氷晶シミュラークル
剣之 千
プロローグ
終わりにしたいと思っていた。
大切な人を失ってから、それはもう、ずっと、ずっと。
かつて四公国を従えた帝国であったアトランティス。
その力は衰え燻り、けれどもまた帝国として返り咲くことを目論んでいる。
そのアトランティスに生まれた唯一の姫君は、奇しくもその国を象徴とする氷の能力を持っていた。
張り巡らされた緊張の糸は少女の意志とは関係なく、公国のため、民のため、張り詰めていく……。
終わりにさせて欲しいと思っていた。
終わらせることを許して欲しいと思っていた。
だからこれは国と共に滅びゆくなんて、そんな酔狂なことではなくて。
ただの逃げなのだ。
やっと、終われる。
そう思った瞬間、胸の中に生まれたのは確かな安堵。
やっと開放されるのだとそう思った。
裏切りだと自嘲する。
最後の最後まで嘘に塗れた本心は、気付かれることなく、悟られることなく、私は罪を抱いたまま、大きな波に飲み込まれ沈んでいった。
氷晶シミュラークル
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