第2話
目を開けると、見慣れたいつもの私の部屋。どうやら私は倒れてしまい、部屋に運ばれたようですわ。
どれくらい気を失っていたのかしら。窓に視線を向けると陽の光は消え、辺りはすっかり暗くなっているわ。私は身体を起こすと、私のベッド脇で椅子に座り待機していた侍女のテラが心配そうに手を握りしめてくれます。
「お嬢様、気が付かれましたか。大変でしたね。今、お飲み物をお持ちしますね」
テラが立ち上がり、飲み物を用意していると扉がノックされた。
「ルナ、気が付いたかい?」
「…アーロお兄様」
お兄様がそっとベッドに腰をかけ、優しく私の頬を撫でる。
「楽しみにしていたルナの誕生日がアイツの所為で台無しになってしまったね」
「アーロお兄様。あっ、あの後、パーティーはどうなってしまったのでしょうか?」
「アイツとあの女はモリス伯爵が引き摺るように連れて帰ったよ。パーティーはお開きとなった。良い土産話が出来たのかもね。でも出席者の殆どは倒れたルナの事を心配してくれていたよ。
あの二人のお陰でパーティーがお開きとなってしまったし、その辺はきっちり落とし前は付けてもらわないとね。ああ、ルナは何も心配しなくていいからね」
お兄様の話を聞いている間にも先程の出来事を思いだし、いつの間にか涙が頬を伝っていた。私の誕生日だった。なのに、ウィル様とシャロン嬢は私に見せつけるように。
何故、彼はあの場を選んだの。
彼は私の心を踏みつけても良いと思っていたの?
曲がりなりにも一緒に過ごした年月は何だったのでしょう。
親同士が決めた婚約とはいえ、一緒にお茶をしたり、街へ出かけたりして恋人のように感じていたのは私だけだったと思うと息が出来ないほど辛く、苦しいです。
幸せだと感じていた日々と男爵令嬢と肩を抱き、見つめ合う姿が交互に押し寄せるように思い出され、苦い思いに心が潰されそう。
「お兄様。私、少し疲れたみたいですわ。お休みしてもよろしいですか?」
「ああ、ごめんね。ルナ、顔色が悪いな疲れただろう。少しお休み。ルナが心配する事は何にも無いからね。大丈夫。父さん達には話をしておくよ」
お兄様は私の涙を優しく拭うと、微笑んで部屋を後にした。
辛い。苦しい。
全てを忘れてしまいたい。
嘘だと思いたい。
それから思い出す度な涙が止まらず、嗚咽を上げて泣き、涙も止まった時には疲れ果て何も考えられずにベッドに佇み、気づけば丸2日は経っていた。
何とも形容し難い徒労感に苛まれる。
お医者様が呼ばれ、家族は心配そうに私を見つめていました。
「過度の心労があったようですな。今は栄養のある物を食べ、ゆっくり養生するように」
お医者様はそう告げると、薬を侍女に渡して帰って行った。
「お父様、ウィル様との婚約はどうなりましたか?」
「ウィル・モリス伯爵子息との婚約は白紙になった。破棄でもよかったんだが、それではルナに傷がついてしまうからな。ルナが心配する事はないぞ?大丈夫だ。当分はゆっくりするといい」
そう言って父は私を元気付けようと明るく振る舞いながら話をし、部屋を出て行く。
父が部屋を出た後、また1人残された部屋で悲しいと感じないのに一人になると気づけばまた涙が出ている。こんな事では駄目だと思うのだけれど、上手く身体が動いてくれないの。
そんな日が続き、家族が心配して何処へ行くにも付き添ってくれています。みんなに心配ばかり。ずっと心配かけてばかりもいられないですわね。
早く気持ちを切り替えて前向きにならねばなりませんね。来月から始まる学院の準備を始めようかしら。テラに手伝ってもらいながら制服を一人で着る練習をしたり、学校へ入って困らないように予習したりと、この2ヵ月を過ごしましたわ。
家族や使用人達の支えもあり、自分でも気持ちの整理が日を追うごとに出来たのか、忙しくしていたおかげか気持ちも幾分、上向きとなりました。
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