第15話 ショッピングデート~良き日の思い出~
なんとかお昼を切り抜けた。
もう俺のお腹はパンパンである。今度、お弁当を作ってくれるって話だけど……重箱は使わないよう事前に訴え、先手を打っておこう。
もし重箱持参で今日の流れと同じ風になったら──言い方は悪いが、フォアグラを連想してしまった。
スイッチさえ入っていなければ、りっちゃんは極端な行動をしない。それがオンの状態になるのが、もしも好意ゆえにだったら、あまり強く注意することもできない。ツッコみはするけども。
さて、昼食を終わらせたことで、モール内は一通り回ってしまった。ここからは腹ごなしがてら移動だ。
建物から出る前に、コインロッカーに入れてあった
その際、少し気になる事があった。
「りっちゃん、そのバッグに付けてるピンバッジって、もしかして──」
彼女のピンバッジを指しながら問いかける。
「──そうだよ。私、物持ち良いでしょ?」
『ふっふ~』と笑顔を浮かべながら、どこか得意そうに答えが返ってきた。
それは、とあるテーマをモチーフに作られたもの。彼女と同じ名前を冠する、雪の結晶の形をしたレジンの加工物である。
……これは驚きだ。現在はピンバッジに改造されているその結晶。元々はヘアピンとして使われていた。
何を隠そう、かつての俺が贈ったものだ。彼女へのお返しに、何とか手作りのものを渡したいと考え、色々と探して行き着いたのがレジンアートだった。
『アート』なんて言うと大げさに聞こえるが、いわばDIY的な工作である。必要な道具さえ揃えられれば、素人でも手が出せる分野。少し手先が器用かつ手順さえ間違えなければ、初心者でも意外と何とかなる。
大ざっぱな流れとしては、レジン液というモノを使い、それが固まらない内に造形を整えてしまう。そして、その状態のまま固まりきれば完成。イマジネーション次第で割りと色々なものが作れるのだ。
もちろんプロの作家さんが作ったような作品のクオリティには、とうてい及ばない。しかし、既製品とは違い世界でただ一つ。りっちゃんのためだけに作られた結晶。
俺はスターターキット的なものを入手したので、ラメやビーズ等の素材を始め、液を固めるための簡易的なUVライトまで付いていた。
最初の内は何度も何度も失敗した。中々に細かい作業で……どうにも形が
だが、彼女のためと思えば諦める選択肢など存在しない。『それならば』と、とにかくトライアルアンドエラーを繰り返し続けた。
黙々と作業をこなし、数ある中で一番良い出来のモノにヘアピン素材をくっつけて完成。
そして、後日それをラッピングして渡したのだ。りっちゃんはもの凄く喜んでくれた。それはもう……しばらくの間ほぼ毎日、髪に付けていたほどに。
その時から、もう何年も経つ。普通なら無くしたり壊したりしていても、おかしくはない。
これまでの時間の経過の中……恐らくは彼女自身の手を経て、その形を変えたのだろう。まるで『未だに私のお守りだ』と言わんばかりに、今現在、大事そうに手で包み込んでいた。
…………なんというか、本当に嬉しい。その仕草は『俺との思い出はそれだけ大切なんだよ』、という事を何より雄弁に物語っている。
お陰様で、ホッコリした気分のままモールから出発できたのであった。
次の目的地は駅方面。雑談をしながら歩き続ける。無くなったり新しくなったり、
「そうだ。駅といえば、今日は近くの広場でフリーマーケットをやってるみたいなの」
そして、雑談の流れでそんな情報を教えてくれる。
色々と寄り道しながらという予定だったが、彼女の発言により、そちらの方に興味がそそられた。
「へぇ。それって頻繁にやってるの?」
「ん~……さすがに毎週ってわけじゃないけど、定期的にはやってるみたい」
それがたまたま今日なのか。これは──運が良いのかもしれない!
「なんか面白そうだね……! よければ荷物、駅のコインロッカーに預けて行ってみない?」
「もちろんいいよ。もしかしたら、掘り出し物が見つかるかもね?」
りっちゃんは即答してくれた。その上、俺の話にまでノリノリで……もう、ホントに良い子!
「いわゆる
それはまさに少年心。そう、ちょっとしたトレジャーハンター気分だ。
現に、ものすごく価値がある物が
「ふふ、ナオくんってそういうの好きだよねえ」
俺の方を向いて微笑ましそうに口を押さえている、りっちゃん。とても可愛い仕草だ。
「
「うん、それは分かる。見て回るだけでも面白いし」
単に話を合わせてくれてるわけじゃない。心底、楽しそうな笑顔。
もしも、りっちゃんと付き合ったり結婚できたりしたら……幸せそうな生活を送れそうだ。
はは、なんちゃってね。
そうしてワイワイと二人で話ながら、フリマをやっているという広場へ向かうのだった。
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