第6話 見習いシャーマンの初戦闘

 自分がスピリットシャーマン、アクアシーフの生まれ変わりであると知り、ナチュラルトレジャーとファイヤーファントムの一族、そしてヨキとマリを探す旅に出たケイとヒバリ。

 ケイはヒバリの両親から受け取った巻物に書かれている事を確認しながら、スピリットシャーマン共通の法術と、アクアシーフのみ使える法術と呼ばれる術を使いこなせるように練習をしていた。


 だが、生まれ変わりというのが原因か何度やっても失敗ばかり。

 それどころか失敗する度に問題が起きていたため、ケイの旅に同行していたヒバリをも悩ませていた。

 ヒバリは故郷であるキザミの里で培った知識を活かして木の実や魚などを取っていた。


「フム、これだけ取れれば今日の食事には困らんでごじゃるな」


 一通り食料を見つけたヒバリがケイのもとに戻ろうとしたその時だった。


『ドカーンっ!』


「ぬぉっ! この爆発音は…」


 突如聞こえた爆発音に聞き覚えがあったヒバリは急いでケイの元まで走ると、そこには煙にまみれたケイがいた。

 煙にまみれたケイは思わず煙を吸い込んで咳込んでいた。


「げほっげほっごほ! なんでこうなるんだ~?」


「ケイ、また失敗したでごじゃるか?」


「あぁヒバリ、それがどうも上手くいかないんだ。ちゃんと書いてある通りにやってるんだけどさぁ、書いてある通りにするだけじゃダメなのかな?」


「まぁ一旦休憩するでごじゃる。食料も見つけたでごじゃるし、腹が減っては戦はできぬでごじゃるよ」


 ケイはヒバリの言われた通りに一旦休む事にした。

 主にヒバリが探してきて来た食糧を調理し、ケイが斧になった水の礎で薪を割って火を起こしていた。

 ヒバリは簡単に魚を捌いてそれを串に刺して焼いて行く。

 ケイはヒバリの手際の良さに、不思議に思った。

 何故こんなに簡単にできるのか聞いてみる事にした。


「なぁヒバリ、なんでこんなに簡単にできるんだ?」


「昔、仲間と一緒に旅をしていたでごじゃる。その際色々と事件が起きていたでごじゃるが」


「へえ~、大変そうだな。お前ただでさえチビなのに」


「おのれ! せっしゃを愚弄する気か⁉」


「わぁーっ!」


 うっかりヒバリを怒らせてしまったケイは、刀を振り回すヒバリに逃げ惑っていた。

 ヒバリはからかわれるとすぐに怒って刀を手に取り振りまわし、ケイは別にそんなつもりで言った訳ではないが、何故かいつもこうなってしまうのだ。

 しばらくして落ち着いたヒバリは刀をしまい、二人は腰をおろして食事を始める。


「それにしてもケイ、まだ法術を使いこなせないでごじゃるか?」


「うん、なんで爆発するのかなぁ?」


 ヒバリに言われたと負い、ケイはまだ法術を使いこなす事ができないでいた。

 キザミの里から旅立ってからしばらくして、ケイはシャーマン共通の法術であるスマッシュ・スマッシュの練習を始めたのだが、スマッシュ・スマッシュと唱えた瞬間、何故か爆発したのだ。

