第13話 悪魔殺し
捕虜達が捕らえられている洞窟の手前まで到着したヘルヴァイパーズの一同は、キラーヴァルチャーズとアイアンスコーピオンズの隊員の到着を待った。
その間にも一同は双眼鏡などで敵に関する情報を収集し続けた。
警備の数、敵の装備、トラップの有無、人間の敵兵は居るかどうか、既存のデータと異なる特徴を持った魔物は居ないかどうか、敵の会話の内容などだ。
「警備は……規模の割にはそれ程でも無いね」
イリアがそう呟くと、ウィリアムが双眼鏡を除きながら険しい顔で言った。
「“規模の割には”な。 その規模の方が問題だ……」
真剣なウィリアムに対して、ロバートは楽観的だった……
「なぁに、俺達と他チームの傭兵全員で殺しにかかれば、奴らだって尻尾巻いて逃げるだろうよ」
「いや、一人も逃しはしない。
全員殺す……あの悪魔共に逃げ場は無い」
レオニードが恐ろしく、そして低い声で呟いた。
「俺は戦闘時には、この新調したM60E4で暴れさせてもらう」
ラインハルトが自信満々にそう言うと、アンドレイが尋ねた。
「今回の戦闘は接近戦が多くなるぞ? M60のような汎用機関銃は取り回しが悪い、そんな銃で大丈夫か?」
「勿論――」
ラインハルトが言いかけた時、無線機に通信が入った。
「ヘルヴァイパーズ、聞こえるか? こちらキラーヴァルチャーズのロメオ班だ。
そちらを視認できた、これより俺達も配置に付く」
それに対してラインハルトが応答した。
「こちらヘルヴァイパーズデルタ班、了解。
サソリ連中も着いたらパーティを始めよう、魔弾と銃弾が飛び交う地獄のパーティをな」
「勿論だ、カッコいいとこ見せろよ、最強の精鋭さん達よ」
「……了解」
ラインハルトは少し嫌そうな顔をして無線を切った。
「最強の精鋭ね……褒めてるのか、それとも馬鹿にしてるのか……」
「そこは嫌でも褒めてると受け取っておいたほうが身の為じゃないか?
お互いの信頼度が下がると連携力も落ちるからな」
ウィリアムがそう言うと、ラインハルトが鼻で笑って言った。
「違いねえ……」
少しすると、茂みの中から複数人の傭兵達が静かに出てきた。
そして一同から10m程離れた位置に展開、待機した。
「はぁ……今回のデーモンナイトとか言う奴らの装備は、売っても金にならなそうだな」
キラーヴァルチャーズの傭兵達が話し始めた。
「別に良いだろ、捕虜を死なせないようにすりゃ自然と儲かるさ。
それに、奴らをただ倒すだけでも利益にはなる」
「お前には一発数百ルードするような高価な弾をバスバス撃てるような金も無いしな。
今回のミッションは良い利益になるんじゃないか?」
「……ああそうだな、クソッタレ……」
キラーヴァルチャーズの傭兵達がそんな話をしている内に、アイアンスコーピオンズの傭兵達が現場に到着した。
「こちらアイアンスコーピオンズ、ウィスキー班。
只今指定ポイントに到着した、そちらの指示があるまで待機する」
「こちらヘルヴァイパーズブラボー班、了解」
「よし、作戦参加者は全員揃ったみたいだな。
可能な範囲で集めた敵のデータを連中に教えておこう、他所の連中とはいえ、死に顔はなるべく見なくないからな」
ウィリアムはそう言うとメモを開きながら傭兵全員の無線機にコールをかけた。
「こちらヘルヴァイパーズのブラボー班だ。
収集した敵のデータを教えておく、よく聞け」
その声を聞いたキラーヴァルチャーズの一同は少し驚いてる様子だった。
「ブラボー班のリーダーは異様に若いな。
あんな若い兄ちゃんが、祖国を離れて傭兵家業ねぇ……嫌な時代になったもんだ」
