第20話・帝国初等学校大運動会 その3

 「あ、あの、コルセア?どこまで行くの?」


 どこってそりゃあ、第三の攻略対象のトコでしょ、とも言えず、わたしは「大丈夫!」とネアスを伴ってずんずん進んだ。

 初等学校の領土?を外れ、幼年学校の生徒やその家族が屯する中に。もちろん、わたしの如き存在は初めて見るだろーから、人混みの中を浮かんでるトカゲには驚かれるばかり。

 そんな中を物怖じせず着いてくるネアスもなかなかに良い度胸をしてる。まあ乙女ゲーの主人公だしね。


 『えーと、確かこの辺に…いたいた』

 「いたって、誰が?」

 『えっとね、ネアスに紹介したいひと』


 そして、午後に向けて競技の練習なんかをしている広場にやってくると、一人の男の子を見つけた。

 バナード・ラッシュ。「ラインファメルの乙女たち」に登場する、三人目の攻略対象で、ネアスと同じ黒髪の、精悍な男の子。

 豪胆不敵な帝国皇子。少し気弱な年上の先生。そして三人目は、対気物理学の才能溢れる、活発な同い年の少年。あざとい。実にあざといラインナップだ。こーいうところは定番を外さないんだよなあ。


 「紹介って…どういうこと?」

 『まーまーいいからいいから。ほら、あいさつしてみよ?』

 「ちょっと待ってコルセアっ?!そんなこと急に言われたって、わたし困るっ?!」


 わたしにぐいぐい背中を押されて戸惑うネアス。構うこたーねえ、どうせ良い仲になるんだ、ときゃあっと可愛い悲鳴を上げるのも気にせず、バナード少年の前に押しつけた。


 「な、なんだよ?!今練習中なんだから邪魔す……」


 わたしを見て固まるバナード。うんまあ無理もないか。噂くらいは聞いてるかもしれないけど、紅竜の幼生なんて直に見る機会そうそう無いだろうしねえ。

 でも今君が目を向けないといけないのは、わたしじゃなくてこっちの女の子。ふっふっふ、キミ、対気物理学ではなかなかの才能と聞くけど、こっちの子も帝国の折り紙付きよん?


 「あ、あのごめんなさいっ!わたしの連れが…ええと、わたし……」

 「……なんだよ、初等学校のヤツかよ。あんたらは敵だってみんな言ってるんだぞ。ケガしないうちに仲間のところにもどれよな!」


 おーおー、言うわ言うわ。

 バナードは、幼年期にはこの運動大会で顔合わせだけして、本編に入ると高等学校に編入してくるんだ。対気物理学の優秀な生徒として。

 で、再会した後はやっぱり優秀な生徒であるネアスと何かと張り合って、やがて意気投合して恋に落ちることになる。その展開がまたねぇ…全国の乙女ゲーマーの胸を高鳴らせたものよ。ツイッターで人気投票したら、キャラはともかくシナリオの人気はダントツの一位だったもんね。

 わたしとしてもね、お嬢さまが悪役でも親友でも、結末としては穏便な最後になるので一番推しのルートなわけよ。

 だったら、今から仕込むしか無いじゃない?だから、バナード。口説け。このシナリオライターに愛された少女を、モノにするのだ!


 ……って、思ったんだけど。


 「ご、ごめんなさい…すぐ帰ります……コルセア、行こう?」


 あれ。主人公の方は気後れしてすんごい腰が引けてる。ちょっとちょっとー、本編ではあなた向こう気満々に対抗意識燃やしてたじゃないの。今からそんなことでどーすんの。


 『…ネアスぅ、わたしこの子のこと気に入ってるの。結構な使い手だから、話くらいしておいた方がいいと思うよ?』

 「そんなこと言われたって…」

 「おい、あんた。最近うわさになってるネアス・トリーネとそのオマケの紅竜だろ?」


 わたしはネアスのオマケじゃないやいどっちかってーとお嬢さまのオマケよ、と言い返したかったけれど、興味は持ったみたいだから黙っておく。


 「え?」

 「けっこー強い力もってるって聞いたぞ。もしかして挑戦か?よぉし、なら受けて立つ!」

 「えええええっ?!」

 『そーなの。多分次の砲術の射的で当たることになるから、よろしくね』

 「いいぜ。初等学校のヤツには負けられないからな!」

 「えええええええええ────っっっ?!」


 …思ってた形とは違ったけれど、印象づけるのには成功した。結果おーらい。良い言葉だ。




 「よくやったわコルセア!」


 そして、初等学校の席に戻ってきたら何故かお嬢さまには褒められた。


 「ネアス!あなたの才能を幼年の連中に知らしめるいい機会よ!全力で応援するから、負けたら承知しないわよっ!」

 「アイナさまぁ…わたし、そんなつもりないのにコルセアがー……」

 「ふふふふ…これは午後の競技が楽しみね。さあ、みんな!わたくしたちの方が優秀だって、向こうに思い知らせてやりましょう!」

 「「「おおおおおっ!」」」


 …普段、貴族でないのに優秀な成績を誇るネアスを煙たく思ってる子たちまで一致団結して、対抗意識を滾らせるのだった。

 いやー、面倒くさいと思ってた両校の対立だけど、こーなってくると楽しくなってきたー。


 「わたしそんなつもり無いって言ってるのにぃ……コルセアのばかぁ…」


 ごめんね、ネアス。でも盛り上がってきたからこれでいいのよ!

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