 ケイとヒバリは最初何が起きたのかわからず呆然としていたが、ケイが発動させた法術が爆発したのだと気付いた時には酷く驚いていた。


 ケイは何度も何度も巻物に書いてある通りにやっているのだが、失敗する度に爆発するというよく解らない事が起きていた。

 無論、ケイがわざとやっている訳ではないのだが、ケイが法術を発動させる度に爆発してしまうのだ。

 何より爆発音が大きい、こればかりはどうする事もできず、頭を悩ませていた。


「このままヘルシャフトと接触したら不通にヤバイよな? 発動した途端爆発して俺にダメージいく訳だし」


「それ以前に無関係な人々を巻き込みかねないでごじゃるぞ。

 一昨日立ち寄った町では既に騒ぎになったでごじゃるし、セッシャはそちらの方が心配でごじゃる」


「そうだった」


 ケイは法術を使いこなせないままヘルシャフトと接触すると太刀打ちできない事を危惧していたが、ヒバリは違う意味で心配していた。

 二日前に小さな町でヒバリが必要な物を買いに行っている間、ケイが法術の練習をしてるとまたしても失敗し、その時近くにいた町の住人を何人か巻き込んでしまったのだ。

 幸いにも怪我人も出ず、ケイの事はバレなかったがヒバリに叱られた事に変わりはない。


 『人がいない所でやるように』と、ヒバリに言われているため人がいる場所についたとしても法術の練習はできない。

 仮に使えたとしてもそれはヘルシャフトが現れた時だけだと思われる。

 法術をまともに使う事ができない今のケイでは、ヘルシャフトに太刀打ちできないだろう。

 食事が終わり、後始末をした後ケイとヒバリは再び歩き始めた。


「とりあえず、今は東に進んでるけど次は何処に向かう? 俺個人としてはヨキとマリの情報が欲しいんだけど」


「それも大事でごじゃるが、スピリットシャーマンの丈夫を集める事も大事でごじゃる。

 今セッシャ達がいる位置だと南東に進んで三刻さんこくの所に少し小さな街、このまま五刻ごこく歩いた所に町があるが、どちらも一度着くと、もう一つの方に行くには一週間と二刻にこくは掛かる距離があるでごじゃるよ」


「ん~、少し選択が難しいなぁ。とりあえず中間地点的な場所まで行ってからどっちに行くか考えようぜ」


 ケイ個人としては行方不明のヨキとマリの情報が欲しかったが、ヘルシャフトがいつ襲ってくるかもわからない状況であるため、自分以外のスピリットシャーマン達の情報も手に入れる必要があった。

