episode 7[灼鬼夜行]
小柄な少女はポロポロと大粒の涙を流しながら、うえ、ひっくと嗚咽を漏らしていた。非常に良心を傷めつけられる悲痛な情景ではあったものの、それよりも正直、同じ世代の女子のガチ泣きに引いた。
うわー。
すごい可愛くない。
「うわぉ、ジャッキーちゃん感動の再開~!久しぶり!元気にしていたかな?」
まるで夏休み明けに園児に挨拶する保育園の先生の様な口ぶりで彼女に声を掛けるニーナさんだったが、あの表情を見て元気かどうか判断出来ないようであれば彼に保育士の才能は無いだろう。というか大前提で人間的に何かが欠如している。
「う、うぇ、ゲホッ!ゲホッゲホ!アンタのそういう所が…アンタのせいでウチは…!うぇ、ぐすっ、いや、もういいわ、〝サバイバルモード〟、ひっく、うえ」
対するジャッキーちゃんは、何やら不穏なコマンドを口に出した。何か変化があったのかは分からなかったが、隣の死人さんが説明してくれた。
「あいつ、サバイバルモードに切り替わりやがったな。ここは本来、戦闘NGのフィールドなんだが、アイツはそれを戦闘可能に自分だけ切り替えたって訳だ。俺達にも出来るがここじゃ目立つ。場所を変えるぞ。ニーナ!」
そう言った矢先、ニーナさんは「わーかってるよん」と、案外余裕そうな表情で何やら手元のデジタルキーボードの操作を開始する。
次の瞬間には、私達が先程まで居たoutlawのギルドに戻っていた。
「いや、これ、多分ダメなやつ…」
私がそうボヤくと、
「一度やると癖になるわよ」
と、隣でウインクした。犯罪者の典型的な発言だそれは。違法プレイ、ダメ、ゼッタイ。
「ぐ、うううぅ…!」
ジャッキーちゃんの涙はもう収まり、今度は悔しそうに唸っている。泣いている顔もなかなかの破壊力だったけれども、怒りなのか恨みなのか、顔面の中心に皺が全部寄っている様な今の表情は、逆の意味で破顔していた。
「絶対許さない…、ウチはマジで許さない…!」
めっちゃ怒ってるよ。アレどうするつもりなんだろう、この人たち。
「うわー、すっごい怒られてる。どうしよっか。あ、そうだ!ジャッキーも一緒にショッピングの続き、する?」
ニーナさんが悪びれる様子もなくそう提案したとき、眼前の彼女は一瞬フリーズして、〝ぷちん〟と、何かが、イッた。
「ぶっ殺す!〝
彼女がそう叫ぶと同時に、ジャッキーちゃんの全身が真っ赤に燃え上がり、彼女の前には、人や獣、得体の知れない何かを象った何本もの炎が横一列に燃え上がった。燃え盛る炎の中から現れたジャッキーちゃんは、その隊列の後ろで炎の化け物に跨り、炎の鎧を身に着けている。
彼女が号令を出すと、炎は揺らめきながらも各々が形を留め、その熱量を容赦無く私達に浴びせながら一斉に進軍してきた。私はその熱さと迫力に怯んで、早々に背を向けて後方退避したが、outlawの3人は、臆する事無くその隊列を待ち受けている。
ジャッキーちゃんは憎悪に満ちた表情で彼らを睨みつけ、その足元では、更に炎の雑兵が生み出されていた。
なるほど、無尽蔵に湧き出る炎の軍勢〝灼鬼夜行〟。彼女のIAのようだ。
え、これ、ピンチなのでは?ヤバくない?
「ったく、こんなもんさっきの店で発動してたら大騒ぎだぞ。窮鼠猫を噛む、ってか。ま、鼠捕りに掛った以上、噛まれたところで逃がしはしないけどな」
迫りくる炎の軍勢を眺めながら、死人さんは冷静にそう言っていた。いや、それより熱くないの?え、これ大丈夫?私置いて逃げたりしないよね?
「でも困りましたね。ギルドに戻ってきたところで、私のIA、まだリブート完了していないけど?」
「それは困ったねぇ~?ね、死人くん?」
キレイさんとニーナさんが全く困っていない様子でそう言うと、死人さんは深い溜息を吐き、共に並ぶ二人の仲間と、情けなく後方でオロオロする私を一瞥しながら、
「だから無駄遣いすんなって言っただろうが…。ニーナは絶対遊ぶだろうし、仕方ねえな」
とボヤいた。
そして。
〝
そう短く呟いて、単身、炎の軍勢に突っ込んでいった。
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