令嬢探し
「俺が渡した槍を投げて飛び乗れ‼」
「えぇぇ⁉」
「いいから早く‼ 令嬢がどうなっても知らねぇぞ‼」
「けど僕、投げるの下手だし…………」
「大丈夫だって、補正かかるから安心しろ‼」
「う、うん……」
僕は言われた通りに槍を投げる。ブーメランとは違い、下手なのに真っ直ぐ飛んでいった。直進する槍を追いかけて、横っ跳びジャンプで飛び乗る。
はじめはバランスが悪かった。だけど、自然と揺れが無くなり、左右の傾き加減で方向転換。バレンも同様に長剣へ飛び乗っている。
「やればできるじゃねぇか。んじゃ、俺は西を探してくる。ロムは東を探してくれ」
「わかった。迷子にならないでね」
「俺をなんだと思ってんだよ。この街は全部暗記済み。そっちこそ気をつけなよ」
「うん」
僕は槍に乗ったまま、東の方角へ曲がる。ペースを上げた方がいいのだろうか? スピードの上げ方がわからない。
時々、飛び跳ねたりして、遊びながら移動する。少ししゃがんだ瞬間、スピードが上がった。
気になったので軽く屈伸。しゃがむ回数だけ速くなる。つまり、しゃがめば速くなるということだ。
まるでサーフィンをしているような、風の流れ。ぐんぐん進み、何やら騒がしい広場に着いた。
奥には女の子を囲うようにして立つ、五人ほどの大人達。僕は建物の影に隠れて、様子を見る。
『なあなあなあ。お嬢ちゃん一緒に来ないかい?』
『たしかに、平民のお仲間にさせる訳にはいかないからねぇ……。可哀想に……。しくしく……』
(お嬢ちゃん?)
『こんなにも幼い令嬢を、あんな平民に渡したりしたら、未来なくなるからねぇ。ほら、こっちおいで、お嬢ちゃん?』
『むぅ……。アタチはロムおにいたんと、バレンおにいたんと、レネルおにいたんと一緒がい~い。ここのみんなとは行かないもんね‼』
『ほらほら、ほっぺをぷっくりさせちゃって。可愛くないよぉ? にっこりして』
『アタチやめないもん‼ おにいたんが来るまでやめないもん‼』
『あらあら、困った子ね…………』
(フランネル令嬢様? もしかして‼)
僕は槍を脇に挟み、急いで救出に向かう。できるだけ被害を出さないように、素早く、速く。
『おや? 誰か来たようですねぇ』
「ロムおにいたんだぁ‼」
「大丈夫? フランネル?」
「うん‼」
『お嬢ちゃんが言っていた、クソ汚い平民でしたか……。おやおや? その武器は衰退した王族の神器……。平民が持つ代物ではありませんねぇ……』
一人の長身男性が、右手に持つ僕の槍を奪おうと近づいてきた。僕は、なぜかわからないけど、とても軽い身のこなしで回避。
槍が男性に触れそうになる。槍を引き寄せてステップを踏む。
空いている左手で抱き寄せて、当たらないように注視する。その時、男性の手が槍に触れて……。
――パシンッ‼
『あらら、槍に弾かれてしまいましたねぇ……。君がお気に入りのようで……。しかし諦めはしま……』
――
いつの間にか、僕は無意識に詠唱をしていた。瞬時に風が巻き起こり、空高く舞い上がる。今、僕は空を飛んでいるのだ。
そして気づく。僕が高所恐怖症だということに。下を見たら終わり、下を見たら終わってしまう。
令嬢は上機嫌で、下界の風景を楽しんでいる。下は見たくない。誰が楽しもうと下を見たくない。
『おーい、こっちだ‼』
「あー。バレンおにいたんだぁー‼ やっほー‼」
『やっほー。って、戻ってこーい‼』
「む、無理……。僕、下見れないよ……」
『マジか。今行くから待ってろ』
僕はバレンの助けで着陸。メンバーは再び集まった。迷惑をかけた元凶は自覚無しの知らん顔だ。ほんと困ってしまう。
知らぬ間に日が暮れて、一度公爵家で一晩明かした。とても広い部屋には、人数分のベッド。休息をとって、明日に備える。
翌日、バレンの案内で街の門へ。執事の顔パスで通行できた。けど、このままで大丈夫なのだろうか?
