イケメン社長を押し倒して…★

青海

第1話 入ったばかりの会社には懐かしいイケメンメガネクンがいましたとさ★

 「今日から入社しました、あさかわですっ。よろしくどーぞっ★」

 

 配属された部署で適当に挨拶をした。


 生きるためには働かなければならない。

 

 特に仕事にはこだわりは無かったし、働いた分給料が貰えればそれでよかった。


 とにかくやるべきことをやるだけだ。

 

 そこには自分の感情なんて必要ない。



 今までそう思ってやってきたし、これからもそうだろう…。



 ★



 「浅川さんこの机使って。」


 配属先の課長に言われて席の横に立つ。


 課長は私の席の隣に座っていた女子社員に声を掛けた。


 「水野さん、浅川さんの事頼んだよ?」


 そう言って課長は去っていった。


 …水野さんか…。


 その名前…懐かしいな…。


 何年かぶりに懐かしい、何だか甘酸っぱい様な気持ちになってしまう。


 …って今は思い出に浸るのはよそう。


 新しく仕事を教わる先輩にきちんと挨拶…。


 「浅川さん?」

 

 水野さんと呼ばれた女子社員は私の名前を呼ぶ。


 はいはい、私が浅川ですよ~。


 「って水野さん!?」


 思わずその子の顔を二度見、いや三度見する。


 「ウソっ…何でここにっていうかラッキーっ★」


 私は水野さんに思わず抱き着く。


 「んっ…浅川さん落ち着いてっ…。」


 水野さんが真っ赤になった。


 …相変わらずかわいい子ね…。


 深呼吸して水野さんの隣の席に座った。





 -水野 泉。


 私と同い年で今年24歳になる。


 確か学生時代は青海君って男の子にべた惚れで、青海君も水野さんの事が大好きだったはずだ。


 でも水野さんがまだ水野姓ってことは…。


 「青海君やっぱり水野さんにフラれちゃったのね。まあ青海君水野さんを好きな事と顔が良いってこと以外取柄なさそうだったし…。じゃあまだ私にもチャンスあるわねっ★ねえ水野さん私と付き合って?」


 驚いたような顔の水野さんだったが、困った様に微笑んで手帳を見せてくれた。


 

 「透とは四年前に結婚して…透が水野の籍に入ってくれたの…。」


 …手帳の最後のページはクリアケース仕様になっていて、そこには今より少しだけ若い水野さんと憎たらしいくらい幸せそうな顔をした透クンの結婚式らしい写真が挟まれていた。


 「…そう。もう水野さんも人妻なのね…。」


 …少し切なくなった…。


 …そうか…もうあれから六年も経ったのね…。


 

 

 高校時代の懐かしい思い出が蘇ってくる…。


 乾いた土のグラウンドの匂い。


 武道館のしんと静まり返った空気に、あいつの真剣な眼差し…。


 不意に胸に鈍い痛みが走り、それ以上思い出すなと警告された…気がした。


 

 それでもどんどん脳は勝手に記憶の引き出しを漁り、水野さんによく似たあいつの横顔やら笑った顔など鮮烈に想いださせてくる…。


 …もう六年も経ったし、あのイケメンぶりじゃあ女の子なんて選び放題。


 …もうとっくに結婚してるんだろうなあ…。


 

 「浅川さん?」


 水野さんが心配そうに顔を覗き込んでくる。


 「ううん。何でも無いわ。仕事しましょっ。何から始めたらいいの?」



 ★



 水野さんは良い先輩だった。

 

 相変わらず優しいし教え方もうまい。


 何よりも美人で可愛いし…。


 あっという間に時間は過ぎて、今日は定時で退勤することになった。


 

 「せっかく水野さんに仕事教えて貰えて幸せだったのに…。あっという間だったな…。ねえ水野さんっ、これから呑みに行かない?今日は二人っきりで私の歓迎会してっ?」


 「えっ…ごめんなさいっ…今日はもう透がご飯作ってるから…。また今度にでも…。」


 …透クンなんて一人でご飯を食べればいいのよ。私の水野さんと結婚したくせにっ…。


 「今日行きたいのにっ!水野さん…どうしても…ダメ?」


 「んっ…でもっ…。」


 水野さんが困っている。


 でも困っているってことは…もう一押しすれば…。



 「泉透が待ってるだろ?早く帰ってやれよ?」


 頭上から声が降ってくる。


 慌てて振り返る。


 「…ウソっ!?」

 

 「お前相変わらずだな…。」


 ふっと笑うイケメンメガネ…。


 …昔よりは少し歳をとったけれど、やっぱりイケメンの彼が立っていた…。



 


 

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