生徒会執行部と革命組織

 カウスのゾーンを破壊した少女は、メガネをキラーンと光らせながら、自身のカードフォルダーに手を当てた。

 途端に彼女の足元の地面が盛り上がる。そこから出てきたのは、ゴーレムだった。このままゴーレムは彼女を乗せたまま、ズシーンズシーンと革命組織の方へと向かった。

 それをカウスは苦々しい顔で見ていた。


「おいおい……路地裏を破壊したら、平民が買い物できねえだろうが。秩序の門番さんよ」


 カウスの皮肉に、少女は頬を膨らませて言う。


「大丈夫です、生徒会執行部が、その会計を使ってきちんと売人の皆様を保護致しますから! というより、どうしてあなた方はここまでして解散してくれないんですか!」

「そんな力でねじ伏せてくる奴は、一度許容したら最後、いくらでも搾取してくるってアホでもわかるだろうがよ」

「そんな横暴なことはしませんっ!」


 現在進行形でゴーレム使って暴れ回っているのがなにを言っているんだ。

 革命組織の全員の心がひとつになったが、肝心のゴーレムを操っているほうにその自覚がない。


「いい加減オシリスもこのアホをしつけろ。俺たちゃこいつらの飼育係じゃねえぞ……」

「まあ……たしかにアホっていうのは否定できないけどさ、可愛げはあるからねえ……まだ」

「俺ぁ、あれを可愛いかどうかは知らん。デネボラ、可愛い可愛い言うんだったら、責任取ってあいつの面倒見てやれ」

「あんたも言うねえ」

「俺がやったら路地裏が壊れるだろうが。あいつ相手にゾーンを張ってもまた破壊されるのがオチだ」

「はいはい」


 カウスがさっさと他の面子を集めて寮への撤収準備をしている中、デネボラがカードフォルダーを持って出てきた。

 それに少女はむっとする。


「どうしてここで責任者が出てこないんですか! 卑怯ですよ!」

「奇襲は卑怯じゃないのかね」

「奇襲を何度だってやって来るのは、あなた方でしょう!?」

「はあ……イブ、あたしゃあんたのこと嫌いじゃないからね、悪いこと言わないから、正義のために火遊びはさっさとお止め。オシリスだってあんたが生徒会執行部を辞めると言っても、深追いするような奴でもないだろ」

「そう言って惑わすんですか!? 卑怯者!」


 イブと呼ばれた少女が吠えるのに、デネボラはいい加減首を振った。


(ホント、この子は洗脳されやすいというか……だから【世界】の口車になんか乗るんだ)


 そう言いながら、デネボラはカードフォルダーを手にする。

 イブのゴーレムが襲い掛かって来る。



「あなたには私も本気で行かないとやられますから! こちらも手加減はしませんよ!」

「だから……あんただったらあたしに勝てる訳はないだろ!?」


 ゴーレムの太い腕が、デネボラに振り下ろされる。彼女のアルカナを知らない人間であったら、彼女が潰されると想像して目を逸らすだろうが、革命組織の面々で撤収準備をしながらも彼女がゴーレムにぺちゃんこにされるとかけらにでも思っている人間はいない。

 そのまま彼女はゴーレムの腕を、素手で受け止めたのだ。イブは更にカードフォルダーに自身の魔力を流し込むが、それでもデネボラの腕力には負ける。


「……だから言っただろ。あんたの土は甘いんだよ」

「うっ……! 私は、それでも……!」

「やめとけって何度も言っただろうが。それ以上聞かないんだったら折檻しかないさね」


 デネボラの素手から腕を上げようとするものの、それより先にデネボラのゴーレムの腕を受け止めた手が、ゴーレムの腕を粉砕する。

 ゴーレムはあっという間に砂に砕け散る。それをイブは悔し気な顔で見ていたが、デネボラは涼しい顔だ。


「あんた、土使いだからってゴーレムの形の維持にしか魔力を使ってないじゃないかい。これであたしの怪力に勝とうったってそうは問屋が卸さないさね」

「ううううううう……っっ!!」


 イブはカードフォルダーに触れると、カードのからなにかを光り輝かせて取り出した。取り出したのは、巻物だった。

 生徒会執行部のアホ……イブのアルカナは【女教皇】であり、本来なら土の操作に巻物を鞭のように操作すると、強いものだったが、残念ながらデネボラとの相性は最悪過ぎた。

 デネボラのアルカナは【力】。文字通り力を行使するものだから、よほど魔力を流し込んだ能力でなかったら、簡単に彼女の怪力でねじ伏せられてしまう。特に土の操作であったら、土の硬度を魔力で底上げしなかったら彼女の怪力の前に負けてしまうのだが、猪突猛進が過ぎる彼女は、なかなか学習せずに、デネボラに負け続けている。

