第17話 不穏な魔物たち

ウッドランドでのどんちゃん騒ぎが終わった翌日、俺は副長に魔物が多い件とヘスティアさんから聞いた話を報告した。


「ほう…早速あの美人とお近付きになるとは、中々隅に置けんなあ」


「はぁ…副長、真面目に言ってるなら医者を紹介しますが?」


「ククク…冗談だ冗談。その件はヘスティア殿からも調査隊に相談が来てるぞ」


俺より報告が早かったか。中々真面目な人だなあ。


「しかし、魔物に詳しいラダルからも話が来たとなれば調査隊に本腰を入れてもらうかな」


タイラー副長はそう言うとゴンサレス隊長達が会議してる部屋に戻った。


俺はまた村の出入口に戻ると話題のヘスティアさんが来ていた。


「ラダル伍長、昨日の話は調査隊に朝一番で話して来たが…」


「ああ、伍長は要らないですよ。俺もたった今副長に報告を入れて置きました。今やってる会議でも話が出てるはずですよ」


「そうか。気を使わせて済まなかったな」


「全然構いませんよ。薬草の件で色々教えてもらったのに比べたら、この程度は大した事無いですよ。他にも何か有れば言って下さいね」


「そうか…ありがとう。あの程度の薬草の事なら何時でも…何なら料理も教えるが、休暇が取れるなら言ってくれ」


「本当に?!いやあ昨日から教えて貰った薬草の組み合わせで料理にどう使うか考えてたんだけど…そりゃありがたいなあ〜。じゃあ休暇が取れる時はお知らせしますね」


「ラダルご…いや、ラダルは本当に料理好きだな。教え甲斐もあると言うものだ。楽しみにしているよ」


そう言うとヘスティアさんは手を振って戻って行った。良しっ、コレで料理のレパートリーが増えるなあ〜。ウッドランドの料理ってどんなんだろう。マジ楽しみだわ〜。


「おい、伍長…あの美人と知り合いになったのか??」


シュレンが持ち場を離れて俺に絡んできた。


「ああ、昨日夜食を持って来てくれてさ、そん時に薬草料理の話になって色々教えてくれたんだ。俺より薬草に詳しいから勉強になるよ」


「オレに紹介してくれないか??」


「ちょっと待て、俺にも紹介しろ!!」


と有象無象が湧いてきやがった。

全く良い歳して10歳のガキに紹介しろって恥ずかしくねぇのかよ…。


「チミ等、10歳にそんな事させて恥ずかしく無いの〜?それでも大人なの〜?おち○ち○ついてるぅ〜?」


俺は冷たい目をしてそう言い放つ。


俺の料理に掛ける情熱を邪魔するなら底なし沼に何時でも埋めるぞ。ってくらいの殺気で睨むと皆トボトボと配置に戻って行く。

どんだけ陰キャだよ…全く…声くらい自分で掛けろよ!!

こうして可愛い部下を千尋の谷に突き落として可愛いがった後、俺は気配を凝らして色々探ってみるが、村の近くには特に気になる点は無かった。


会議が終わったゴンサレス隊長達が俺達を集める。そして、タイラー副長が指示を出した。


「ウッドランドに魔物が多くなった件で魔物の異常発生が懸念される。隊を3班に分けて北、北東、東方面に向かい調査する。ウッドランドの人間が俺達の案内役として同行するから案内に従い動いて欲しい」


そして更に副長が話しを続ける。


「そこに張り出した通りに班分けをする。東は私が班長だ。北東は隊長、北はラダル伍長とする。以上、班分けを確認、字の読めない奴は聞いて確認しろ!!以上!!」


うわあ〜出たよ…何で俺が班長やらされんのよ。他にも小隊長とかにやらせ…あっ、騎馬隊はコッチ居ねぇし…。伍長だけか。でも他にやれるの居るじゃんね!!


