第36話 閑話 ラダルからの手紙②

「では今日はここまでだな。お疲れ様」


「お疲れ様です!師匠!」


「もうだいぶポーションの生成もサマになって来たね。そろそろ上の段階に行こうか?」


「ほ、本当ですか??」


「うん、アリシアは筋が良いからな。その内エクストラ系統まで行けるだろう」


「私が?それは流石に…む、無理ですよ…」


「いや、この私が言うんだから間違いない。と言うか私の弟子ならその位は作れないとな」


私の錬金術の師匠であるシヒューネ様は、元宮廷錬金術師というかなりの腕前を持つ錬金術師である。

でもこの街では”変わり者”と言う風に言われてるけど…本当は凄い錬金術師なんだからね!


お師様に筋が良いなんて言われて嬉しいなぁ〜。ご機嫌で家に帰ると母さんが手紙を見ながら泣いていた。


「母さん…どうしたの??」


「アリシア…ラダル君が…行方不明になったの…」


「えっ…アイツが…?な、何言ってるのよ…」


「転移の森の罠に掛かって飛ばされたらしいの…。その転移の罠に掛かって飛ばされた人は一人も戻って来る事は無いみたいなの…」


「そんな…バ、バッカじゃないの!ホントにドジね!」


何か凄く頭にきたけどポロポロ涙が出てきた…アイツ何やってんのよ!!


アイツとはウッドランドに居る時に出会った。アイツらの軍勢が攻めて来たと勘違いした一部の村の人達が攻撃してしまったのだ。

アイツらの軍勢の隊長…ゴン何とかって大男が物凄い大声で文句を言って来た…凄く怖くて泣いたのを覚えているわ。

その時にヘスティア姉さんは村長とアルテアさんと一緒にアイツらの軍に行くと言って出掛けて行ったの…もう帰って来ないと思ったわ…。

でも、少ししてから村長とヘスティア姉さんはアイツらの軍勢引き連れて村まで来た…何でも村長とゴン何とかが意気投合して酒でも飲もうって話になったみたい…何で??

やって来た軍の中に一際小さい男の子が居たの…変なヘルムとブカブカの鎧で大きな杖を持った子…それがアイツだった。


朝起きるとヘスティア姉さんがご機嫌で帰って来たの。何でもラダルとか言う伍長がヘスティア姉さんと同じ様に薬草で料理をするとかで話が盛り上がったらしい…。あのヘスティア姉さんがあんなに嬉しそうに話をしてたのには驚いたわ。

ヘスティア姉さんは何と言うか…ちょっと残念な人なのだ。

村でも一二を争う程の美人なのだけど、魔法力が強くて男勝りの魔法剣士で、薬草を使った料理を得意としてる無口な人見知りだ。その上鈍い所があるので、中々良い人と出会えない人だった。前に付き合ってた男の人はヘスティア姉さんと同じような変わり者でお似合いだったけど、結局村の方針と合わなくて村を出てしまったから…。

そんな姉さんがあんなに男の人の話をするなんて…本当に驚いたわ。一体どんな人なんだろう…。

ヘスティア姉さんが前から心配していた、ウチの村に魔物が出る原因がラミアの変異種が居た為だと解り、アイツらの軍が退治してくれたと聞いた。その時にラミアにトドメを刺したのがヘスティア姉さんと喋っていた伍長らしい。

そいつが料理を覚えにやって来ると言う…私は母さんの策略で外に行かされたの。何か頭にきたから夜まで友達の所で遊んでたの。ちょっと遅くなったけど…。

そしてウチにやって来てたのはあの小さい男の子だった…えっ?この子が伍長??料理もするの??

その日は母さんのカミナリが落ちて小屋に閉じ込められたわ!アソコ怖くて嫌いなのに!


それからアイツが色々と動いてトントン拍子で領都で食堂を開く話になった。名前は『ヘスティア食堂』……何で姉さんの名前なのよ…。村を出る時にはヘスティア姉さんにまかせなさーいって言ったら「だから心配なんだ…」とか言われたわ!失礼ね!


領都での『ヘスティア食堂』の開店時にはクロイフさんというテズール商会の会頭さんと準備を手伝ってくれたラダルは、その後もちょくちょく顔を出しては『ラダルのオススメ』と言う不定期メニューを出してた。……まぁまぁ美味しかったわよ。

店は物凄く繁盛したわ。母さんや姉さんが驚くほどにね。結果としてアイツの思い通りになったみたいね……ちょっとムカつくわ!

でも、もっと驚いたのはアイツが勲章まで取るほど戦場で活躍したって事。まあ良く考えれば元からあの歳で伍長とか商売で次々と稼ぐとかもおかしいのだけど。

そんな頃にあるキッカケが有り、私は錬金術のお店の手伝いする事となった。

その事を母さんから聞きつけたのか錬金術で使う素材集めを手伝いしてくれると言うので、じゃあとお願いしたら夕方には帰ると言ってたのに夜遅くに帰って来たの。私が怒ると「魔物狩りが楽しくて時間も忘れて狩ってた」とか言ってたわ!バッカじゃ無いの!べ、別に心配なんてしないんだからね!