 イブは悔し紛れに巻物を鞭のようにしならせて、デネボラの拘束に使おうとしたものの、それより先にカウスがさっさとデネボラを回収した。

 既にカウスは自身のアルカナカードからチャリオットを取り出し、それに組織の面々に荷物を載せていたのだった。


「陽動ご苦労。帰るぞ」

「はいよ。じゃあね、イブ。あんたもあんまり怒られないように帰るんだよ」


 既に門番の老婆も帰っている頃合いだし、問題ない。

 そのままチャリオットは勢いと付けて走り去ってしまった。路地裏の狭さギリギリのサイズではあったが、このまま寮まで戻るには問題がない。

 その中、取り残されたイブだけが「うーうーうーうー!!」と地団太を踏んでいた。


「どうしてそんなに生徒会執行部の言うことを聞けないんですかぁぁ!!」


 イブの叫び声は、路地裏にこだましていた。


****


 既に日は落ちているというのに、この場所だけは朝日の下のようにまだ淡い光に包まれていた。

 その中で、五人が優雅に丸テーブルを囲んでお茶会をしている。

 五貴人。そこは特定の要職の子息子女が座ることで、学園内を、ひいては国内の地位を安定させるものだが、その席が全て埋まることは滅多になく、今回は【世界】が入学したことで、珍しく三年間埋まっていた。

 その淡い光の中には、ポワポワと鏡が浮かんでいる。その鏡の中には、学園内の光景が映っている。

【世界】の提案したアルカナカード全てを集めるゲーム。それは早速開始され、一部の生徒たちはアルカナカードを奪われ、一部の生徒たちは迎撃してアルカナカードを守り抜くという光景が映っている。


「今年はこのゲームをはじめるのが、いささか早かったのではないかな? 【運命の輪】がいるとは言えど、今までだって大したことなくステルスを決め込んで入学し、ステルスしたまま学園の外を出ていたから、害があるとは思えないのだけれど」


 仰々しい言動の青年はそう【世界】に指摘する。

 それに【世界】は「それはどうだろう?」と小首を傾げた。神殿が協議の中で語る天使のような淡い容姿の青年は、この淡い光の空間によく似合った。


「たしかに僕では【運命の輪】の存在がわからない。おまけに【運命の輪】がいるということ以外なにもわからないから、探し出すのは困難だ。でも、油断してはいけないと思っているよ。それにしても。今年の新入生はすごいね」


【世界】は楽し気に鏡を見る。

 黒髪の真新しいローブの少年が、アルカナカードを使わずに、襲い掛かって来る面々を殴り飛ばしているのが見える。それに女性陣は「野蛮」と顔をしかめるが、逆に男性陣は目を輝かせていた。


「……アルカナカードを使わせる暇も与えないなんて、ずいぶんセンスがあるね、彼」

「向こうはふたり掛かりでアルカナカードでの戦いを制したようですわよ」


 女性がそう訴えた先では、ふたりであからさまに寄り添っている学園内でも珍名所扱いされている【恋人たち】の力を全部跳ね返して勝ったふたりがいる。

【世界】は「ふうん」とふたりを見る。


「【愚者】でなかったら声をかけていたかなあ。しかし新入生はいわばこのゲームを円滑に行うための餌だったのだけれど、思っているより善戦している上、全部逃げ切った子もいるようだよ」


 そこでは、学園内ではじまった戦いから全て逃げ切ったブルーブロンドの少女が映っていた。


「……そんなこと、できるの?」

「大方彼女のアルカナカードの能力だろうさ。さて……新入生の内のふたりほど、招待しようか」


 そう楽し気に【世界】は黒髪の少年とブルーブロンドの少女を指差す。


「生徒会執行部に連絡してくれないかな。このふたりをぜひとも生徒会執行部にスカウトしたいと。オシリスあたりの顔が渋くなりそうだよね」


 性格のいい生徒会執行部の会長の胃に平気で負担をかける【世界】は、神殿の教義でいうところの、天使の皮を被った悪魔であった。


 スカトとルヴィリエが生徒会執行部からスカウトの話が来るのは、入学式の翌日であった。

 寮で人の少ない食堂でまったりと食事をしている彼らは、まだそのことを知らない。


****


【女教皇】

・土の使役

・巻物の召喚。武器として使用可能

・×××


【力】

・怪力

・×××

・×××


【世界】

・ゾーンの展開

・×××

・×××

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