「副長、何で俺が…」


「森の中で魔物探しをさせるのにお前よりも適任は居ないぞ」


チッ…分かったよ分かりましたよ…やりゃあ良いんでしょ。


俺は班分けで同じ班になった者達を集めて話をする。


「副長の陰謀で班長をやらされる伍長のラダルです!可哀想だと思うなら文句を言わずについて来て下さい!文句を言う人には漏れ無く俺の杖で殴られると言う素敵な体験が出来ますよ!」


班員は大爆笑してる。よし、掴みはオッケーだな。


「それぞれの組同士で固まりながら進んで下さい。先方は魔法兵の俺の組と調査隊、次は槍隊の組、次は弓隊の組、次は歩兵の組とならんで下さい。魔物が来たら槍隊と歩兵は左右に分かれて魔法兵と弓隊の左右を固めて下さい。弓隊と魔法兵は直ぐに左右の前衛の補佐をして下さい」


俺は更に続ける。


「魔物は最初に出た方向の後ろからも来る可能性が有るので前衛で周りを囲む陣形を取る事が大切です。後衛も左右に分かれて前衛の後ろから全方位の補佐をします。そして中心に調査隊とウッドランドの案内を匿います。宜しいですね?」


「おう!」


「任せとけ!!」


「それでは組ごとに左右の振り分けお願いします」


俺は調査隊の人とウッドランドの案内の人に挨拶がてら魔物が出た時の注意点や我々の囲いの中に必ず入る事、もし離れていたら闇雲に逃げずに真っ直ぐ此方に向かう事を念押ししておいた。

はぐれると厄介なので我々の方に帰る事を徹底させるのだ。それでも万が一の場合に備えて双子石を持たせる。前にカロス制圧の際トンネルを掘るのに方向を決める道具として使った奴だ。今回ははぐれた時に場所を特定する為に使う。


俺達の担当は北である。北は山になってるので中腹くらいまでは調査したいとの事。それ以上上というのは考え難いらしい。

上には食料が無いから、ある程度下にある筈だと言うのが調査隊が出した結論である。うむ…確かに一理あるな…。


そのまま真っ直ぐ北に向かい山を登る。

途中、何匹かの魔物が出て来たが、打ち合わせ通りの陣形で攻撃は出来ている。

そのまま山を切り開きながら進むので歩みは遅い。その為に5時間以上掛けても大して進まない。

周りの気配も魔物が多く出てくる感じもしない。出て来たのも単発で連チャンして出て来ないので魔物の密度は薄いと感じる。

雰囲気的には此方は外れじゃ無いだろうか?

そんな時だった…急に山が開けてる様になる。コレは獣道か?いや、魔物だから魔物道?


「コレは…魔物の通り道ですかね?」


俺が調査隊の隊員に尋ねると地面の具合を調べながらこう言った。


「踏みしめられた具合と魔素の残留具合からみて間違いなく魔物が通った跡…しかも何度も通ってますね」


道なき道を切り開きながら来たが、この道なら魔物が居る所まで真っ直ぐ行けそうだ。

俺はこの場所に印を点けてこう言った。


「とりあえずこの道を山の方向に前進します。魔物の出現率が跳ね上がった場合は一旦此処まで退却します。そのまま此処に陣を張り増援を待ちます。村まで報告させる班にはそのまま山を降りて貰います。その際、調査隊とウッドランドの方はそのまま村に引き揚げて下さい」


「調査隊は了解した。君は我々と一緒に来てくれ」


調査隊員はウッドランドの案内の人に言うと頷いていた。


「では出発」


俺達はその道を山に向かって進んで行った。しばらくすると段々と魔素が濃くなってる気がしたので調査隊員に確認を取ると、


「良く解りましたね。間違いなく魔素の濃度が濃くなってます」


と言った。コレは間違いなく何か異変が起こってる…そう感じていると魔物の気配がする…一気に5匹…いや6匹か?


「魔物が道の向こうから6匹来ます。陣形をとれ!」


陣形を作り構えて居ると魔物がやって来た。魔法兵と弓隊は直ぐに反応、魔物を直ぐに駆逐する。魔物の処理をしながらも陣形は崩さない。


「よし、このままの陣形を保ったまま前進する」


この様に前進しながら魔物の襲撃に対処して行く。

1時間ほど前進した頃、更に魔素濃度が上がって来た。


では、何故俺が魔素濃度や魔物の気配を感じる事が出来るのかと言うと、それは”魔力核”である【ザ・コア】の影響である。

【ザ・コア】は微量の魔力を集めて『魔力玉』を形成してる訳だが、魔力…つまり魔素を集めて吸収するので、吸収する対象の魔力や魔素と【ザ・コア】に一方的なパスが繋がり【ザ・コア】をハブとして最終的な出力先の俺に伝わる。結果として吸収する魔力の場所と量や魔素の濃度をかなり的確に感じ取る事が出来る。

つまり、魔物の気配とは魔物の魔力を吸収する為に繋がった事で感じ取ったモノである。更に言うと気配を感じ取れる範囲が、【ザ・コア】で魔力の吸収が出来る範囲と言う事になる。

この範囲が魔力吸収の結界の様な物であり、この結界内に入ってるモノは等しく微量の魔力を【ザ・コア】に吸収される仕組みだ。


「魔素濃度がまた上がってる…そろそろ限界かな…」


俺がそう言った途端に魔物の気配が感じられる!10匹以上か?!ヤバいぞこりゃあ!!


