魏志倭人伝(ぎしわじんでん)
「ここからなんだけどさあ 今日、神龍さんが教えてくれたよね。大桜の丘がゆきのお墓だって。私ねえ、図書館で弥生時代のこと調べてて『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』のことを解説した本を見つけたんだけどね」
「はあ?その・・倭人伝ってなあに?」
♬ ハリーポッターテーマ曲
「魏志倭人伝っていうのはねえ三世紀末に中国で書かれた三国志という歴史書で、その中に魏(ぎ)の国のことを書いた魏書(ぎしょ)があって、さらにその中に倭国のことを書いた部分があってさあ。その部分を通称、魏志倭人伝と言うんだよ。倭国とは今の日本のことみたいだね」
「ややこしいねえ、また眠くなっちゃいそう。 それで?」
「その中で千八百年前の倭国には邪馬台国(やまたいこく)というクニがあり、倭国を統一して平和な国にした卑弥呼(ひみこ)という女王がいたと書いてあるんだ。
でその本には帯方郡(たいほうぐん)(朝鮮半島)から邪馬台国までの距離や方角や所要日数が書いてあるのだけど記述があいまいで今一場所が特定できないらしい。日本古代史最大の謎といわれていて日本中で邪馬台国の場所と卑弥呼のお墓を探してるけど未だに分からないということなんだ」
「私にはむずかしいね・・・」
「でもねえ もしかしてねえちゃんはその女王の卑弥呼(ひみこ)が・・・ゆきのことだと思ってるんじゃないの?」
「そうなんだよ!なんで分かるの?」
「ねえちゃんの話、聞いていたらそんな気がしたよ」
「魏志倭人伝にはねえ、魏の国王から卑弥呼に金印が贈られたとも書いてあるんだ。
西暦238年に魏と親しい関係の倭国の女王卑弥呼に送られたらしいんだよ。そしてその金印には親魏倭王(しんぎわおう)って彫ってあるはずなんだ」
「へえ~ねえちゃんよく調べたね。でその金印はどこにあるの?」
「それがまだ国内では発見されてないんだよ。発見されればそこが邪馬台国の可能性が高いのだけどね」
「ふ~ん 神龍さん今日は金印のことは言わなかったけどひょっとするとその金印のこと知ってるかもしれないね」
「うん今度神龍さんに会ったら聞いてみたいね」
「だけどねえ ねえちゃん、ゆきは何で“女王卑弥呼(ひみこ)”って呼ばれるの?“女王ゆき”でもいいんじゃないの?」
寝ぼけ眼(まなこ)だったりんの頭がだんだん冴えてきたようです。
「う~ん それはなかなかいい質問だね。ゆきは巫女(みこ)さんだったよね。女性のシャーマンだからゆき様じゃなくて姫巫女(ひめみこ)さまと呼ばれていたんじゃないかな。“ひめみこさま”を大陸の人たちは“ひみこさま”と聞き取ったんだと思うんだ。そして適当な漢字を当てはめた」
「はあはあそういうことね。だからゆきは大陸では卑弥呼とよばれたんだね!うんそれなら納得できるわ。ねえねえそこまでは分かったけど、だったら私たちが行った弥生のクニは邪馬台国ということになるの?」
「そう!そういうことになるね。今夜のりんは鋭いねえ」
畳みかけるようにりんがいいます。
「そして大桜の丘にあるゆきのお墓は、もしかしてあの卑弥呼のお墓!」
「うん そんな気がするんだ。魏志倭人伝には女王が亡くなった時に巨大なお墓を造ったって書いてあるんだ」
「それって神龍さんが造ったあの丘のことだね」
「そう!」
「ねえちゃん!だとすると日本古代史最大の謎が解けたことになっちゃうよ!」
りんが思わず大きな声で叫びました。
「あなたたちまだ起きてるの 早く寝なさい明日は横浜に帰るのよ」
りんがあわてて口を押えました。
「ありゃ!りんが大きな声をするからおかあさんに聞こえちゃったよ。は~い そろそろ寝ま~す」
ペロッと舌を出したりんは今度は小声で
「でもさあ もしこれが世間に知れるとどうなるの?大発見じゃないの?」
と興奮気味に夏の顏をのぞきこみます。
「うん そうだとしたら 大騒ぎになるね」
「大変なことになってきたね。ねえちゃん、あす横浜に帰る前にもう一度大桜に行ってみようよ」
「そうだね 早起きして行ってみたいね」
興奮冷めやらぬ二人でしたが昼間の疲れが出たのかそのうち夢の世界に吸い込まれていったのでした。
♬ 川のせせらぎ カエルの鳴き声
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