第11話 レオ エンド

 専科の授業は薬草の苗を一から育てる授業。レオ様は土弄りを率先し、薬草の苗を植えている。


 私もお庭で庭師に教わりながら植物を育てているので、忌避感なく植える。どうやら他の貴族達は土を弄らない人も多く、嫌な顔をしながら植えている様子。


「ルナは平気なんだな。虫等、平気なのか?」


「虫は苦手な方ですわ。でも、畑のミミズ等益虫も沢山居るわけですから苗を育てる上で大切にしないといけないと思っていますわ」


「そうか、帰りに植物園へ行かないか?今、珍しい薬草も栽培されているらしい」


「是非、行ってみたいですわ。植物園には行った事が無かったのです」


どんな植物があるのだろう。ワクワクしながら授業を終えると、レオ様と一緒に馬車に乗り込む。レオ様は馬車内で珍しく家族の話をしてくれましたわ。


 レオ様は小さな頃は医者のお父様とともに他国に薬草を求め、手伝いをしていたそう。だから薬草に詳しいのね。


 馬車は植物園へ到着する。植物園内はガラスのドームで作られており、外より少し蒸し暑い。レオ様は着込んでいるジャケットを脱ぎ、シャツで歩く。シャツの袖を捲るその仕草にドキドキしてしまうわ。


レオ様はやはり植物に詳しく、色々な話をしながら見て回った。


沢山歩き、中央の花の広場にあるガゼボで休憩していると、誰かが険しい顔で走ってくる。


「レオ様!探しました。オリバー様からここに来ていると聞いたので。すぐに屋敷にお戻り下さい。オーロラ様が婚約者のレオ様を呼べと騒いでおりまして…」


従者と思わしき人物は私を見ると、口籠ってしまった。レオ様には婚約者がいたのね。


「レオ様、私の事は気にせずお帰り下さい。婚約者の方が待っているのでしょう?私は辻馬車を拾って帰りますわ」


「ルナ。俺と一緒に付いてきてくれ」


レオ様は私を連れて馬車に乗り込み、急いでいる様子。


馬車の中では隣に座っているレオ様は終始無言でした。彼をよく見ると眉間に皺を寄せてなんだかイライラしている様子。でも、何故だか私の腰に手を回してガッチりホールドしていますわ。

 

馬車のスピードは速く、私が転がらないためなのでしょうか。


 侯爵邸に到着すると、玄関では従者が言っていたオーロラという女が騒いでおり、執事服の男性が対応している状態でしたわ。


馬車を降りてからも相変わらずレオ様は私の腰に腕を回し、密着したままエスコートされています。


「今戻った。ローマン状況を説明しろ」


「はい。レオ様。先程、オーロラ様がいらっしゃいました。邸の中へ入れさせろ、私はもうすぐレオ様と結婚するのだから、と言い張り、従者では止めきれずに玄関まで侵入を許してしまいました」


執事のローマンがレオ様に説明していると、レオ様に気づいたオーロラが駆け寄ってきた。


「待っておりましたのよ。レオ様!一緒に中庭でお茶しましょう?隣の女は誰ですか?その女は!私という婚約者が居るのにも関わらず。不貞は許しませんわ!!」


オーロラは大声でそう言うと、私に掴みかかる勢い。

何がなんだか私には分かりませんが、何だか怖いです。私は一歩下がり彼女から距離を取ろうとしましたが、レオ様はそっと私を抱き寄せ頬にキスし、そのまま頬擦りをしました。


私、パニックですわ!


「オーロラ、言っておくが、お前はただの幼馴染みだ。婚約者になった事も、なるつもりもない。俺の婚約者は隣にいるルナだけだ。分かったなら出て行け。金輪際関わるな」


いつになく鋭い視線でオーロラを見るレオ様。オーロラが怯んだ所をすかさずローマンが屋敷から追い出した。


…今気づいたけれど、もしかして先程追い返された令嬢はオーロラ・ベネット伯爵令嬢だったのかしら?会った事はないけれど、貴族名鑑に載っていた気もしますわ。


それよりも、


「あ、あの、レオ様?お離し下さい?」


「ん?あぁ。嫌だが?」


こんなにも男の方に密着された事はない。私、恥ずかしさのあまり頭から絶対湯気が出ていますわ。


「レオ様、お嬢様を離したくないのは分かりました。ですが、お嬢様は困っておられます」


執事が私とレオ様に割って入ると、明らかに不満そうな顔をしているレオ様。


「レオ様が大切にしているお嬢様、お名前を伺ってもよろしいですか?」


「私、ラスク・ブラウン公爵が娘、ルナ・ブラウンですわ」


「ブラウン公爵令嬢様でしたか。なんて素晴らしい。レオ様にようやく春が来たのですね。私、この屋敷の執事をしております、ローマンと申します。


ルナ様、サロンへどうぞ。先程は見苦しい所をお見せしてしまいました。邸へは、しっかりお送り致しますので、準備が出来るまでゆっくりとお過ごし下さい」


そう言うと、ローマンはレオ様と私をサロンへと案内し、お茶を淹れてくれる。


「レオ様?こんなに広いサロンですわ。隣に座らなくても良くないですか?」


「ルナの側に居たい。駄目か?」


私はレオ様の飾り気のないストレートな殺し文句にやられてしまいそうになる。


「レオ様、ルナ様が困っております。おやめ下さい」


見かねたローマンが注意を促すけれど、全く聞く気はないみたいですわ。


「俺は、ルナの婚約者になると決めた。ルナの側に居たい。ルナは隣でずっと笑ってくれるか?」


「私、レオ様の隣に居ても良いのですか?これからもずっと」


「あぁ。ずっと側にいて欲しい。ルナ、好きだ」


レオ様の告白にローマンが涙してますわ。


えっ!?ローマン!?


