第1話 少女との出逢い
2019年8月。夏真っ盛りの暑い夜だった。僕は意味もなく三鷹の裏道を歩いていた。僕は人混みが嫌いだった。だから隣町の吉祥寺は苦手だった。
そんなときだった。路地裏から大きな音がした。ちょうど人が倒れたくらいの音だった。いや、そんなピンポイントにわかるものかと皆さんはお思いかもしれないが、少なくともそのときの僕はそう思ってしまったのだからしようがない。
だから僕は急いでその路地に向かった。そこには確かに人が倒れていた。少女だった。病院の検査服のようなものを着ていた。髪も肌も病的なほど真っ白でこの世の者とは思えなかった。
僕は慌ててスマホを取り出した。
「えっと……病院? 警察? いや両方か……」
急いで緊急ダイヤルをしようとする僕の手を誰かが掴んだ。少女だった。
「……だめ」
「いや、だめっていったって……」
「……平気、だから」
「あー……」
じゃあわかった。元気でな。そういって別れるのも憚られる空気だった。仕方ないので気になったことを僕は尋ねた。
「君、病院から逃げ出してきたの?」
「違う。でもあそこに戻りたくない」
家出少女か……。話には聞いていたがまさか自分が遭遇することになるなんて。妙に感慨深かった。警察に引き渡すのが正しいのだろうが……。
「君、いくとこあるの?」
「キミじゃない。わたしは、アイ」
「僕は武蔵。じゃなくて……」
少女に話をはぐらかされた僕は、ため息をつきたくなった。だから意地悪をしてやろうと提案した。
「いくとこないなら僕んちくる?」
若干冗談めかしていってみた。こんなことを言われれば怖くなって自分から家なり警察なりにいくだろう。そんな考えもあった。
しかし予想に反し、少女は怯えるどころか僕の目をじっと見てきた。今気づいたか真っ赤な目だ。まるでルビーのようで、僕の心を見透かすようで……
「わかった。いく」
まさかの返答が返ってきてしまったが、今さら引っ込みのつかなくなっていた僕は彼女に一宿一飯の恩を売るはめになった。
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