第21話 過去
二日間の取り調べの後、南条の
南条の容疑はコンビニ強盗だったが、南条に強盗を働く意思はなかった。包丁を持っていたのも、誰かを傷つけるためでなく、明奈へプレゼントとして渡すつもりだったからだという。
奈緒も真庭もこれに関しては信じていなかったが、武装強盗団を捕まえたという手柄を
二日間を留置場で過ごし、南条は釈放された。同じ留置場に入っていたやくざ者と
南条は触れ合うものをことごとく魅了していく。それは南条に助けられた奈緒が一番よく知っていた。心の
南条は誰に対しても興味を持ち、出会えたことを喜び、友であるという。本当に光の勇者がいるとするなら、確かにそれは南条のような男であるべきだろう。
だが南条には、奈緒が知らない
成績は悪くはなかったが、身寄りのない南条には進学する術がなかったようで、卒業と同時に都内の印刷工場に就職していた。
仕事ぶりはまじめだったが、
酔ったまま出社したせいで会社を自主退職したあとは、日雇いや短期のバイトで食いつないでいたらしい。
金にも汚く、会社やバイト先の同僚や知人からの評価は最悪で、借金を踏み倒されたという被害者は十数人に渡った。
現住所であるメゾン・ド・ビトーでも、夜中の騒音やごみ捨てのルールをめぐってアパートの住人たちとの
奈緒が調べた南条民人は、社会の底辺に住む、
南条の言う、光の勇者が南条民人の体に入り込んだという説も、あながち嘘とは思えない。
「酒のせいじゃねぇのか?」
奈緒と同じように、南条に魅入られた真庭はそう言った。
「アルコール中毒の幻覚症状でよ、自分を光の勇者だと思いこんじまった。別人格は光の勇者様だからよ、そりゃあ高貴なお方ってわけだ」
つまり全ては南条の芝居だということか。アルコール中毒の幻覚が作り出す妄想は、南条自身さえも
だがどうしても、それだけでは納得のいかないことがあった。そしてその疑問は、真庭自身も感じているはずだ 。
「ただのアル中が、SATの隊員を倒せるものなのかしら?」
「それな。やられちまったおれがいうのも変だけどよ、相手を無力化することに関しちゃ、おれ達はプロだ。それがあの有様よ。おれ達が弱いわけじゃねぇ。兄ちゃんが強いんだ」
「でも、格闘ではあなたに
「ありゃあ
「謙遜?」
「謙遜というか、解釈の違いっていったほうがいい。つまりな」
真庭の顔つきが厳しくなる。多分真庭は、言いたくないことを口に出そうとしている。
「奴はおれを無傷で倒せる自信が無かったのさ。ガチで
近接戦闘に関していうなら、真庭は警視庁管内最強だ。その真庭をして勝てないと言わしめる男が、ただのアル中であるはずが無い。
「
真庭が頷く。ふざけた態度が鼻につくが、捜査官としてのスキルを問うなら、奈緒は真庭に及ばない。
「南条民人の、南条民人と思われる男の画像写真。あのコンビニには毎日来てたらしいから、店長に頼んで防犯カメラの画像を切り出してもらったの」
奈緒が差し出した写真を手に取った真庭が呻きを上げる。
「誰だ、こいつは?いや、同一人物なんだろうが、こりゃあ何カ月前の写真だ?」
「事件の前日、午後8時の映像よ。それから約18時間後、彼は同じ場所に戻ってくる。鍛え抜かれたアポロンのような肉体を持つ、光の勇者としてね」
「在り得ねぇ。どうなってるんだ、こりゃあ」
真庭の手から落ちた写真には、ミイラのようにやせ細った南条の姿が写っていた。
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