困った時のおじいちゃん



「ゆきが、横浜にきた目的は何? お兄さんの“はやと”はどうしてるの?」


「兄は元気です。夏さんにもらった首飾りを、いつも身につけてとても大事にしています。お二人のことは“一生涯忘れない”そうです。でも・・・」


「でもって?」夏が続きをうながします。


「今、“弥生のクニ”では、何年も争いが続いています。あなたたちがやって来た時、高い柵や堀があったでしょ。あれは私たちの“クニ”を守るためのものです。物見やぐらも、そのためにあります。今、兄は“クニ”を守るために戦っています。私のおとうさんも、その戦いで亡くなったのです」


 どうやら、“クニ”は“国”というよりも、今でいう“地域”や“県”のようなもののようです。 “弥生の国”は、たくさんの“クニ”に分かれているということですね。図に描くとこんな感じでしょうか。


       |―私のクニ

       |

       |―クニ

 弥生の国 ―| 

       |―クニ

       | 

       |―クニ


「そうなの。おとうさんが亡くなったのは、その戦いだったのね。丘の上にお墓があったね。お花畑がきれいだったね」

 遠くを見つめるように、夏がいいました。あの丘の上のことが昨日のように思い起こされます。


 りんも、あの丘を思い出したのでしょう。少しウルウルしています。


 ゆきは、深刻そうに、そして悲しそうな表情を浮かべて続けます。


                   ♬ ハリーポッターテーマ曲

                      

「私は “弥生のクニ”を豊かで争いのない、平和な世界にしたいのです。でもそのために、どうしたらいいのかがわからないのです。それを知りたくて、兄と相談して、私がここにやってきました」


 ゆきは、さらにこう続けます。 


「私がここにいられるのは、明日の日暮れまでの二日間です。それを過ぎると“弥生のクニ”に戻れなくなります。それまでに“争いをなくす方法”を知りたいのです。どうか教えてください。お願いします」


「うわ~、それって難題だねえ」

 この難しい質問には、かしこい夏も、すぐに答えが出せそうにもありません。



 夏は、おかあさんにたずねます。


「ねえ、おかあさん。ゆきの話聞いたでしょ。“争いをなくす“いい方法ってない?」

 りんも、おかあさんの顔をうかがいます。


「そうね。昔から世界中で争いが絶えないわね。自分たちが豊かになりたいからとか信じている宗教のちがいなどが理由で、武力で他国を奪い取りにいく。そしてその度に、たくさんの命が失われる。そのくり返しをしているのよね。悲しいね。

“争いをなくす方法”って、国同士が仲良くすればいいってことはわかるけど、何をどうすればそうなるのかは、おかあさんにもよくわからないわ」


 そう話しながら、りんをみました。

「あなたには、この話って少し難しいかもね?」


 「ううん、そんなの簡単だよ。地球が一つの国になればいいじゃん。そしたら国同士で争うことなくなると思うんだけど。どう?」


 珍しく、すらすらと答える、りん。


 「理想はそうだけどね。でもアメリカとロシアと中国が一つの国になるかっていうと、たぶんそれはすぐには無理だね。今の日本は平和だから平和について真剣に考えたこともないもんね」と夏。


 四人が悩んでいると、りんが明るい声で、こういいました。


「ん~~ん。じゃあ岡山のおじいちゃんに相談に行こうよ! 何か名案があるかもしれないよ。“困った時のおじいちゃん”って誰かが言ってたよ。

 今はお百姓さんだけど、昔は学校の先生をしてたから、きっといい方法を見つけてくれるよ。そうしようよ!」


 夏は不安そうにゆきの顔を覗き込んでこういいます。


「でも明日の日暮れまででしょ。あしたの朝には田舎に行かないと間に合わないよ。田舎って中国山地のど真ん中だよ 横浜から日帰りはむりだよ」


 するとゆきは夏を見ると、にっこり微笑(ほほえ)んで“コックン”とうなずきました。


「まっ、まさか・・・!?」


「まさか・・・龍に乗って!」


 珍しく“ビビリ顔”の夏にゆきは答えます。


「心配はいりません。案外と速くて快適ですから! それより、岡山のおじいちゃん家までの道案内は、夏さんにお願いしますね」


「きゃ~!龍に乗って行くの? わかったわ それってすごいね ぞくぞくするわ。

 じゃあ、いまからパソコン開いて地図を確認するね。さすがの龍もこちらの地理はわからないよね。カーナビないしね。確か、おじいちゃん家は岡山県真庭(まにわ)市だったよね」

 夏はさっそくパソコンを開くとマップの検索を始めました。


「私たち龍に乗って空を飛ぶの? 楽しそう~! おかあさん、お弁当、お願いしま~す!」りんは、すっかり遠足気分になっています。


「あなたたち、本当に田舎に行くの? しかも龍に乗って? 信じられない! 岡山県の真庭は遠いのよ」と、おかあさんは半信半疑です。


 それはそうです。朝から信じられないことの連続ですから。


「でも、本当に明日行くのなら今夜は早く寝なさいね。真庭のおじいちゃんには後で電話しておくから」と首をかしげつつ

「でも不思議だけど本当みたいだし・・・」


 今日はなぜか、ひとりごとが多くなっているおかあさんです。




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