その後も郡の遠征とかで何ヶ月か開けて来たりもしてた。ヘスティア姉さんが来た時は丁度遠征に出てた頃で姉さんには会えなかった。姉さんは本当に残念がっていたわね。だからこの前に会えた時のヘスティア姉さんのはしゃぎぶりにはちょっとビックリしたわよ…。二人で料理をする姿はまるで何かを研究してる感じなのが不思議だったわ。


そんなアイツが行方不明になるなんて…なんてドジなの?!いつもは上手くやってたクセに!


母さんは私にアイツからと言う手紙を見せてくれた。クロイフさんが持って来てくれたらしい。


『この手紙がマルソーさんに渡ったと言う事は俺に何かしら起こったと言う事です。

その時の為にクロイフさんにこの手紙と少しばかりの資金を渡すようにお願いしておりました。

マルソーさんとアリシアには俺がヘスティア師匠に強引に持って行った食堂の話を実現して頂いて本当に感謝しています。俺はヘスティア師匠の薬草料理はこのままウッドランドで埋もれたままでは駄目だと思ったのです。

それで師匠にウッドランドで限定の『ヘスティア食堂』を開催して、皆に食べて貰い師匠の料理がどれだけ素晴らしいかを知って欲しかったのです。

マルソーさんがいずれやって来るヘスティア師匠に、食堂を任せる為にこの食堂を『ヘスティア食堂』の名前にしたと思ってます。でも、俺はマルソーさんにお任せして正解だったと確信してます。マルソーさんの人柄や料理の上手さがこの食堂の売りだからです。

それにヘスティア師匠は食堂の女将に収まるような人ではないと思ってますからね。

この資金は『ヘスティア食堂』の運営資金としてマルソーさんに使って頂きたいと思います。

後、アリシアが錬金術師を目指すのであればその勉強と器材の購入資金としても使って頂きたいと思います。

実はコッソリと錬金術師さんに話を聞きに行ったところ、あの子はかなり筋が良いと、飽き性な所があるけどやれば出来る子だと思ってると仰ってました。

アリシア、立派な錬金術師になって欲しい。君ならできる!!

最期にヘスティア師匠と薬草料理に出会えた事は俺の中で本当に嬉しく幸せな事でした。本当にありがとう御座いました。だからヘスティア師匠には我慢しないで自分の幸せを追いかけて欲しいと思ってます。ラダル』


何よ!アイツ…師匠の所にコッソリと行くなんて!私の保護者のつもりなの??アンタは私と同い年なんだからね!

何が「君ならできる」よ!アンタなんかに言われなくても頑張るわよ!頑張るに決まってるじゃないの!

勲章くらい必ず貰えるくらいになるわよ!その時にアンタに見せつけてやるわ!


だから…必ず生きて戻って来なさいよ!!




◆◆◆◆◆




母さんからラダルの手紙が来た。

まだラダルが行方しれずになったとは信じられない自分がいる。

王国軍が歴史的大敗を喫した事は風の噂で知っていたが、まさかラダルが行方しれずなるとは少しも思っていなかったのだ。

思えばラダルとは出会った頃から不思議な事だらけだった。彼が優秀な魔法兵だった事も、それに薬草料理をする事にも驚いていた。彼の作るその料理は”何かしらの料理に近付けさせようとしてる”風に見えた。

しかもあの言動と行動力…どう考えても私よりも遥かに年上の人に感じる事も多々あった。それでいて子供の様な無邪気さもある。そして巨大でいびつな魔力……。私はラダルはあの伝説のエルフなのではないかと疑った事もあった。しかしそれはクロイフ殿がラダルの実家と懇意にしていると言う話で疑いは晴れたのだが…。

母さんからの手紙ではこの手紙を見てからあのアリシアが何かに取り憑かれた様に錬金術の勉強をしているらしい…あの子にも思う事があったのだろう。


私も思う事があった…私はラダルと一緒にいる時に彼の姿を重ねてた気がする。思えば優秀な魔導師で合成魔法を使ったり、薬草料理を変な目で見なかったりと今思えば共通点が多かった。

私は…ウッドランドを出てあの人を探そうと思う。生きて居るのか死んでいるのかも分からないけど…。

ラダルが居なくなったと知った時に、彼が居なくなった時の事を思い出したのだ。

私は臆病過ぎたのかもしれない。今更追いかけても良い事など待っている訳もないだろう。でもこのまま後悔だけの人生を送りたくは無い。たとえどんな結果だったとしても今よりはマシだと思うから…。

妙に勘の鋭いラダルはそんな私の心情を感じ取っていたのだろう。『我慢しないで幸せを追いかけて欲しい』…そう言ってくれたラダルには感謝しなければ…いつか帰って来たらこの礼を必ず言わねばな…。


だからラダルよ、必ず戻って来い。



◇◇◇◇◇◇◇◇




いつもお読み頂きありがとうございます。

今回はアリシア、ヘスティア視点の閑話となります。

実はアリシアとヘスティアの姉妹は、二人を主人公に小説を書こうと設定を考えていたキャラクターで、ヘスティアの元カレも設定の中に入っておりました。

ラダルの薬草を料理に使うという設定は、本来ヘスティアの設定であった物だったので『師匠』という形にして登場させたのです。

そして彼女たちも前に進みましたね。

彼女たちの物語も少しづつ書けたらと思っております。


さあ、閑話も残りあと一つ……誰の元にラダルの手紙は行くのでしょうか?

お楽しみになさって下さい。


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