悪役令嬢のペットドラゴンに転生したわたしは破滅回避のために今日も火を吹いてます

河藤十無

第1話・一周目

 目が覚めたら、トカゲになっていた。

 いや、何をゆってんの、って話なんだろうけど、そうだとしか言いようがない。


 そしてわたしは絶望的な表情でこちらを見ている美女と目が合った。


 「コルセア…あなたにはわたくしの恨みを晴らしてもらわねばなりません!」


 何をゆってんの。二回目。

 どこのどなたかは知りませんが、縁もゆかりもないお嬢さんの恨みとか知ったこっちゃありませんて。


 「連れて行け!」

 「コルセア……コルセアァァァ……ッ!!許しません!許しませんことよ!!このブリガーナ伯爵家の長女にこのような仕打ちをしたこと、わたくしのコルセアが後悔させてやりますからッ!!その口吻から吐かれる業火に焼き尽くされてしまうがいいのですッ!!」

 「黙れ。そこの畜生もすぐに後を追わせてやるから、安心して処刑されるがいい!」

 「コルセアぁぁぁぁ………」


 悲痛な叫びを残してこの場から連れ去れていくお嬢さん。何が起きているかくらい、トカゲのわたしにでも分かる。わたしを「コルセア」とかいう名前で呼ぶあの美女は、これから処刑台の露と消えるんだろう。

 そしてその後にわたしも処刑される。

 …ん?それってマズくない?わたし、何も悪いことしてないんだけど。飼い主の巻き添え食って処刑とか動物愛護精神にもとるサイアクの所業だと思うんだけど。

 いやその前に飼い主とか一体何のことだ。わたし、誰かに飼われているのか。あのお嬢さんに?見事な縦ロールの、いかにもお嬢さま、というナリな、見た目は美女だけどどう見ても腹に黒いイチモツ持っていそーな性悪さんに、か。


 「……処刑、完了しました」

 「そうか…いかな悪行の報いとはいえ、少女を手に掛けるような真似をさせてしまったな」

 「いえ…任務ですから」


 あのー、そのお嬢さんが何をやったのかは分かりませんが、処刑したひとのメンタルをフォローするくらいならもう少し悼んであげるとか偲んであげるとかしてあげられません?


 「……それに比べればこのような畜生の命を奪うなど、造作もない」


 とか呑気なことを考えてたわたしの目の前に、槍の先。

 うむ、これで突かれてわたしも死ぬのか。痛いのかなあ。痛いんだろうなあ。

 …それはイヤだ。いくらトカゲでも痛いものは痛い。

 そんな簡単に殺されてたまるかと、わたしは暴れる。そういえば火を吹いて復讐しろとか言ってたな、あのお嬢さん。今からでも出来るのだろうか。

 げっぷをする要領で、わたしは火を吹いた。吹いてみた。できちゃった。

 そしたら驚かれた。


 「!!隊長、こやつ火を…」

 「む…幼体なれどやはり紅竜となるとこのような大きさでも油断ならぬか……主のことを思い出し我々に仇なされてはかなわぬ。やれ」

 「はッ!!」


 ずぶり。

 槍が、わたしのお腹に刺さった。血が出た。血というか、なんか熱湯みたいなものが。

 わたしには「ちょっと熱いなあ痛いなあ」ってくらいのものだったけど、わたしに槍を突き立てた人は吹き出した血を浴びて転げ回っていた。


 「熱い熱い熱い…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ?!」

 「くそっ!紅竜は血まで溶岩の如しかッ!!気をつけろ、取り囲んで首を刎ねい!!」

 「し、しかしそれでは流血も……」

 「やれ!やらぬなら貴様らを斬るぞ!!」


 むちゃくちゃ言ってますね、隊長さん。いや無茶苦茶されてるのはこっちなんですけど。


 「くそっ、くそっ!!あの女を斬れば終わりという話じゃなかったのかよ!!」

 「だが此奴を放置も出来まい!盾を構えい!一斉にかかるぞ!!」

 「はっ!」


 ゴロンと転がされ、槍が一本から十本くらいに増えた。あと、言ったように盾もいっぱい。たぶん、あんなものあってもダメなんじゃないかなあ。悪いこと言わないから止めといたほうがいいよ?

 …って、忠告出来れば良かったんだけど、いかんせんわたしは人間の言葉が喋れないのだった。残念でした。


 「大人しく死ねッ!」

 「主の後をさっさと追うがいい!」

 「災いの象徴め…亡国の御使いめっ!!」


 いやそんなんわたし知らんちゅーに、という文句も聞く耳持たず、というか耳に届けることもできず、わたしは憐れ槍を突き立てられた剣山のよーになってしまいましたとさ。


 …その後、しばし意識があったからどうなったかは確認出来たんだけど。

 紅竜の死体を中心にして火山の噴火が起こったよーになって、国が一つ丸ごと滅んだというのはわたしのせいじゃないからね。

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