「今更何言ってやがる? 今の世の中、少年少女の退役軍人だっていくらでも居るんだ、早い段階で傭兵という道を選んでても可笑しく無いだろ?」
「静かにしろ馬鹿共! 無線が聞こえねぇ!」
班のリーダーがキレ気味に言った。
「敵の種族はデーモンナイト、装備は鋼製の剣と鎧、防弾性能は9mm拳銃弾を防ぐ程度だ。
使用魔法はブリザードとカース、マナエナジーブレード(剣などの武器に魔力エネルギーを込めて放つ手法)を使用してくる厄介な奴らだ。
遮蔽を上手く利用して攻撃を回避しろ、貫徹力の弱い装備を使用してる者は、防御の薄い足を優先的に狙え。
正面警備数計14体、洞窟内の推定個体数は約60体だ。
奴らを殲滅後、捕虜を救出して帰還するぞ。
各自健闘を祈る」
ウィリアムは無線を切り、一同は攻撃の準備を整えた。
傭兵達は洞窟の入口で警備をしてるデーモンナイト達に各自照準を合わせ、射撃準備をした。
辺り一帯には、異様な緊張感が漂う……
傭兵達は銃口を警備のデーモンナイト達に真っ直ぐ向け、合図を待った。
「総員、撃て!」
ウィリアムのその言葉と共に一同は一斉に射撃を開始。
勿論弾を無駄にばら撒いたりはしない。
アサルトライフルは単発で、マシンガンはバースト撃ちで無駄弾を減らしつつデーモンナイト達を攻撃。
一同の激しい銃撃を受け、見張りのデーモンナイトは瞬く間に全滅した。
「正面警備全滅!」
ラインハルトがそう叫ぶと、ウィリアムが他の傭兵チームに向かって大声で指示した。
「俺達は洞窟入口手前まで移動する! 洞窟内に制圧射撃を頼めるか!?」
「了解した! 行ってこい蛇共!」
ブラボー班とデルタ班は突入に不必要な物を置いて洞窟入口の隣まで素早く移動した。
その間キラーヴァルチャーズとアイアンスコーピオンズの傭兵達は洞窟内に制圧射撃を行った。
ブラボー班の先頭に立っていたウィリアムが洞窟内をフラッシュライトをつけて索敵。
洞窟の奥でデーモンナイトがうごめいたのを確認すると、AK-74Mの銃身下部に装着したGP-30グレネードランチャーに40mmグレネードを装填し、洞窟奥のデーモンナイト目掛けて発射。
爆発音と共に奥から断末魔が聞こえた……
「ブラボー班! 突入するぞ!」
ウィリアムはそう叫び、ブラボー班は洞窟内部へと突入。
デルタ班もそれに続いて突入した。
洞窟入口を確保し、ウィリアムとエリックがフラッシュライトで洞窟の奥を照らした。
するとデーモンナイト達がこちらへ突撃して来るのが見えた。
ウィリアム、イリア、エリック、ラインハルトの4人がそれぞれ発砲。
急所である頭部や剥き出しになっている足などを狙って撃ち、銃声と空薬莢の落ちる金属音と共に、デーモンナイト達はバタバタと倒れていった。
突撃して来たデーモンナイトを殲滅した一同は、更に奥へと進む……
ヘルヴァイパーズが入口を確保したのを確認すると、キラーヴァルチャーズとアイアンスコーピオンズの傭兵達も突入を開始した。
「行け! クソデーモンをぶち殺せ!」
キラーヴァルチャーズロメオ班のリーダーが叫んだ。
ウィリアム達がクリアリングを行いながら洞窟内部を進んで少しずつ進んでいると、3つの分かれ道に遭遇した。
「ヘルヴァイパーズは中央の奴らを潰す、右と左を頼めるか?」
ウィリアムがそう言うと、ロメオ班のリーダーが頷き、右の通路を指して言った。
「了解だ、それではキラーヴァルチャーズは右のデーモン共で荒稼ぎといこう」
「よし、それなら左はアイアンスコーピオンズに任せとけ。
デーモン共は1体たりとも生かさん、皆殺しにしてやる……!」
傭兵一同は潜伏してるデーモンナイト達を潰すために、それぞれ奥へと進んでいった……