街に別れを告げて、平原の一角に出る。生まれ故郷でもある街から離れるのは、とても寂しい。
でも、冒険者パーティ――勝手に決めてしまったけど、旅をしなければ意味がない。武器は揃っている。食料も五カ月バレンが買い占めてくれた。
見渡す限り広い平原。緑の芝生が地面を覆う。踏みしめた数だけ、柔らかいクッションが足を包み、皮膚を優しくくすぐる。
「ロムおにいたん。気持ちいいね」
「たしかにそうだね。なんか眠くなってくる……」
「おにいたん寝ないで、おにいたん」
「アハハ……」
これを令嬢と言っていいのだろうか? 可愛いすぎて、令嬢とかけ離れている気がする。別に反抗してもいいんだけど。
まだ子供だし。幼女だから仕方ない。可愛くて優しい令嬢も、悪くないと思う。僕は簡単に整理して、緑の中を歩く。
太陽はギラギラと輝いて、風は芝生の葉を揺らす。僕とバレン。レネルやフランネル。執事とブライダ。六人での冒険が、本当の冒険が始まった。
◇◇◇街の城 城内大展望台◇◇◇
「ジルグ様。どうやらお呼びのようで、なにかありましたでしょうか?」
「……。王族の。我々の金庫が開けられた」
「と、言いますと?」
「きっと私の弟がやったのだろう」
「弟様ですか……。名前はなんと?」
大展望台から見渡し景色。ここからは街を一望できる。今私の後ろにいるのは、私の世話人。この街は全て私のもの。
私には弟がいる。兄として生きることになったが、私は弟が嫌いだった。弟は私よりも王族の血が濃い。
王位継承権も、弟が有力候補として挙げられ、今でも弟が醜く嫌い。憎みさえも感じたくらいだ。
弟は無口で、否応も言葉として吐き出さない。全ては私の自由。弟は私の実験体。弟は私の遊び道具でガラクタ。
弟に何をしても、快く引き受けてくれる。私の目標は、弟を殺すこと。そんな弟が、街を出て行った。弱き者を引き連れて……。
「名前……。そんなものはもう忘れた。弟は遊び相手にすぎない。彼もそれを望むに違いない」
「そのようでしたら、一旦失礼致しま……」
「金庫に魔物を集めてもらいたい。そして繁殖を……。金庫を開けられる者がいない今。この時を逃すわけにはいかない」
「承知致しました。早速準備を始めてまいります」
世話人が展望台からいなくなる。ここにいるのは、私一人。もう一度街を眺める。令嬢が平民の手に渡った。
王族の槍を持つ平民がいる。王族の長剣も奪われた。これも全て予知していたこと。こうなることは、数日前から知っていた。占いの予知が当たったのだから。
この城には女性の占い師がいる。未来を見透せる占い師が……。私はいつも頼りにしているくらい、彼女の占いはよく当たる。
彼女は私に『護衛決定戦当日に王族の武器が盗まれる。長剣は関わりが深い者の手に渡るだろう』、そう言っていた。
それを信じ、私は長剣に呪いをかけることにして、すでに実行済み。今は弟が持っているはず。占いが正しければ。
いつか私は弟を消し去る。剣にかけた身を蝕む永久の呪いで……。王位は渡さない。いや、無理やり王となった以上、交代は絶対にさせない。
「私はこの街を誰にも渡さない。それが他人だとしても、弟だったとしても。この街は全て私のもの。王の玉座も私のもの。ここある全て私のもの。私は弟を呪い続ける。その命が絶たれるまで呪い続ける。いつまでも呪う。その闇に堕ちた聖剣で……。さあ、旅の途中で悶え苦しむがいい。醜きバレンよ……」
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