君たちを無事に送り届けるのが目的だけどさ。こういうのが必要になるような旅なら、それこそもう旅自体を止めたほうが、ふたりのためだろうよ。争うことを前提にした旅なんて、望んでいないだろう?」

 アートンが、リアンとヨーベルを見つめていう。


 リアンがアートンの言葉に感銘を受けて、頬を紅潮させて力強くうなずく。

「何よ、その言葉はあたしへの当てつけかよ」

 アモスが不愉快そうにアートンにいう。

「でも、アートンのいう通りだと思うぞ。そのなんだ、俺としても揉め事は極力避けたい」

 バークが穴の中のケースを眺めていう。

「楽しい旅と激しい冒険では、後者のほうが人気でそうですが、そうはいってられないですもんね。わたしたちがあっさり死んじゃったら、それこそガッカリです。金と時間返せレベルですよ~」

 ヨーベルが赤いフレームのメガネを掛け直し、そういってから空を見つめながらクンクンと匂いをかぐ。

「なんだか空気が湿っています、雨が降りそうですね~」


 ヨーベルの言葉を受けて、アートンとバークも空を眺める。

 ヨーベルのいう通り、木々の間から見える空は曇天模様になっていて、本当に雨が降りだしそうな感じだった。

「降りだす前に、さっさと片づけてしまおう」

 バークがいい、アートンもうなずく。

 アートンは、銃に未練などもうないといった感じで、率先してシャベルで穴を埋めだす。


「あっ、ちょっといいですか」

 そんなアートンをリアンが制止する。

 何事かと思い、アートンたちがリアンに注目する。

「えっと……」

 急な注目で、少したじろいだリアンだが、決意を込めたようなつきでアモスを見つめる。

「あら? どうしたの?」

 アモスがリアンの視線を感じて尋ねる。

「できればなんだけど……。いや、やっぱりどうしてもお願いしたいんだけど」

 リアンはアモスの目を見つめながら、緊張した声でいう。


「あのナイフも、ここで処分して欲しいな」

 リアンの言葉で、その場にいたヨーベル以外の人間が、ハッとした表情になる。

 アモスは無言で、タバコを取りだして一本をくわえる。

 それに素早く火を点けるヨーベルという、いつもの一連の流れ。

「アモス、お願いしてもいいかな?」

 リアンが、アモスにハッキリとした口調でいう。

 いつものキョドった感じが一切なく、真剣に訴えかけるリアンの言葉。


「え~、なんでさぁ。あたしにとっては、大事なモノなのよ? それを手放して、捨てろっていうの?」

 言葉は、いつものリアンに対してのように優しげだが、アモスは明らかに嫌がっている。

「そこを、お願いできませんか? 僕たちの旅に……」

 ここでリアンは、先程のアートンの言葉を引用しようとしたが、中断する。

 アートンの言葉で説得しようとしたら、アモスが反発すると思ったからだった。

 そこで、アモスの目をしっかり見つめて、リアンは再度お願いしてみる。

「ああいう危ないのは、持っていないほうがいいです。あるから使っちゃうとか、そういうのもあると思います。ここで処分してくれたら、アモスも危ないことしないですよね? 大事なモノかもしれませんが、僕個人としては旅に不要だと思います。お願いできませんか?」

 リアンが必死に訴えかける様子を、バークとアートンも眺めている。


 アートンが何かを口にしようとしたのを、バークが止める。

 今はリアンに任せようという思いを、バークが無言でアートンに伝える。

 それを受けてアートンも空気を察する。

 自分がしゃしゃりでて、アモスを煽るようなことがあったら、リアンの必死の訴えも無駄になると思ったのだ。

「アモスちゃんのナイフの話しですか? ああ、あれは危ないので、捨てちゃったほうがいいかもですね~。わたしは、リアンくんに賛成です~!」

 ヨーベルが空気を読まず、うれしそうに賛同してくる。

 それに対して、アモスが手刀をヨーベルの額に見舞わせる。

「アモス、お願いします!」

 リアンがまたアモスに訴える。

 リアンの真剣な視線を、アモスがじっとりした目つきで見つめる。

 そしてアモスは、大きくため息をつく。


「わかったわよぅ。もう、そんな真剣な目で見られちゃ、お姉さんもじゅんじゅんきちゃうわよ。これね、これが怖いのね?」

 アモスがそういって、ポーチからナイフを取りだす。

「すっごく怖いです!」

 リアンが正直にハッキリという。

「だから捨てて欲しいです、その穴に! 一緒に!」

「わかったわよ、もう! 捨てればいいのね、捨てれば」

 アモスの言葉に、バークとアートンが驚く。

 そしてアモスは、本当にナイフを穴の中に放り投げる。

 凶悪な形をした鋭利なナイフが、アタッシュケースの上に乗っかる。


「すっごくいいナイフで、あたしにとっては、思い出の品だったのにな~」

「僕たちとの旅で、思い出は上書きしていってください」

 アモスに対してリアンがそう返す。

「アハハ、そうありたいわね。了解よ、リアンくん。ほら、バカアートン、さっさと埋めな!」

 アモスが、シャベルを持つアートンにいう。

「いいんだな、じゃあ……」

 確認をいちおうしておいて、アートンは素早く穴を埋めていく。

 土がたちまち、ナイフの姿を見えなくさせる。


「ありがとう、アモス。本当にうれしいです」

 リアンが笑顔でアモスに礼をいう。

「いいわよ、怖かったっていうんなら、あたしも悪かったわね」

 珍しく、アモスが謝罪の言葉を口にする。

 それに対して、何か突っ込みたい気持ちのアートンとバークだったが、今この空気を壊すのは、得策ではないと思っていたので黙っていた。

 アートンがシャベルで土をかけ、バークも無言で手で土をすくい穴を埋める。

 早く埋め切らないと、アモスの気が変わりそうで、まだ不安だったのだ。

 結局、アモスは気を変えることなく、穴は埋めきることができた。

 すると、それを待っていたかのようなタイミングで、雨が急に降りだしてきた。

 リアンたちは慌てて車内に戻る。

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