「前方から魔物が多数接近!!退却を開始しながら攻撃せよ!!殿は俺が務める!!」


皆が一気に退却を始める。俺は『溶岩砲(マグマキャノン)』を撃ち込みながら撤退する。

『溶岩砲(マグマキャノン)』を逃れた魔物が多数、道から此方にやって来た所を俺は『千仞(せんじん)』を使って底なし沼に沈める。

それにも掛からなかった魔物を『溶岩弾(マグマバレット)』で撃ち倒して行く。

しかし、其処からはどんどんと湧いて来る様に魔物が増えて行く!


「オイオイ…ヤバヤバだな!このクソが!!」


俺は『千仞(せんじん)』やロックウォールを障害物に使いながら『溶岩砲(マグマキャノン)』連射で魔物達を倒したり足止めしながら徐々に撤退する。

命からがら逃げて来たけど、さっき30匹位は一気にやって来たぞ。


「伍長!ご無事でしたか??」


「何とか逃げたけど凄い数だったからコレはマズいかも知れない。とりあえずロックウォールをこの道を塞ぐ様に二重に建てよう。調査隊はそのまま村まで撤退して下さい。護衛はそのまま隊長と副長に繋ぎを取ってくれ。かなり急ぎで頼む」


「了解した!!さあ、行きましょう!」


「伍長殿!御武運を!」


「ありがとう!さあ、早く!」


撤退班を送り出した後、俺もロックウォールを作りながら地面を盛り上げて土塁の様にする。魔力を切れば崩れるが半分位は山が残るので其処を壁に見立てる。

魔物が来たら遠距離攻撃をさせながら、抜け出す魔物を良い頃合いで『千仞(せんじん)』を手前に作りながらハメる。それも抜け出た奴は土塁前で槍隊と歩兵に任せる。


とりあえず準備万端整った。

魔物が大量に来るなら適度に攻撃を加えたら撤退も考えなきゃならない。

何しろ被害が出る前に判断しなきゃならんね。

援軍はさほど早くは来れない筈だ。向こうも北東と東の方向に向かっているからね。とりあえず1日位は覚悟しなきゃだわ。


3時間も経つと日も暮れてきた。これ迄は単発だったが、夜は活発化しそうだから3交替制にして休ませる事も忘れない。

料理も昨日獲って魔導鞄に突っ込んでた魔物の肉で料理をする。伸縮自在寸胴の魔導鍋を取り出し、ヘスティアさんに教わったばかりの薬草の組み合わせを使ってポトフを作り、皆に配給した。


「こりゃあ美味いな!流石は伍長だぜ!」


「それは皆が大好きヘスティアさんに教えて貰った、薬草の組み合わせで味付けしたポトフだから有難く頂戴したまえよ」


「そうか!ヘスティア様の!ありがたや〜」


「流石は我が女神様!!」


何かコッチが引くほど大人気なんすけど…マジでストーカーとかにならなきゃ良いんだけど…つか、そんな事したらヘスティアさんに殺られるから、まあ…大丈夫かな…。


伸縮自在の魔導鍋はリレーのバトンをちょっと太くした様な鉄の棒の先に魔石がくっ付いた物が、時計回りにクルクル回ると鍋底と鍋の外側を徐々に形成して行って一番大きいとラーメンのスープ作る寸胴位の大きさにトランスフォームする魔導具である。

そして、鍋自体が加熱するので火種要らずなのだ。

勿論、魔導コンロも持ってるけどそんなに凝った物は作れないからね。


腹ごしらえした後は守備を開始する。

夜中に何度か複数の魔物が襲って来たが、大した数は居なかったので、何とか怪我人なども無く守備を維持出来た。

そして朝方日が昇りだして直ぐに隊長と副長がやって来てくれた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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