ヘルヴァイパーズの一同が中央の道を下って進むと、通路を曲がった先から明かりが見えた。
先頭にいたウィリアムが“止まれ”のハンドサインを出し、一同はピタリと静止した。
ウィリアムが通路の曲がり角から明かりがある方を覗きこみ、敵の数や地形などを確認した。
平面で遮蔽物が無く戦い辛そうだなと、ウィリアムは顔をしかめた。
ウィリアムの合図で、一同は射撃位置についた。
ウィリアムはGP-30に40mmグレネード弾を装填し、デーモンナイト達目掛けて発射。
爆発と破片で数体が殺られた直後、一同はフルオートで射撃を開始。
無数の銃弾がデーモンナイト達を無慈悲に襲い、洞窟内に激しい銃声が響き渡った。
弾丸が鎧を貫き、悲痛な声を上げながら倒れていく……
すると、複数体が剣にブリザードを纏わせて剣を振り、魔力でてきた刃を放ってきた。
マナエナジーブレードと呼ばれる手法だ。
一同は咄嗟に身体を隠し、攻撃を回避した。
マナエナジーブレードが当たった壁は亀裂が入り、凍り付いていた。
マナエナジーブレードの衝撃で発生した水蒸気に紛れ、エリックが単騎で突撃していった。
「全員、エリックを掩護しろ!」
ラインハルトの叫び声が響き渡り、一同はエリックを掩護するため射撃を行った。
エリックは仲間の援護を受けながらデーモンナイト達に突撃し、タクティカルブレードを鞘から抜いて、3体のデーモンナイトを凄まじい速さで切り捨てた。
そしてそのまま、悪魔騎士団の団長に向かって斬りかかった。
団長の名はヘデルム、翼を持たず黒くて豪製な鎧に身を包んだデーモンナイトで、通常のデーモンナイトよりも魔力が高く、また剣術においても長けている。
しかし、近接戦闘においてはエリックの方が上手だった。
エリックはブレードにライトニングを纏わせ、目にも留まらぬ速さでヘデルム団長の心臓目掛けてブレードを突き刺した。
ブレードはヘデルム団長のライフル弾をも弾き返す鉄壁の鎧を貫通し、心臓を貫くと同時にヘデルム団長の全身に強い電流が走った。
「グゴァァァ!」
ヘデルム団長は心臓を潰されただけでは死なず、首を撥ねる必要がある。
ヘデルム団長は感電して身動きが取れなくなり、エリックは胸からブレードを引き抜いてブレードを思い切り振って首を撥ねた。
撥ねられたヘデルム団長の首は、ボトリと地面に転がり落ちた。
「全員突撃! 残りを掃討しろ!」
ウィリアムが大声で指示した。
一同は銃を構えた状態で突撃し、残りのデーモンナイトに鉛弾を食らわせた……
悪魔騎士団を殲滅した傭兵達は、洞窟内部に設けられた牢にすし詰め状態で捉えられていた捕虜達の救出にあたった。
素早いピッキングで牢の鍵を開け、捕虜達を外に出した。
治療が必要な者にはヒール(治癒魔法)で応急処置を施し、捕虜達は傭兵達に護衛されながら洞窟を出た。
「傭兵連中に助けられるとはな……」
捕虜の一人が弱々しく言った。
「傭兵だって捕虜は助けるさ。
俺達みたいな民間の傭兵の仕事は、魔物退治、人殺し、人助け、物資の回収などだ。
それが俺達の生き甲斐であり、ビジネスなのさ」
ラインハルトが微笑しながら返した。
「軍人と傭兵は、似てるようで似てなくて、似てないようで似てる。
そしてこの2つの職業は、これからも無くなることは無いさ……」
イリアが呟いた。
一行は救助部隊に捕虜達を救出させる為、アルティミール陸軍が指定したLZを目指して、周囲を警戒しながら森林の中を進んだ……
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