第38話・光と闇の校外実習 その2
帝国高等学校の、最初の校外実習。
二人一組になって本職の訓練場の山に入り、一体生徒たちに何をさせようというのかッ…!
『……で、何をさせるんです?せんせえ』
「あの、分かりましたから肩に乗っかって頭の上で歯をカチカチ鳴らすのやめてもらえますか?普通に怖いんですけど」
『あらやだわたしったら。別にせんせえを脅すつもりなんかこれっぽっちも。ええ、これっぽっちもありませんから』
そりゃ自前の浮力で多少は軽減してるとはいえ、大型の柴犬サイズのわたしが後ろからしなだれかかってしまえば結構な重さを感じるだろう。バスカール先生はなんとか踏ん張っているけど、他の二人と違って背が高い割に華奢だもんなあ。美青年だから余計に。
ちなみに設定身長、百八十二センチ。更にちなめば殿下が百七十九センチで、バナードが百六十二センチ。こっちは卒業後のエンディングイベントスチルで見事な長身のイケメンになりおおせるのだけど。
現在のバナードだけがちっこいのは、背が低いとゆーコンプレックス描写のためだ。中等部時代はあんまりシナリオ濃くなかったけれど、ネアスより背が低いことを気にして拗ねてたのは、乙女ゲーマー的に萌えポイントだったものだ。
いえまあそれはともかく。
「とにかく降りてください。説明ならしてあげますから」
『はぁい』
名残を惜しみつつバスカール先生の肩から離れる。振り返った先生の顔は若干青ざめていた。ちょっとー、付き合い長いのにそこまで怯えなくてもいーじゃないですか。失礼しちゃうわ。ぷんぷん。
「……いや、ぷんぷんって…まだ成竜になっていないとはいえ、あなたは歴とした暗素界より生じた最強の竜種なんですから。本来人間には怖れられて然るべき存在なんですよ」
『そんなもんですかねー。お嬢さまもネアスも気易く構ってくれますけどー』
「幼少の頃より共に育てば猛獣でも…」
『わたし、猛獣?』
「……すみません、失言でした」
よろしい。
で、話が進まないのでちょっと落ち着きませんか。
「そうですね。もうすぐ最後の組が出発しますので、それを終えたら少し時間が出来ます。あちらが」
と、先生は実習の運営にあたってる他の先生たちが詰めてるテントを…ではなく、その向こうにある水場を指さして言った。
「涼しいですからね。先に行って待っていてください」
おけ。
わたしは先生の傍を離れて、四本足で歩いていく。
まあ、のっしのっし、って程じゃなくてくてくくらい、の感じ。
「そもそもこの実習の目的は、ですね」
しばらく待ってると、生徒たちを送り出した先生方はやることがなくなったのか、山の方を監視はしているけど一休みみたいな空気になってる。
バスカール先生も飲み物片手にわたしの隣に腰を下ろし、いちおー監視に混ざってるような態なんだけど、ほとんど格好だけみたいにして、約束通りわたしに話し始めた。
「高等学校に入ってくるような生徒は、もう対気物理学の基礎は終えているんです。その上で、自分の力、仲間の力を見極めてどれだけのことが出来るか、を図る術を学ぶ場、ということになりますね」
『じゃあ二人組の組み合わせもそれを考慮してるんですね?』
「もちろんです。例えばあなたのご主人様については、実戦では中距離向きですが、そこに遠距離向きの相方と組んだ場合に、どれだけ自分の力を応用させられるか、を見てもらうわけです。今日は対気物理の応用が主眼ではありませんから、そこまで直接的なことにはならないでしょうけれど、協力して困難を乗り越えることが授業の目的になるんですよ」
対気物理の戦闘スタイルで言えば、ネアスは割と遠距離に適正のある万能型って感じだけど、対してお嬢さまは接近戦は付かず離れず、主に風の力を頼りに攪乱しつつ、トドメを接近して刺す、って感じだ。
なのでお嬢さま、対気砲術はそれほど上手じゃないんだよね。散々相手をおちょくって勝ち鬨を上げるのが好みみだいだし、なんだか性格が出てるよーな気もする。
ただ、対気物理学というものは別に戦闘に応用するためだけのものじゃない。
本質的には、暗素界と呼ばれる平行世界に存在する、異界の自分自身に働きかけることで還って来るものをどう捉えるか、って手法を学ぶことによって、暗素界、それからわたしたちが今いる現界と暗素界の間にある気界がどう在るのかを追求する学問だから、応用しようと思えば様々なことが出来るわけだ。
まあ帝国は軍事に重きを置いているから、どうしてもそっちに偏った応用になっちゃうんだけど。
『……ところでせんせぇ。今のお話からすると、何か危ない真似をさせよーとしてる風にもとれるんですが。わたしをお嬢さまから引き離しといてお嬢さまに何かあったら…どうなるか分かってるんでしょうね?』
「今回は軍事教練の一環でもありますからね。危険が全く無いというわけではありませんよ。でも、学生の身に無理や無茶をさせるわけにいきませんから、安全には充分配慮してますから。少し激しく登ったり下ったりをする山歩きのようなものですよ」
『ほんとーですよね?信用しますからね?』
「コルセアさんはブリガーナさんのおばあちゃんみたいですねぇ……」
『そこはせめてお姉さんみたい、と言ってください』
「はは、以後はそのように。じゃあ僕は仕事に戻りますから」
『おつかれさまですー』
……と、先生は立ち上がってテントの方に歩いていった。
まあこうして見ていると、生徒がいなくなって先生たちもヒマになるのかと思いきや、多少の休憩を挟みつつも変わらず忙しく立ち回ってる。
まーわたしも学生の経験しかないわけで、学校でぶーぶー言ってた時代も裏ではこうして生徒のためにいろいろやってくれてたのかなあ、と思うと。
『……せんせー、何かお手伝いすることありますかぁ?』
呑気に浮かびながらだけども、手を貸すくらいのことはしてもいいかな、って気にはなるのだ。
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