私の嬉し涙ではないですわ。つい、二度見してしまいました。どれだけローマンは苦労してきたのでしょうか。ふと思ってしまいましたわ。


でも、私もレオ様と一緒に居たいと感じた心に偽りはありませんわ。


レオ様は私の邸まで送って下さった足で、そのままお父様に会い、婚約の許可をいただきました。


 後日、正式な書面を交わし、レオ様と婚約した事を発表しました。


婚約を発表した次の日に学院へ登校。クラスの方々に婚約した事を告げました。リーヴァイ様やセオ様は、私にプロポーズする前にレオにしてやられたと言っていましたが、クラスのみんなと一緒に祝福して下さいました。私、とっても幸せですわ。


その中に祝福の声とは違う、どこかざわざわと騒然とした声が上がり、その中の1人の声がどんどん近づいてくるように感じる。


「レオは私と婚約しているのよ!レオ、私が迎えにきたわ!!」


声の主を確認しようと振り向くと、その声の主はオーロラ嬢であり、そしてその手にはナイフがギラリと光っていた。


瞬時に私の近くにいたリーヴァイ様がオーロラ嬢を取り押さえるが、ナイフは既に手元から離れていた。ナイフは投げられ、咄嗟に庇うように出た私の左前腕にざくりと刺さった。


「あぁっ」


私はナイフが刺さった腕を見て動揺と混乱した。

あぁ、痛い。


痛みと共に刺された事を理解できたわ。ナイフが自分に刺さっている事実に卒倒しそうになる。


でも、興奮して痛みの少ない間にナイフを抜き取らないと。混乱しながらも何処か冷静な自分がいて、ぐっと力を入れてナイフを引き抜く。痛い。やっぱり痛いわ。


「はっ、早く止血を…」


ナイフを抜き取ると血がぼたりぼたりと溢れ出してくる。私の血だらけの手は震え、なんとかポケットから出したハンカチを腕に巻こうとするが、上手く巻けない。


「貸せ。少し痛むぞ。」


レオ様は傷口を止血するようにキツくハンカチを結ぶ。ううっ。痛いわ。痛いだけで済んでいる。毒は塗っていないようで良かったわ。


ホッとして床に座り込んでしまったが、どうにも立てない。冷静に努めてはいたつもりだったけれど、やはり興奮していたせいかしら。


オーロラ嬢が何が叫んでいるわ。


リーヴァイ様がオーロラ嬢を締め上げ、セオ様が守衛を呼んでくれているわ。あぁ、レオ様に何も無くて良かった。


スッと意識が遠のいていく。





気づけば医務室のベッドで寝ていた。


「起きたか。心配した。俺の側から離れるな」


レオ様はぎゅっと抱き締めてくれました。どうやら私は気を失って医務室へと運ばれたみたい。左前腕には包帯が巻かれている。医務室で取り替えてくれたのね。


その日は邸へと帰ると、お兄様もお父様も凄く心配してテラはずっと泣いていたわ。


傷物になってしまった。


学院は騒動のため、数日休校となった。学院で起こった事件はさすがに揉み消す事はなく、オーロラ・ベネット伯爵令嬢は公爵令嬢の殺害未遂と傷害罪で捕まった。


私の前腕部の刺された個所はすぐさま止血したためか治りは悪くなかったけれど、悲しい現実に気づく。



…左前腕は傷も残り、手は動くが上手く力が入らない。



悲しくて何度も泣いたわ。だって、傷物になった私は婚約破棄されるかもしれない。そして、左手に力が入らないと医務官として働くのも危うい。


「テラです。ただ今、レオ様がお見舞いに来られました」


…きっと、婚約破棄を告げに来たのね。


「ルナ。気分はどうだ?目が赤い。泣いていたのか?オーロラの事はすまなかった。邸に侵入した時に追い返すのでは無く、衛兵へ突き出して牢に入れておけば良かった」


「レオ様。単刀直入に聞きますわ。今日は婚約破棄を言いに来たのですか?…私、あれから左手に上手く力が入らないのです。傷物だし、医務官にもなれない。私、覚悟は出来ておりますわ」


自分で言いながら悲しくて涙が出てしまいそうになる。


「目を赤くしている理由はそれか?俺は言った筈だ。『俺はルナがやりたい事を優先させる。だからいつも俺の側にいて笑ってくれ。』と。


俺はルナと結婚する。左手が上手く動かなくても薬草は育てる事ができるし、薬を作る事も可能だ。何の心配もいらない」


レオ様がギュッと強く抱き寄せ、キスをする。


「これ以上、婚約破棄と涙するなら卒業を待たずに今から既成事実を作る。それだけだ」


!!!


「涙も引っ込みましたわ。わ、私、レオ様の側にずっと居ていいのですか?」


「あぁ。いつもルナが側にいてくれないと困る」


「はいっ。レオ様が嫌だって言うまで側にいますわ!」


そう言ってレオ様に私から抱きついてキスを一つ。




今度は幸せの涙が出てしまいました。


私、幸せ者ですわ。


【レオエンド完】


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レオ様の話は分岐前は少なかったため、分岐後に増やしてしまいました。

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