14話 「狂気の集団」 前編

「ん~? ネーブ、多数の土建屋との癒着? 何よこれ?」

 アモスが、バークから新聞記事を見せてもらっていた。

「どうも、犯人は殺すと同時に、ネーブの汚職を告発したようなんだよ」

 バークが、村にあるオールズ教会の長椅子に腰掛けながらいう。

「んん? どういうことだね? 先の事件、結局、ネーブ一派の失脚が狙いだったのかね?」

 ハイレル爺さんが、人数分のコーヒーを用意しながら尋ねてくる。

「どうなんでしょうね。でも、その可能性が高いかもですね」

 バークが、ハイレル爺さんからコーヒーを受け取り礼をいう。


 リアンたちは今、村にあるべーレ大主教が祀られたオールズ教会に来ていた。

 教会で、アシュンが用意した食材を使い、ヨーベルがサンドウィッチをこしらえてくれた。

 ヨーベルがアシュンと一緒に、全員に昼食を配ってまわる。

 アシュンがヨーベルの、サンドウィッチを作る手際の良さに関心して、彼女の料理センスを褒めていた。

 どうやらアシュンは料理の才能がまったくないため、ヨーベルに対して、さらに憧憬の念を抱いているようだ。

 

 時刻は、正午を少し回った時間になっていた。

 朝は熱でフラフラだったリアンも、すっかり回復して、この昼食会に参加していた。

「教会で、一時最大勢力を誇っていたネーブ一派は、この件でダメージを受けまくってるようだね」

 バークが緩いお昼の昼食会で、ひとり難しい顔をしている。

「つまり例の事件の犯人は、ネーブに敵対する勢力だったってわけなの?」

 サンドウィッチをほおばりながら、アモスが尋ねる。

 バークに質問してはいるものの、もうすっかりネーブの話題に飽きている様子だった。

「そう考えるのが自然だよな」と、いうバーク。


 リアンだけが興味深そうに、バークの持っていた記事を読み込んでいる。

「正直さ、教会の坊主どものことなんか、まったく興味ないわね。で、どうなの? あんたは、どいつか怪しいの目星ついてるの? せっかくだから、バーク軍師さまの予想をもっと聞かせてよぅ」

 アモスが、嫌味を含んだ言葉をバークに投げかける。

 バークがその言葉に嫌な顔をする。

「……真偽はよくわからないけど、限りなく怪しいのはいるよ」

「どういう人ですか?」

 リアンがコーヒーを一口飲み、バークに尋ねる。

 リアンだけはこの話題にまだ興味があるようで、表情は真剣だった。


「こいつだよ」

 バークは、新聞を出してくる。

「ガミル聖堂騎士団? あれ? これって……」

 新聞には、ものものしい武装集団の写真が掲載されていた。

 リアンはその写真を見て眉をひそめる。

 そして、以前サイギンで見た凶暴そうな僧兵集団を思いだすのだ。

 あれと同じ姿をした連中が、紙面を通じて邪悪なオーラを放っていた。

「これって、あいつらじゃない!」

 アモスが驚いたように、初めて興味を示して話しに参加してくる。

「サイギンで見た、狂信者集団だわ!」

「本当ですね~、あの怖い神官さんたちですね」

 ヨーベルも記事の写真を見て、思いだしたようだ。



 ガミル聖堂騎士団。

 彼らを端的にいい表す言葉は単純だった。

「狂信者」その一言で片がつく。

 オールズ原理主義ともいわれ、豪華絢爛な宗教様式を嫌い、開祖オールズが打ち立てた、本来あった質素な教義を信仰する集団だった。

 貧しさと簡素、そして肉体的な苦行を教義として採用していた集団で、現在の豪奢なオールズ教会のやり方を批判していたりもした。


 歴史上何度も宗教的な対立が起き、教会のやり方に批判と抗議を繰り返していたという。

 オールズ教会としては、かなりやっかいな連中だった。

 そのため約三十年前に、オールズ教会から、正式に破門された宗派だった。

 破門後、中央の教会から離れ、マイルトロン王国と国教を境にする、ケロマストというエンドール最西端の街の北部の山間、通称ガミル地方にひっそりとこもったのだ。

 ガミル聖堂騎士団の名前は、その地名から取られていた。

 そして、このガミル聖堂こそが、今回の戦争のきっかけともなった場所でもあるのだ。


 今から約二年前、ガミル一派の本山であるガミル聖堂が、原因不明の失火に見舞われ、焼け落ちたのだ。

 犯人は隣国マイルトロンから流れてきた亡命者だと噂され、マイルトロンへの国民感情が悪かったせいもあり、世論が一気に燃え上がる。

 こうして、対マイルトロンへの戦争機運が、エンドール国民の中に生まれだしたのだ。

 本来、本国エンドールでは鼻つまみ者だったガミル一派だったが、この時ばかりは国民も一致団結して国粋思想に傾倒。

 事件をオールズ教会への攻撃と判断して、マイルトロンへの制裁を望む声が高まりだす。

 そこからは一気に歴史は動きだす。

 当時の政権が、対マイルトロンに強硬政策を執っていたこともあり、世論を受けて一気に戦争へと傾くのだ。

 こうして、ガミル戦役が勃発してしまったのだ。



「ネーブの死後、こいつらも本格的にサイギンにやってきたらしい。連中、今まではマイルトロン国内で、残党勢力討伐の“ 聖戦 ”とやらに精をだしていたはずなんだがな。まったく、やっかいな連中が前線に出てきやがったな」

 バークが腕を組んで、また考え込むような仕草をする。

「この連中の指揮官って、確かパルテノっていう、オールズ五主教のひとりじゃなかった?」

 アモスが意外と、そのことを知っていた。

「ふ~ん、ネーブ亡き後、自分がその後釜に座ろうって気なのね」

「その辺りは、まだわからないかな……。そもそもパルテノは、バリバリの武闘派であると同時に、過激なオールズ原理主義者だからな。政治的な計算なんか、できる人間じゃないはずだよ」

 

 バークが、紙面の僧兵たちをにらみつけるようにいう。

「誰かが、この人たちに知恵をつけたんでしょうか」

 リアンが予想し不安そうにいう。

「だとしたら、いろいろ最悪な想像ができてしまうな。どれもこれも、考えたくもない可能性だよ。狂信者を裏で動かしている存在がいるとしたらって、考えただけでゾッとするよな……」

 バークが新聞を隣の長椅子に置き、コーヒーをすする。

「ひょっとしたら、ネーブさんを殺したのは、この人たちで決まりかもですね。だって狂信者っていう人たちなんですよね。きっと神官らしからぬ、ネーブさんの俗物ぶりが許せなくって、行動に及んだんだと思います~」

 ヨーベルが、いきなりそんな推理を披露する。

 いつもなら、すぐに否定されがちなヨーベルの発言だったが、今回に限り一瞬無言の間が生まれ、彼女の言葉にわずかばかりの信憑性を感じ取っていた一同。

 バークが眉間に皺をよせて、また紙面をにらんでいた。


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今回の戦争のきっかけを簡単に描写しました。

そういうことです。

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