 そのため南東の街か東の町、どちらに向かうべきかヒバリと話し合う事にした。

 それから数重時すうじゅうどき経った後の事だった。


 南東の町と東の町から距離が近い中間地点に着いたが、結局のところ、どちらに行くか決める事ができず、次の日にもう一度話し合う事になった。

 ケイとヒバリは野宿をする準備を始めていた時に、何処からともなく炎が発生し、ケイとヒバリを襲ったのだ。

 襲い来る炎から間一髪逃れたケイとヒバリは、お互いに背中合わせになって周囲を警戒し始めた。


「なんでごじゃるか⁉ 炎がせっしゃ達を襲って来たぞ!」


「今の炎、見覚えがある! あれはヘルシャフトの炎だ‼」


 自分達を襲った炎がヘルシャフトの物だと見抜いたケイは周りを見渡し、ヘルシャフトの姿を探した。 案の定、ヘルシャフトは空中を飛んでいた。


「お前、ヘルシャフトだな⁉」


「貴様には関係ない。その斧を渡せ」


 ケイとヒバリを襲ったヘルシャフトの目的はケイが持つ斧だった。

 ヘルシャフトがケイの斧を狙う理由はただ一つ、その斧はケイの前世であるスピリットシャーマン、アクアシーフが守っていた水の礎だったからだ。

 それはヒバリも知っている。だからこそ旅に出て強くなり、ナチュラルトレジャーとファイヤーファントムの子孫を探し出す必要があるのだ。


「こいつ、俺の村を襲った奴とは違うな。けど同じヘルシャフトって事に変わりはない!」


 ケイはヘルシャフトよりも先に攻撃を仕掛けた。

 無謀にもヘルシャフトに攻撃を仕掛けたケイだったが、空中を飛んでいるヘルシャフトにその攻撃が届く事はなかった。

 ケイが攻撃を仕掛けて来た事に驚いたヘルシャフトは、周りに炎を発生させ臨戦態勢に入った。


「貴様、世界を支配する者に逆らう気か⁉」


「当然だ! 俺の村を襲った事後悔させてやる! スマッシュ・スマッシュ!」


 ケイは先手必勝と言わんばかりにスピリットシャーマン共通の法術であるスマッシュ・スマッシュを使った。

 だが、先手を打ったつもりが、やはり法術の発動を失敗してしまった。


 それを見たヘルシャフトは最初こそ呆気に取られていたが、すぐさま我に返りケイへ攻撃を仕掛けた。

 スマッシュ・スマッシュの発動に失敗したケイは、ギリギリの所で攻撃を躱(かわ)すともう一度スマッシュ・スマッシュを唱えた。


「スマッシュ・スマッシュ! うわぁッ⁉」


 もう一度スマッシュ・スマッシュを唱えたが、やはり失敗してしまいその反動で爆発を起こしてしまった。

 ケイはスマッシュ・スマッシュと同時進行で練習していたカット・カットと呼ばれる、ヘルシャフトの攻撃を切り裂く法術を唱えたが、それさえも失敗してしまった。

 法術が使えないのではヘルシャフトを倒す事はできない、その事実がケイを焦らせていた。


「法術を使えないとは、案外シャーマンもたいした事はないな」


「くっそー、こんな時に限って法術が使えないんじゃ意味がない! どうすればいいんだ⁉」


 ケイがスピリットシャーマンでありながら、法術を使う事ができないと知ったヘルシャフトは容赦なく炎での攻撃を仕掛けた。

 ケイとヒバリは空中から襲ってくるヘルシャフトの炎を躱すが、ヘルシャフトの炎から発せられる熱風で少なからずダメージを受けていた。


 ただでさえヘルシャフトに襲撃されピンチだというのに、法術を上手く発動できず焦るケイ。

 するとヒバリが急にこんな事を言い出した。


「ケイ! ここはせっしゃに任せてまだ使ってない法術を使うでごじゃる!」


「えっでも俺、スマッシュ・スマッシュもカット・カットもまだ使えてないんだけど⁉」


 ヒバリに今まで使った事がない法術を試すように言われたケイは、スマッシュ・スマッシュとカット・カットが一度も成功していないという理由もあり他の法術を使う事を躊躇っていた。

 一度も法術が成功していないという事はヒバリも理解している筈だが、ヒバリには考えがあった。


 キザミの里から出てからケイは、スピリットシャーマン共通の法術であるスマッシュ・スマッシュとカット・カット以外の法術を使っていなかったため、これまで一度も使った事がない法術の中に使う事ができるものがあるのではないかと考えたのだ。

 しかしそれは賭けに近い事であり、現在進行形で危険な状態になっている以上、ヒバリはそれに掛けるしかなかった。


「議論の時間はない、早く!」


「ヒバリ……分かった! 無茶すんなよ!」


「言われずともわかっておる。渡野ツバメ、参る!」


 ヒバリに他の法術を試すよう言われたケイは、覚悟を決めて巻物がある鞄の元に向かった。

 ケイに他の法術を使うように言ったヒバリは、少しでも時間を稼ぐためにキザミの里で身に着けた忍びの技を使いながらヘルシャフトに立ち向かう。


 キザミの里から持ってきた手裏剣をヘルシャフトに向かって投げつけ牽制し、ヘルシャフトがケイの元に行こうものなら近くの木を利用して接近し、刀で斬りかかったりもした。

 だが力の差はヘルシャフトの方が上である事に変わりはない。


(初めての交戦でこれだけの差、やはり一筋縄ではいかぬか。

 だが、ここで引く訳にはいかぬ!)


 ヘルシャフトとの実力の差があろうとも、一人で時間稼ぎを引き受けた以上ヒバリは怯む事はなかった。

 ヒバリに他の法術を試すように言われたケイは、スピリットシャーマン共有の法術とアクアシーフのみが使える法術が記されている巻物を手に、どの法術を使うべきかで悩んでいた。


 普通の人間であるヒバリが時間を稼いでくれているが、力の差は明らかにヘルシャフトの方が上であるため、そう長くは持たないと思ったケイは余計に焦っていた。


(ヤバイヤバイヤバイヤバイッ! 急いでどの術使うか決めないとヒバリが持たない!

 でも他の術を使ってまた爆発しても意味ないし、どうすりゃいいんだ⁉)


 一刻も早くヒバリの元に戻らなうてはいけないと考えていたケイは、急いで試していない術を探していたが、他の法術を使ってもまた失敗してはいけないというプレッシャーから頭が回らなかった。


(ヒバリの親父さん達が言う事が本当なら、俺はアクアシーフの生まれ変わり。

 なのになんで法術が使えないんだ⁉)


