第32話 文化祭 最終日

 二日目になり今日も忙しい時間を過ごしていた。


 午前中は昨日と同じく当番で、女装して受付をしたり料理を運んだりしていた。


 それが終わると、昨日には無かった写真サービスと言って俺や大雅など女装している男子とツーショット、スリーショットを撮ったり、男装している女子と撮ったりして更に集客率を高めようとしていた。


「はぁはぁ、俺この写真撮るの嫌いだわ」


「お客様サービスだから我慢しろ。これさえ終われば、あとは自由なんだし」


「そうなんだけど、お客さん達の携帯に女装つまり俺の黒歴史が封印されるんだぞ。もしかしたら、SNSで拡散されるかもしれないし」


「諦めろ。これが俺たちの宿命なんだ」


「くそっ…俺はこんなつもりじゃなかったのに…」


 大雅は膝から崩れ落ちて、床を叩きながら少し涙目になっていた。

 そんな大雅にしゃがんで寄り添い、小さく「頑張ろうな」と背中を軽く叩きながら呟いた。


「ほら、そこ、まだまだお客さんいるんだから早く立って手伝いなさい」


 すると、クラスの女子から呼ばれて俺と大雅はゆっくりと立ち上がり受付へと向かった。



「ふぅ〜やっと終わった…俺は解放されたー!」


 午前の当番が終わり、俺と大雅は残りの時間はフリーとなった。

 それが嬉しかったのか、教室を出てクラスの人達が見えなくなると両手をあげて大きな声で叫んでいた。


 当然、大きな声で叫んだので周りの人達は一瞬大雅の方を見るが、すぐさま興味を無くして話したり歩き始めた。


「おいおい、いくら自由な身になったからってそんなに大きな声で叫ぶと午後の部の人達に睨まれるぞ」


「ふっ…そいつらなんて怖くないさ。だって、俺には関係なことだからさ!」


「たまに薄情になるよな、大雅は」


「ちょっと、何言っているのか分かりませんね」


 耳に手を添えて聞こえないフリをしている大雅に、少しだけイラッとした。


 肩パンでもしようかと手をグーにして握った時、後ろから声を掛けられた。


「奏風先輩見つけました!教室にいないから焦りましたよ」


 どうやらかのんが教室まで来たらしいが、俺がいなかったので学校中を走り回っていたらしい。

 その証拠に少しだけ息を切らしているのが見て分かる。


「ごめん。まさか、教室に来るとは思わなくて」


「思わなくても、教室で待つものですよ」


「それって俺が言う言葉じゃね?」


「私が奏風先輩を迎えに行きたかったのです!私が!!」


 それでも、その言葉や行動は普通男がやるものなんだぞ。

 俺にも少しカッコいいところを、かのんに見せたいんだが…


 と、思ったりしていた。


「あの…二人の邪魔はしたくないので、俺はこの辺で…」


「まて、大雅はこのまま俺達と行動しような」


 二人の会話を最後まで聞いていた大雅が、一言呟いてどこかへ行こうとした。

 そんな大雅を呼び止めて、俺は笑顔で襟を掴んで引き戻す。


「いや、その…かのんちゃんにも悪いしさ、二人だけの方がいいだろ?なっ?」


「私は別にいてもいなくても平気ですよ。まぁ、二人きりの方がいいと思うことは確かですが」


「うん…分かってたよ。かのんちゃんがそう言うことを。だから奏風、俺はここで解散だ」


「はぁ…じゃあ、少しだけ時間いいか?」


「お、おう。俺は平気だが」


「かのん、すぐ戻ってくるからちょっとだけ待っててほしい」


「分かりました!」


 俺は大雅と共にバルコニーへ行き、話を始めた。


「話ってなんだよ」


「今日、俺告白するんだが…非常階段だっけ?」


「そうだよ。閉会の合図の時に非常階段で告白。それにしても、あの鈍感男の奏風がついに告白か…お兄さんは何だか嬉しいよ」


 大雅は空を見ながら感慨深い面持ちしていたが、俺は違う所に引っかかっていた。

 

「誰が俺のお兄さんだよ」


「えっ?俺が奏風の相談相手だからお兄さん」


「ちょっと、言っている意味が分からないわ」


「まあ、細かい事は気にしないで告白頑張れよ」


 あっ…話をはぐらかした。

 まぁ、俺も段々面倒くさくなってきてたし丁度いいタイミングだな。

 さすが大雅だわ。


「ありがとう。俺の素直な気持ちをかのんに伝えてくるよ」


「その気持ちがあれば、かのんちゃんは答えてくれるよ」


「おう。いい報告を待っててくれ」


「連絡待ってるぜ」


 そして大雅は一人でどこかの教室に遊びに行った。


「大雅先輩スキップしながらどこかへ行ってしまったんですが、話終わったんですか?」


「終わったよ。それじゃあ、最終日楽しもうか」


「はい!」



 文化祭もいよいよ大詰めになり、俺の告白も刻一刻と迫って来ていた。

 告白の場所は非常階段なのだが、俺たちがいるのはその場所から少し遠いところ。

 少しでも近づく為に、かのんに移動を促すことにした。


「かのん、向こうの方に行かないか?」


「いいですよ。奏風先輩が行きたい所に行きましょう」


 そう呟いたかのんに微笑んで、俺は彼女の横に並んで一緒に向かった。

 歩いている時はお互いに無言で沈黙が続いて、少しだけ空気が重たかった。

 

 歩いて数分が経ち、俺達は非常階段で外の空気に当たりながら話をしていた。

 

「文化祭終わってしまいますね」


「ほんと準備は長いのに、開催したら体感数時間だよな」


「また、来年も一緒に回りましょうね!」


 かのんがそう呟くと同時にチャイムが鳴り、閉会の合図が始まった。


「片付けに行かないと行けませんね。では、戻りましょうか」


「かのん!」


 踵を返して教室に戻ろうとしたかのんに、大きな声で呼び止める。

 かのんは少しビクッとしたが、すぐに振り返り俺の方を見た。


 俺は深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 そして、俺はかのんを見つめた。


「な…なんでしょうか。奏風先輩?」


 俺の後ろの夕陽で少しだけ細目になりながらも、頬が赤く染まっているのが見てわかる。

 きっと、かのんは俺がこの後にいう言葉を分かっていると思う。

 なら、俺はここで躊躇うより、素直にありのままを伝えることが大事。


 そして俺は覚悟を決めて、口を開いた。


「かのんが俺の事を好きだったのは、ずっと知っていた。だけど俺に覚悟や勇気がなかったから今まではぐらかして来たけど、もう迷わないよ」


「はい…」


 かのんは真剣に俺の話を聞いてくれている。

 そして遂に———


『かのん、俺と付き合ってほしい』


 俺はかのんを真っ直ぐ見つめた。

 

 そしてかのんは満面の笑みで微笑んで…


「こちらこそ、よろしくお願いします!もう、奏風先輩言うのおs———」


 と呟いた。

 その瞬間、俺は嬉しくなってかのんがまだ話しているのに抱き寄せて、かのんの頬にキスをした。


「……えっ……?!」


「奏風先輩、そこは頬ではなくて唇が良かったです…」


 頬に手を添えながら突然の事にかのんは戸惑っていたが、すぐに調子を取り戻してダメ出しされた。



 そんな感じで俺とかのんは付き合う事になったのだが、大雅と楠山さん(テレビ電話)に見守られていた事に気づいていなかった。

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