第30話 文化祭 No.4

「奏風先輩、三年一組のお化け屋敷に行きませんか?」


 俺とかのんは廊下にある広い空間で、椅子に座りパンフレットを眺めていた。

 お昼を食べに行こうと思ったが、文化祭限定の食事処が混んでいたので先に他を回る事になった。


「まじか…うん、かのんが行きたいならお化け屋敷に行こうか」


「あれ?奏風先輩って怖いのが苦手なんですか〜?」


「怖いのは少し苦手だな。少しな」


 ニヤニヤしながら、弱点を見つけて嬉しそうに聞いてくるかのん。

 溜息吐きながら半分認める。そして、大事な事なので二回言った。

 

 それにしても、お化け屋敷か…

 いい感じの雰囲気にして明日に備えろって言われたのに、カッコ悪い姿を見せそうです大雅さん。


「少しなんですね!それじゃあ、お化け屋敷に行きましょうか」


「絶対に分かってないよな?本当に少しだけだからな」


「分かってますって〜いっぱい私を頼ってもいいですからね!」


 これは俺がお化け屋敷嫌いなのを確信している。

 そうでないと、こんなに自信を持って頼ってくれなんて言わない。

 

 決めた。このお化け屋敷は絶対に怖がらずに、かのんが俺を頼るのを楽しみにしよう。



「ここか。結構人がいるけど、すぐに順番が回ってきそうだな」


「ですね!奏風先輩が怖がる姿を見るのが、今から楽しみです」


 またもや嬉しそうに微笑むかのん。

 その言葉そっくりそのまま返してやるよと思いながら、俺は別の台詞をかのんに言った。


「リタイア扉が無いのは、不安だな」


「その分、距離が短そうですからあっという間かもしれませんよ?」


「そうだといいな」

 

 そして五分後、俺達の番が回って来た。


「注意事項として、机と段ボールには触らないでください。走るのも禁止です。それから、中でお札があるのでそれを取ってからゴールに向かってください。以上で説明は終わりです。では、暗闇の世界へ行ってらっしゃい」


 説明を終えたスタッフは、笑顔で手を振りながらドアを開けて俺達を中へと促した。

 それに準じて、俺とかのんは教室の中へと入って行った。


「ま、真っ暗ですね…これは、思ったより怖いかも」


「ここまで暗く出来るなんて、色々と工夫されてるな。流石、先輩たちだ」


「なんでそんなに落ち着いているのですか!!お化け屋敷怖いって言ってたのに。嘘ついたのですか、この私に」


「いやお化け屋敷苦手だぞ。それよりも、かのんの方が怖がってないか?入る前はあんなに俺の事を言ってたのに」


「怖がってませんよ…?手抜きのお化け屋敷なんて簡単ですよ」


「手抜きって…」


 どうやらかのんは、俺の前で見栄を張っているらしい。実は怖いのに、さっき『私を頼ってもいいですよ』と言ってしまったので後戻りが出来なくなっている様に見える。

 それと、吊り橋効果でも期待してそうだし。


 仕方がないな…と思いながら、俺はかのんの手を握る。

 かのんは最初は驚いたが、すぐに握り返して一歩一歩進み始めた。


「きゃあぁぁぁ」


 進み始めて最初の角を曲がろうとした時、横から無数の手が現れた。

 それと同時にかのんは大きな声で叫んで、握っている手を引っ張りながら早歩きになった。


「ちょ、かのん、そんなに早く歩くと転ぶ」


「無理です。早くミッションのお札を取って、ゴールを目指しましょう」


 そう言いながら、かのんはどんどん進んでお札のある机まで一瞬で辿り着いた。

 途中途中に先輩達が怖がらせて来ていたが、かのんによってあまり見れなかったのが少し残念。


「お札は取りました。あとは真っ直ぐゴールですね」


「もはや何も見ずに、ゴールまで来てしまったな」


「そんな事はどうでもいいです。今はともかく、ゴールが先です」


「はいはい」


 そしてゴール目前で冷たい水と風が吹いて来て、勢いよく外に出て行ったかのんであった。

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