 アクアシーフの生まれ変わりである筈の自分が、何故法術を使う事ができないのかわからなかった。

 その原因がわからないケイはどの法術を使うかで悩んでいると、不意に二つの法術が目に入った。

 その二つの法術を目にしたケイは、不思議とその二つの法術こそ、今の自分に必要なものである気がしたのだ。


「この二つなら、もしかして…!」


 使うべき術を見つけたケイは斧を手に、一人ヘルシャフトと戦うヒバリの元に走った。

 そしてヘルシャフトと戦っていたヒバリは辛うじて耐えていたが、所々火傷しており、体力も限界が近かったがヘルシャフトの方はまだまだ余裕といった様子だった。


「力なき人間にしてはたいした技量、先程のシャーマンよりはマシか。人間、オマエの技量を認め、我らの駒として働いても構わないぞ?」


「お褒めに預かり、恐悦至極。しかし、セッシャはお主らの元に着くつもりはないでごじゃる」


 ヘルシャフトに自分達の配下にならないかと誘われたヒバリだったが、その気はないと断った。

 自分からケイに他の法術を試すよう言った手前、ヘルシャフトの配下になるという事はケイを裏切る事になってしまうのだ。

 何よりヒバリは、ケイの事を信じていた。

 そして、ヒバリが待ち望んだ時が来た。


「ヒバリーッ! 離れろーっ!」


 背後から聞こえて来たケイの声に反応したヒバリは、すかさずその場を離れた。

 そしてケイは斧ヘルシャフトに向け、ある法術を唱える。


「キャノンズ・キャノンズ!」


 そう唱えた次の瞬間、斧から水の塊が出て来たと思いきや、そのまま水は大砲のように放水された。

 ヘルシャフトはケイが法術を使えないと思い込んでいた事と、ヒバリとの戦いで完全に油断し切っていたため、ケイの攻撃は見事ヘルシャフトに命中した。


 キャノンズ・キャノンズは見た通りかなりの威力があったらしく、キャノンズ・キャノンズを受けたヘルシャフトは空中で悶えていた。

 それを見たケイは、チャンスは今しかないと思い至り、もう一つの法術を唱えた。


「今だ! チェック・ダ・ロック!」


 チェック・ダ・ロックと唱えたソラは、ヘルシャフトに向かって斧を投げると同時に斧が光始め、斧から輝く水が溢れ出した。

 それを見たヘルシャフトは斧から逃げようとしたが、先程受けたキャノンズ・キャノンズのダメージが残っていたため上手く飛ぶ事ができず、そのままヘルシャフトは光り輝く水に包み込まれた。


 ヘルシャフトはそのまま宝石になって斧と一緒に地面に落ちた。

 それを見たケイとヒバリは、恐る恐る地面に落ちた斧と宝石に近付き、斧と宝石を拾い問題がない事を確認すると漸くヘルシャフトに勝つ事ができたのだと実感した。


「やッた―っ! ヘルシャフトに勝ったぞーっ!」


「やったでごじゃるな、ケイ!」


 初めてヘルシャフトに勝った喜びを噛み締めるケイとヒバリ。

ヘルシャフトに勝った喜びを分かち合っていると、喜んでいるヒバリの顔に何かが被さった。

 それは風で飛んできた新聞の端きれだったらしく、顔に被さった新聞の切れ端を手に取ったヒバリは書かれていた内容を見て驚き、新聞の切れ端をケイに見せた。


「ケイ! これを見るでごじゃる!」


「え? えーっと何々、『レイトゥーンに謎の幻影使い鬼女現る!』…ってもしかしてシャーマン⁉」


 ヒバリがケイに見せた新聞の切れ端に書かれていたのは、南東の街レイトゥーンに幻影使い鬼女が現れるという記事だった。


 その記事を見たケイは、記事に書かれている鬼女の正体が自分と同じスピリットシャーマンの仕業ではないかと考えた。

 ヒバリも同じ事を考えたからこそ、新聞の切れ端をケイに見せたのだ。

 その新聞の切れ端に書かれた記事により、ケイとヒバリが次に向かうべき場所が決まった。


「次の目的地は南東にあるレイトゥーンで決まりでごじゃるな」


「あぁ! よーし頑張るぞーっ!」


 思わぬ形でスピリットシャーマンの情報を手に入れたケイとヒバリは、南東に進んだ先にあるレイトゥーンと呼ばれる町にいるスピリットシャーマンの可能性がある人物の情報を手に入れるため、次の目的地をレイトゥーンに決めた。



*****



 山と山には触れた川沿いの道、渓谷けいこくと呼ばれる場所を歩くマリ。

 マリは周りに注意しながら警告を進んでいると、不意にケイの声が聞こえたような気がして立ち止まり、振り返った。


「ケイ…?」


 しかし、背後には誰の姿もなく、自分の気のせいだったのだろうかと不思議に思っていると、マリの元にケイよりも小さい少年が駆け寄ってきた。

 ヨキとケイと引き離されたマリは、二人の少年と行動を共にしていた。


「どうしたマリ?」


「ううん、なんでもないわ。なんかケイの声が聞こえた気がしただけ」


「チッ、さっさと行くぞ」


「あっ待てよ!」


 立ち止まったマリと小さな少年よりも先に進んでいたマリと同年代の少年は二人に声を掛けると、自分はそのまま先に進んでしまった。

 それを見た小さな少年は慌てて少年を追いかけ、マリはそんな様子を笑いながら再び歩き出した。

 マリもまた、離れ離れになったヨキとケイに会うために少年二人と共に旅をしていたのだ。

 必ず二人に会える、そう信じて…。

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